9月28日(現地時間)、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は本拠地レアレ・アレーナでバレンシアを3−0で下している。ヨーロッパリーグ(EL)を含めて、6試合勝ち星がない苦境だった。じんわりと危機感が生まれていただけに、ようやくひと息つけたといったところか。

 前半8分、久保建英は狼煙を上げる先制点を決めている。ラ・レアルに入団して3シーズン目、彼がゴールを決めて負けた試合はひとつもない。それどころか、18得点で17勝1分けと、ほとんど"勝ち神"だ。


バレンシア戦で先制ゴールを決めた久保建英(レアル・ソシエダ) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 特記すべきは、得点シーンが鮮やかなコンビネーションだった点だろう。

 自陣のビルドアップからマルティン・スビメンディが相手を軽やかに外し、左サイドのアンデル・バレネチェアにロングパス。バレネチェアは間髪入れず、裏に走り込んだセルヒオ・ゴメスに通す。セルヒオ・ゴメスは左足で折り返すが、ミケル・オヤルサバルが相手をしっかりニアに釣り、ファーの空いたスペースに久保が走り込む。久保は、見事に名手ギオルギ・ママルダシュビリが守るゴールを破った。

 リードしたラ・レアルは終始、優勢に試合を進め、完勝を収めている。なぜ、ラ・レアルは窮地を脱することができたのか?

 久保の役目に関しては、筆者がずっと主張している点がある。

「Tirar del carro」

「荷車を引く」という意味だが、転じて、一番難しい仕事を引き受ける、先頭に立ってやる、というエースの働き、リーダーシップを意味している。これこそ、久保に求められる働きだ。世間では「ひどいチームだから久保はもっと実力に見合うところに行ったほうがいい」などと適当なことも言われているが、そんな"日和った"考え方でやっていけるほど、ラ・リーガは甘くない。

 その点、久保自身は最近のインタビューでも、このフレーズを積極的に使っていた。彼自身は、周りの風潮などに流されていない。自分がすべきことを理解しているのだ。

「試合を決める」

 まさに、そのプレーが結果につながったが、勝利のリーダーシップが見えたのは得点シーンだけではない。

【得点後も攻撃を牽引】

 前半31分、久保は右サイドでセルヒオ・ゴメスとのパス交換でテンポを作っている。そこからカットインすると、左サイドでフリーになったバレネチェアにラストパス。バレネチェアの右足シュートはわずかに枠を外れたが、決定的な場面だった。

 そして33分、バックラインからスビメンディが中盤まで下りてきたオヤルサバルに縦パスをつける。オヤルサバルはこれを左足でフリック。そしてセルヒオ・ゴメスが左足で右サイドへ、ダイレクトに展開。これを受けた久保が切り込み、左足シュート。シュートは決まらなかったが、それぞれが左足で演出した連係で、ラ・レアルの真骨頂だった。

「より決定的で、連係に優れたバージョンの久保が戻ってきた。ラ・レアルは彼に感謝だ。サイドで質の高いクロスを入れるなど貢献が目立ち、ゴールも決め、もう1点を奪っても不思議でなかった」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、ほとんど手放しで久保を称賛していた。

 2アシスト(実質的には3アシストと言ってもいい)のセルヒオ・ゴメス、途中出場で2得点を挙げたオーリ・オスカールソンの活躍も朗報だったが、やはり1点目をこじ開け、チームに勢いをもたらした点で、久保は抜きん出ていた。得点後も攻撃を牽引。脅威を与え続け、バレンシアが久保番のディフェンダーをベンチに下げざるを得ないほどだった。ゲームMVPは当然の選出だ。

 開幕以来、ラ・レアルがうまくいっていなかったのは間違いない。しかし、ユーロや五輪に出場した選手の調整は難しく、プレシーズンでチームとして仕上げるのも遅れていた。「どこも同じ条件」と言うが、ラ・レアルは好結果を出していたことで、ビッグクラブ並みに選手が代表に選ばれ、さらに主力選手の放出もあった。何よりチームスタイルがコンビネーションを重んじるだけに、時間は必要だ。

 久保は地に足をつけてプレーすべきだろう。荷車を引いてこそ、価値が上がる。自ずと道は開ける。

 実際の話、スビメンディのようなプレーメーカーがいるチームがどれだけあるだろうか。GKアレックス・レミーロの足元も優れたゴールキーピングは極めて貴重である。オヤルサバル、ブライス・メンデス、ルカ・スチッチ、セルヒオ・ゴメスという優れたレフティを集め、そのコンビネーションを生かそうとしているチームがどれだけあるか?

 得点力に不安はあるが、そこは久保が勝利につながるゴールを決めるしかない。バレンシア戦で証明したように、それだけの連係は作れる。新加入のオスカールソンはウマル・サディクより可能性を感じさせる。

「ラ・レアルは久保とオスカールソンで甦る」

『アス』紙の見出しである。

 10月3日、ラ・レアルはEL第2節、本拠地レアレ・アレーナにベルギーのアンデルレヒトを迎え撃つ。年内は過密日程が続く。後ろを振り向いてはいられない。