性的マイノリティの「部屋探し」は過酷だった…不動産屋で言われた「悲しい一言」

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少子高齢化や働き方の多様化(非正規化)など日本社会が抱えるさまざまな問題が絡み合い、近年急増しているという“住宅弱者”。国籍、セクシュアリティ、経済力、社会的立場など多岐にわたる理由で、賃貸への入居や住宅購入で高いハードルを感じる人は多いだろう。

現行法上、同性婚が認められていない日本で、これまで住宅ペアローンを組めずにきたのがLGBTQカップルだが、2017年のみずほ銀行を皮切りに同性パートナーを住宅ローンの配偶者の定義に加える銀行も増えているという。

今回は住宅弱者支援専門家の會田(あいだ)雄一氏と、Xジェンダー(ノンバイナリー。男女のいずれにも属さないと考える性自認を持つ人)である青島友梨さん(25歳、仮名)に、LGBTQ当事者たちの賃貸探しや住宅購入の実態について話を聞いた。

ペアローンを組む同性カップルが増加傾向

不動産業界に30年以上身を置き、現在は住宅弱者支援に取り組む會田氏。2013年に住宅売買や仲介などの事業を展開する不動産会社「家や不動産」を創業し、誰もが“マイホーム”を持てる社会の実現を掲げ、3年ほど前から住宅弱者支援のための無料相談窓口を開設してきたという。

同社の住宅弱者支援の柱は住宅ローンの返済困窮者・離婚(ひとり親/住宅ペアローンの解消)・LGBTQの3つ。本格的にLGBTQ向けの相談窓口を設けたのは昨年6月のことだ。

「友人から近年LGBTQ当事者たちがペアローンを組み始めているということを教えてもらったことがきっかけで、それまでは同性パートナーの住宅ペアローンに関しては全くの無知でした。同性パートナー向けの住宅ローンを提供する銀行や、パートナーと同棲したい性的マイノリティの方々を支援している企業・団体の存在を知り、私も興味を持ったんです」(會田氏)

會田氏はセミナーや交流会などに参加。LGBTQ当事者たちとの交流を重ねるようになっていったという。

「当事者の方たちと実際に交流すると、パートナーと一緒に生活するための住まい探しについて強い不満を持っている方や、困ってらっしゃる方がたくさんいる。とくにこの1年ほどはSNSでも積極的に情報発信してきた中で、青島さんとも出会いました」(會田氏)

不動産屋でかけられた何気ない一言にもやっと

現在まで戸籍上も身体的にも女性の青島さんだが、就学前から自らのセクシャリティに違和感を抱き、自らのセクシャリティを“Xジェンダー”としている。

「高校生ぐらいまではトランスジェンダーと思っていたんですが、それにも少し違和感がありました。身体違和もあるのでほとんどトランス寄りですが、大学の頃にSNSでXジェンダー・ノンバイナリーという概念を知り、それが自分の中で一番しっくりきました」(青島さん、以下同)

青島さんは大学卒業後に地元・岐阜の福祉施設へ就職。実家暮らしを続けていたものの、自身のセクシャリティを周囲にカミングアウトできず居心地の悪さを感じ、就職して数年で上京を決意した。3人姉弟の長女で家族仲は良好だが、その家族にも改まってはっきりとは打ち明けていないという。

LGBTQの人が部屋を借りる、あるいは住宅ローンを借りる際は、単身と同性パートナーとの場合で事情は大きく異なり、単身の場合はストレートの人と違いは基本的にない。

青島さんはアセクシャル(恋愛感情の有無に関わらず、他者に対して性的欲求を抱かないセクシュアリティ)で、単身での上京・引越しだったため「新居探しで困ることはない」と当初は考えていたそうだ。

「実際に不動産屋さんで部屋探しをしてみると、見た目の印象で『ご本人ですか?』『単身の女性でしたら……』といった何気ない一言をかけられることが多く、モヤッとする経験が多かったです。

カミングアウトをしていないので相手に悪気はないし、むしろ善意だとはわかっているんですが、見た目の印象だけで認識がズレたままコミュニケーションが進むので、ずっと複雑な心境でした」

拭えない偏見への不安も

上京を決意して部屋探しを始める前から、青島さんはLGBTQフレンドリーを掲げる「家や不動産」の存在をSNSなどで知っていたという。

「良かれと思って女性専用の物件などもオススメされてしまうことが一番心苦しかったですね。やはり身体や戸籍上の性別は確かに女性なんですが、そうした物件に住むつもりは毛頭ありませんでした。男友達に条件を伝えて、代わりに不動産屋へ行ってきてもらうことも考えましたが、『家や不動産』のことを思い出し、SNSのDMで相談したんです」

青島さんは短髪で服装もユニセックスな雰囲気だが、性別適合手術やホルモン療法を過去に受けたことはない。ボーイッシュな女性という印象で、見た目では性的少数者・Xジェンダーとはまずわからないだろう。

もちろん、カミングアウトすれば不動産会社の担当者の対応もまた変わったかもしれないが、実際の窓口で初対面の人にいきなり自らのセクシャリティを明かす抵抗感は理解できる。

「トイレや職場の着替えスペースなど男性用と女性用とに分けられる場面では、どちらも使いにくく、煩わしさや気まずさを感じることはよくあります。見た目や雰囲気の印象で勘ぐられたり、セクシャリティがバレたりすることはない一方、中性的な見た目ではあるので、女性用トイレで二度見されるようなことも多いです」

「家や不動産」では従業員も含めて従業員の研修では東京都総務局人権部が実施するLGBTフレンドリーのための企業研修などを受講。アンケートなどの性別の記入欄をなくし、セクシャリティを押し付けるような言葉遣いなどにも最大限の配慮を心がけている。

「日頃から感じているような小さなストレスもなく、『家や不動産』さんの仲介で無事に希望の条件に合った、職場などへアクセスしやすい沿線の部屋を見つけられました。ただ、今のところは考えていませんが、将来もし同じアセクシャル、戸籍上同性のパートナーと「一緒に住みたい」となったときを考えると不安もあります。

やはり、住居探しはその後の生活の起点となる一大イベントだと思うので、セクシャリティに限らずマイノリティとされる方々が、新居を探しの場面で気まずい思いをすることが減ると良いなと思っています」

後編『ゲイカップルは「部屋探し」で一番苦労する…知らないところで行われている「意外な差別」』では、同性カップルなどが家探しの過程で、どのような偏見に晒されてしまうのかを會田氏に聞いた。

ゲイカップルは「部屋探し」で一番苦労する…知らないところで行われている「意外な差別」