がん、糖尿病、高血圧症、認知症、うつ病…中高年に多い疾患に共通する「意外な原因」と「じつは簡単な解決策」

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放っておくと筋肉は年齢と共に衰え、そのことが原因で免疫力が下がったり、生活習慣病を引き起こしたり、心の健康や、脳の認知機能にまで影響を及ぼすと言われています。とはいえ、筋肉を衰えさせてはいけないとわかってはいても、運動をコンスタントに取り入れるのはなかなか難しい……。

そこでウォーキングの提案です。ウォーキングなら家の周りを歩いてもいいし、どこかに行くついでに1駅分歩くこともできるし、すぐにでも始められます。ただ、なんとなく歩くだけでは体力アップはむずかしいことも事実です。著者は科学的に「どれくらいの速度で」「どれくらいの頻度で」「どれくらいの時間行えば」「どんな効果が得られるのか」を徹底的に研究し明確にしました。その根拠となるのは、10年余りで7000人以上のデータを取った結果と分析。それがわかりやすく示されているので、なぜどのように体にいいのか、納得できます。そのようにして確立した、効果的で継続しやすい方法「インターバル速歩」を紹介。ややきついと感じる早歩きと、ゆっくり歩きを一定間隔で繰り返すだけのシンプルな方法です。

*本記事は『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

読者の中には、最近「疲れやすくなった」「無理が利かなくなった」と体力の低下を実感している、あるいは「健康診断で引っかかった」と訴える方も多いと思う。ここでは、体力の加齢性変化とそれに伴う生活習慣病との関連について述べる。

体力の加齢性変化

図1―4で示すように、私たちの持久力は20歳前後をピークとし、30歳以降、男女差はあるが10歳加齢するごとに5〜10%ずつ低下する。実際、最初の章に述べた、富士登山に参加した15人の年齢別の最高酸素消費量をその図にプロットすると、それぞれの参加者の点が加齢による体力低下曲線にならぶ。

この加齢による体力低下の原因は、運動不足の生活をしているからだけではなく、図1―5で示すように加齢による筋力の低下が主な原因となっている。これを加齢性筋減少症(サルコペニア)と呼び、髪の毛が白くなったり、肌にしわがよるのと同じメカニズムで起こる、いわゆる老化遺伝子の仕業で、加齢現象の一つであると考えられている。

体力と生活習慣病の関係

図1―6は生活活動度と医療費との関係を年齢別に示したものである。生活活動度が体力に比例すると考えると、体力の低下曲線と年齢別の医療費が見事に相関する。そして、体力が20代の30%レベル以下にまで低下すると要介護状態になり、自分ひとりでお風呂に入れない、トイレに行けないという状態になる。したがって、高血圧、糖尿病、肥満といった生活習慣病にとどまらず、認知症やがんに至るまで、中高年特有の疾患の根本原因は、この加齢性筋減少症に伴う体力の低下の可能性が高い、と考えられるようになった。

最近、そのメカニズムについて、図1―7で示すように、体力の低下による「慢性炎症」の関与が指摘されている。「慢性炎症」という言葉は読者になじみがないかもしれないが、たとえば、風邪を引くと喉が痛くなる、傷口にばい菌が侵入すると化膿し、局所がはれ上がり、痛みが出たり、発熱したりする。これらの反応は、外部から体内に異物が侵入すると、それをやっつけよう、追い出そうとする体の反応である。これを医学では「炎症反応」と呼ぶ。

ここで、興味深いのは、外部から異物が体内に侵入しなくても、運動不足、肥満など体力低下を引き起こすような生活習慣でこの炎症反応が起こることである。ただ、この炎症反応のレベルは非常に低く、痛みが出たり、発熱を起こしたりするのはごく稀で、ほとんどの人は気がつかない。しかし、着実に全身性に起こっている。

そして、この炎症反応が特に脂肪細胞に起これば糖尿病に、免疫細胞に起こって、その影響が血管内皮細胞に現れれば動脈硬化・高血圧症に、脳細胞に起これば認知症・うつ病に、さらに、この炎症反応によって分泌されるサイトカインという物質を介して、その影響ががん抑制遺伝子に及べばがんになる、と考えられるようになった。

現在の医学では、糖尿病、高血圧症、認知症、うつ病、がんなど、いわゆる中高年者に特有の疾患の治療は、専門の医師が適切な薬を使って行うのが一般であるが、この理論によれば、それらの行為は対症療法にすぎない、ということになる。薬の投与を停止すれば、それらの症状が再び現れる。なぜか。慢性炎症が止まっていないからだ。したがって一生涯、薬を飲み続けなければならない。そして、それらの薬はいずれ効かなくなるから、また別の薬を飲まなくてはならなくなる。

では、なぜ、体力の低下が起こると炎症反応が起こるのか。それについて、加齢に伴うミトコンドリアの機能劣化がその原因の一つと考えられるようになった。先にも述べたが、ミトコンドリアは自動車のエンジンに例えることができる。エンジンはガソリンを燃やして車を動かすエネルギーを得るが、ミトコンドリアもブドウ糖・脂肪酸を燃やして細胞が生きるエネルギーを得る。ところが、車のエンジンが古くなって不完全燃焼を起こすと排ガスを出すように、ミトコンドリアも古くなると活性酸素という排ガスを出すようになる。この活性酸素は細胞や組織を傷つけ、それに刺激されて炎症反応が起こるといわれている。

すなわち、加齢によって筋力が低下すると、まず、筋肉中のミトコンドリアの機能が劣化する。さらに、筋力が低下すると運動するのが億劫になるために、筋肉以外の臓器の代謝も低下し、全身のミトコンドリア機能が低下する。その結果、全身性に活性酸素が産生され、慢性炎症が起こり、生活習慣病になるというのだ。

では、どうすればよいか。答えは簡単。加齢性筋減少症に負けないように、運動トレーニングによって体力アップを行えばよいのだ。

さらに連載記事<なんと「10歳」若返る「すごい歩き方」、その「意外なやり方」を完全公開する…!>では、「インターバル速歩」の具体的なやり方を解説しています。

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