東大を目指す中学生の子に部屋を購入…!加熱する「中国人の日本留学」その驚きの実態

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残酷なほど厳しい競争に苛まれ、希望すら持てない-中国の若者を取り巻く環境は過酷だ。「昇龍」と言われた経済大国は、どこへ向かうのか。遠くて近い隣人の素顔を明かす。

前編記事『早稲田、慶應、上智……有名私大に次々入学!母国を棄て日本の大学に留学する中国人たちの驚きの実態』より続く。

東大目指して部屋購入

日本への大学進学を希望する中国人学生は、高校卒業後に来日し、日本語学校と予備校のダブルスクールで翌年以降の合格を目指すという。ある予備校の校長が、その仕組みについて説明する。

「予備校で最低1年は日本の大学入試のための勉強をします。講師はほぼ中国人で、中国語で各科目を教えています。ほとんどの学生が日本語学校にも通っているのは、日本語学校に入らないと、留学ビザが下りないという事情もあります。

学生たちが狙うのは、各大学に設定されている『留学生枠』。日本語がそこまで上達していなくても、他の試験科目が良ければ合格できます」

この校長によると、中国人向けの塾や予備校は、日本で暮らす「先輩中国人」が開業するケースが多いという。「潤」需要の高まりとともに急増中で、中国国内にいる中高生に向けてオンライン上で開く「個別留学塾」も増えている。

日本学生支援機構の「外国人留学生在籍状況調査」によると、'23年5月1日現在の外国人留学生の総数は約28万人で、うち中国人が約11万5000人と断トツ。それも、前年度比で11%増と急伸している。金曜日の夜、池袋駅発の電車に乗ると、中国人の若者が車両の半分近くを占めていることも珍しくない。高田馬場で授業を終えた学生たちが池袋の「ガチ中華店」で仲間たちと一杯やり、下宿先へと帰っていくからだ。

寮を用意している予備校も少なくないが、親が子供のために、予備校の近くに部屋を借りるのも一般的だ。なかには、ポーンと部屋を買ってしまう親もいるという。中国人向けの不動産を幅広く取り扱う「ワースランド」の杉原尋海代表が、こんなケースを紹介する。

「子供のための部屋を探している、と訪ねてくる中国の親御さんが増えましたね。最近では『子供を東大に行かせるので部屋を買いたい』という方が、(東大のある)本郷近くのマンションの一室を買われました。来年から入学ですか? と聞くと、まだ中学生だというんです。中学校を卒業後に日本に留学させ、いずれは東大に入学させたいと。そのときのためのマンションを用意しておきたい……というんだから驚きですよね」

さすがにこの親のように、東大合格を目指して、高校時代から日本に留学させるのはレアケースだろうが、「近年、中学卒業後に日本の高校へ留学する学生も増えている」と解説するのは、日本に住む中国人の取材を続けるジャーナリストの舛友雄大氏だ。

日本の少子化対策として

「中国では'18年頃から『中考分流』という教育政策が本格的に実施されるようになりました。簡潔に言えば、大学進学者が増え、若者が就職難にあえぐ現状への対策として、大学に進む学生の数を絞るための政策です。高校入試の段階で、約半数の生徒が、大学あるいは高校への進学の道を閉ざされてしまうのです。

中学生の時点で『あなたは大学に行けません』と言われかねない生徒と親は、海外留学によって学歴を得ようとします。そこで選択肢の一つとして浮上するのが、日本の高校への留学から、大学への進学を狙うというものです」

冒頭で紹介した「小紅書」に溢れるのは、日本の大学情報だけではない。日本の高校に留学中の学生が、進学方法や、高校生が一人で生活するためのノウハウについて解説する動画もまた山ほどあるのだ。

千葉県鴨川市にある高校は、7年ほど前から中国人留学生を積極的に受け入れ、現在、生徒の多くが中国からの学生になっているという。寮も完備されており、学校内には中国人スタッフも常駐している。

「私の取材では、中国からの高校留学生は10年前の10倍程度に増え、全国で少なくとも20校は、中国からの留学生を積極的に受け入れている学校があります」(舛友氏)

上海にある、日本への留学支援を専門とする朝陽義塾日本国際高校も、近年複数の高校から「是非うちに学生を」と営業活動を受けているという。孫源源校長が説明する。

「昔は欧米の高校が中心でしたが、ここ数年、日本の高校から活発なオファーをもらうようになりました。原因は、少子化による学生数の減少です。

学生たちはわが校で1〜2年日本語を勉強した後、提携先の高校に留学に行きます。日本の入管の規程で、1年間は日本語学習をすることが義務づけられていますから。

私の推測では、上海を中心とした地区から日本に留学する生徒の数は、この5年で10倍程度に増えています」

8割は日本で就職

中国人留学生を受け入れることで、日本人の学生は若いうちから校内で国際交流ができるというメリットもあるかもしれない。しかし、大学進学者と比べて、高校からの留学生は満足に日本語ができない場合も多く、また中国人同士のコミュニティーをつくり、日本人学生と交流しないケースも懸念されている。

それでも、経営の見通しが明るくない高校を中心に、中国からの留学生受け入れは「背に腹は代えられぬ選択」となっているという。

日本への高校留学を決めた彼らはどのような進路をたどるのか。まだ具体的な事例は少ないが、前出の孫校長が「その後」について説明する。

「彼らは中国に戻ってきても絶対に中国の大学には入れないので、進学希望者は日本の大学に進むしかありません。大学を卒業したら、8割は日本で就職します。日本は人手不足なので、職種を選ばなければ就職できるでしょう。

いま、中国の富裕層が日本での永住を目的に、経営管理ビザを取得して次々と日本に渡っていますが、日本に子供を送り出した親のなかには、子供にそのまま日本で働いてもらい、自分たちを呼び寄せてもらいたいと願っている親もいるはずです」

彼らが日本の大学を卒業後、日本で就職し、社会にうまく溶け込んでいくなら懸念も少ないが、前出の舛友氏はこんな可能性も指摘する。

「中国人留学生を受け入れる学校の教師を取材すると、やってくる学生の数が増えるのに伴い、勉学意識が薄かったり、向上心が乏しい学生が目立つようになったとの声も聞こえてきます。そもそも日本語が上達せず、教師とうまくコミュニケーションできないケースもあります。

日本の大学への進学自体は、選り好みさえしなければ難しくない時代。向学意識の低い学生でも、高校卒業後、どこかの大学に入ることはできるでしょう。ただ、大学卒業後に彼らがうまく自分の道を拓けるのか。いまは中国新移民向けの不動産仲介やコンサルタント事業が活況なので、就職自体はできるのかもしれませんが、将来日本社会にうまく溶け込んでいけるかは未知数です」

日本の少子化と中国の過酷な競争の狭間で生まれた「中国人留学生の激増と早期化」という現象。その行き着く先は、まだ誰にも見えない。

「週刊現代」2024年9月14・21日合併号より

早稲田、慶應、上智……有名私大に次々入学!母国を棄て日本の大学に留学する中国人たちの驚きの実態