チーム事情から見るドラフト戦略2024〜ヤクルト編

 プロ野球の一大イベント、ドラフト会議が10月24日に開催される。各球団すでに指名選手をリストアップし、最終段階に入っていると思うが、チームの現状と将来を鑑み、今回のドラフトで本当に獲得すべき選手は誰なのか? ヤクルトは2022年にリーグ連覇を果たすも、昨年、今年と最下位争いを演じるなど低迷。チーム再建をかけた今秋のドラフトで狙うべき選手とは?


アマチュアナンバーワン左腕の呼び声高い関西大・金丸夢斗 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【1位は絶対に即戦力投手】

 2021年に日本シリーズ制覇を果たし、2022年は2年連続リーグ優勝と、ついこの前まで我が世の春を謳歌していただけに、まだ当時の余韻が残っているのか......そこまで深刻な印象がないのは、私だけだろうか。

 以前は、ヤクルトファンだった。勝てば我が事のように喜び、負ければ地団駄を踏むなど、チームの勝敗に一喜一憂していたものだ。だが、こういう仕事に就いてからは、日に日にファン意識が薄らいでいき、おかげで今はフラットな目で、「負けたり、負けたり......」の毎日に向き合えるようになった。

 それはそれとして、今シーズンのヤクルトは中盤、いやヘタをするとゲーム序盤に試合が壊れてしまうことがあった。そんな現実を目の当たりにしたら、ドラフトではなにがなんでも"先発投手"だ。それも5、6イニングを投げて2、3失点と、しっかり試合をつくってくれる投手がほしい。

 問題は競合覚悟でいくのか、それとも確実に獲れる選手を狙うのかということだ。他球団と指名が重複するにしても、比較的軽そうなら中村優斗(諫早農業→愛知工業大/投手/176センチ・83キロ/右投右打)がオススメだが、今のヤクルトには彼のような"オーソドックなオーバーハンド"は山ほど控えている。

 逆に、左腕のローテーションは高橋奎二だけ。ここは競合覚悟で、金丸夢斗(神港橘→関西大/投手/178センチ・78キロ/左投左打)を指名すべきではないか。4球団......いや、5球団以上になる可能性もある。

 春のリーグ戦の終盤あたりで腰を痛めて、関係者やスカウトたちをドキッとさせたアマ球界ナンバーワン左腕だ。この秋は無理しない程度に投げて、それでも大学生には打てない球威。とりあえず、みんなが安心したことだろう。

 当然、外す確率が高いのだから、その準備もしておかないといけない。今のヤクルトの場合、ほしいのは来年の戦力なのだから、高校生ではない。

 佐藤柳之介(東陵→富士大/投手/179センチ・86キロ/左投左打)は安定感が増し、実戦力を上げてきた。もともとリリースの見えづらいフォームから、145キロ前後のストレートにスライダー、チェンジアップ、スプリットとの緩急は一級品。そこにこの秋は、ストライク先行の投球を身につけた。軽快なテンポの投球はバックも守りやすく、攻撃にも好影響を与えるだろう。また、石川雅規という格好のお手本もいる。

【とにかく必要な先発投手】

 1位が決まれば、2位、3位も先発だ。「そんなにいないでしょう......」って思われるかもしれないが、ここは「いる」「いない」ではなく、探すのだ。

まずコントロール。そして、いつでもストライクを取れる変化球を2、3種類。さらに、タイミングを外せる技術もほしい。

 ここは左腕をもうひとり。吉田聖弥(伊万里農林→西濃運輸/投手/178センチ・76キロ/左投左打)でどうだ。春先に150キロクリアと聞いたが、実戦では140キロ台前半のストレートを中心に、スライダー、チェンジアップで打者を翻弄。試合で実力を発揮したのが今季だけというのが心許ないが、都市対抗の大舞台での堂々とした投げっぷりを見ると、かなり腹の据わった青年とみた。

 キャリアは浅いが、濃密な時間を過ごしていきたという意味では、鷲尾昂哉(登美ヶ丘→関西大→三菱重工West/投手/185センチ・83キロ/右投右打)も注目の投手だ。大学4年シーズンに、素質が一気に開花。長身から投げ下ろす145キロ前後の速球に落差あるフォークが冴える。ヤクルト投手陣に、この"角度"はいない。

 今すぐに......というわけにはいかないが、2年待ってもらえたら高校生でも早めに出てきそうな投手はいる。

 茨木佑太(帝京長岡/投手/187センチ・93キロ/右投右打)は多彩な変化球に、打者の顔色を見ながら投げられる投球術に長けた好投手だ。今の球速は140キロ前半がアベレージだが、ドカンと重たいボールが低めに集まる。今は上体に頼った投球フォームも、下半身を中心に体重移動をうまく使えるようになれば、150キロ台はあっという間にクリアするだろう。ちなみに、兄の秀俊は阪神の2年目右腕。兄弟揃っての活躍も決して遠い夢ではなさそうだ。

【機動力のある外野手も補強ポイント】

 今年5月、リードオフマンでセンターを守る塩見泰隆が左ヒザ前十字靭帯と半月板損傷という重傷を負って、この時ほど西川遥輝を獲っておいてよかったと安堵した関係者も多かったはずだ。西川がいなかったら、野手のほうも大ピンチだった。

 昨季もケガにより51試合の出場にとどまった塩見だけに、来季すぐに本来の働きができるのか、楽観できない。ベテラン青木宣親の引退もあり、機動力の高い外野手も獲っておきたい。

 高いレベルで走攻守三拍子揃う竹内翔汰(創志学園→立命館大/外野手/174センチ・83キロ/右投左打)は、大勝負に敗れて人前で悔し涙を見せる熱いハートも魅力。"塩見タイプ"の身体能力系なら、今夏の都市対抗で2打席連続本塁打を放った藤原龍之介(秋田南→上武大→SUBARU/外野手/183センチ・83キロ/右投右打)も面白い。大学時から注目していた素質が"実戦力"に変化し、50m5秒台の快足と遠投110mの強肩を生かした守備も絶品だ。

 またヤクルトには、ファームに20歳前後の胸躍るような本格派の素材が見当たらない。澁谷純希(帯広農業/投手/181センチ・89キロ/左投左打)、古川遼(日本学園/投手/190センチ・78キロ/右投右打)が残っていれば、積極的に狙いたい。

 澁谷は、左腕からのアベレージ140キロ前半の速球とスライダーで、今夏大会前の練習試合で強豪・北照高から20奪三振。その直後の北北海道大会の地区予選でも1試合22奪三振の快投を演じた。三振を奪える球質は、才能の証だ。

 一方の古川は、素質だけで140キロ台をマークする素材型長身右腕。こういう投手は、体重が「身長−100キロ」くらいになった時の変身ぶりに期待したい。