「歴史に名を刻むのは間違いない」二刀流で話題の“次世代オールシーズンタイヤ”、ダンロップ「シンクロウェザー」で真冬の雪道と初夏の路面を走った結果
大谷翔平とベーブルースが歓談? そんなシーンを使ったダンロップのCMに、思わず目を凝らした人も多かったのではないでしょうか。
これはダンロップがこの秋に発売する「シンクロウェザー」という、2つの機能を備えた、いわば“二刀流”とする新たなタイヤに絡めたCMなのです。今回はそのタイヤについて、解説と走りをレポートします。
“二刀流”を共通としてイメージキャラクターに大谷翔平を起用!
この動画に登場している“ベーブ・ルース”は、当たり前ですが本物ではありません。
この方はベーブ・ルース財団の協力によって紹介された“そっくりさん”で、骨格や輪郭などに修正を加えることで、まるで本人であるかのように演出しているそうです。かつて打者・投手の二刀流で名を馳せたベーブ・ルースと、現代の二刀流のスーパースターである大谷翔平とのコラボレーションを、新たな“二刀流タイヤ”として発売される「シンクロウェザー」のイメージに重ねているわけですね。
では、「シンクロウェザー」とはどんなタイヤなのでしょうか。概要をかいつまんで言えば、冬タイヤとしてスタッドレスタイヤ並みの性能を発揮しながら、ドライ&ウエット路面でも夏タイヤ並みの性能を発揮するというものです。こうお伝えすると、多くの方から「本当なのか?」と疑いの眼差しも寄せられることでしょう。でも、ダンロップの開発陣は自信満々なのです。
夏でも冬でも高性能を発揮する“次世代オールシーズンタイヤ”
その自信の裏付けとなっているのが「アクティブトレッド」と呼ばれる新技術。水に触れたり、温度が下がったりした際にゴムの性質が変化して柔らかくなり、結果として摩擦係数を常に高く維持できることで滑りにくくなる、というものです。つまり、タイヤ自身が路面に「シンクロ」することで、ウエット路面でもアイス路面でも高いグリップ力を発揮するというわけです。
従来のオールシーズンタイヤなら、雪道でこそ一定のグリップを保つことはできたものの、凍った氷上路面までは対応は難しいとされてきました。しかし、この技術を採用することで、氷上路面の走行時にも確かなグリップを可能にしたのです。
それだけではありません。「シンクロウェザー」は、夏タイヤ並みのドライ&ウエット路面性能を合わせ持っています。つまり、スタッドレスタイヤ並みの雪上&氷上路面性能と、夏タイヤとしての実力もフルに発揮できる、史上初のオールシーズンタイヤとして登場しているのです。
まさにこれが「シンクロウェザー」が“次世代オールシーズンタイヤ”といわれる所以であり、“二刀流”を謳う理由もそこにあるわけです。
ゴムに仕込まれた“2つのスイッチ”が環境に応じて切り替わる
でも、どうしてこんなことができるのでしょうか。不思議ですよね?
そもそも「アクティブトレッド」とは、水や温度などの外的要因に反応してゴムの特性が変化する新技術で、ゴムを柔らかくするには欠かせないポリマーの動きをコントロールする役割を果たします。「シンクロウェザー」ではこのゴムの中に「水スイッチ」と「温度スイッチ」の2つのスイッチ機能を備えており、これを環境に応じて切り替えることでゴムの特性を変化させているのです。
具体的には、路面に接地するトレッドの一部に、水に触れると結合が溶けるイオン結合のポリマーを採用(水スイッチ)。これによりウエット路面に入ると表面が柔らかくなってグリップ力が高まります。そして、水が乾けば再び元の硬さに戻ってドライ路面でのグリップ力を回復するのです。
そして、次に冬場の低温時にはゴムのグリップ力を高める成分をポリマーから切り離すことで(温度スイッチ)ゴムが硬くなるのを抑えます。これによってゴムは柔らかいまま維持され、雪上や氷上でもしっかりとしたグリップを実現することができるというわけです。
タイヤの表面には、その性能を裏付けるものとして、冬用タイヤ規制が発令された高速道路も走れる「スノーフレークマーク」はもちろんのこと、国連が定めた氷上性能をクリアした「アイスグリップシンボル」までも刻印されています。まさに、これまでのオールシーズンタイヤではあり得なかったことを「シンクロウェザー」は可能にしたのです。
氷上でも安心して走れる高いグリップ力を実感
では、その実力は本物なのでしょうか? 2月に北海道で雪上&氷上路面を、5月に岡山でドライ&ウエット路面で試乗する機会を得ました。
雪上&氷上路面での試乗は、旭川市内にあるダンロップのテストコースと周辺の一般道を使って行なわれました。試乗の対象となったのは「シンクロウェザー」に加えて、ダンロップのオールシーズンタイヤ「マックス・エーエスワン(MAXX AS1)」と、「ウインターマックス・ゼロツー(WINTER MAXX 02)」です。
最初に「MAXX AS1」で走ると、最初の氷上でさっそくグリップ力の弱さを露呈。アクセルを踏んでも思うように加速してくれません。氷上を旋回するとそのまま外側へと膨らんでしまい、そのコントロールにずいぶんと苦労することになりました。まさにオールシーズンタイヤゆえの氷上でのグリップ力の低さを体感したわけです。
次の「シンクロウェザー」では、氷上でもステアリングを切っただけの反応が伝わってきました。もちろん、パワーをかければ外側へ膨らみますが、「MAXX AS1」とは安心感がまるで違います。ただ、その後に「WINTER MAXX02」を走らせると、さすがはスタッドレスタイヤ、よりしっかりとしたグリップを感じさせてくれました。とはいえ、「シンクロウェザー」との差は小さく、改めてその実力の高さに驚かされた次第です。
続いて「シンクロウェザー」で雪深い一般路に出てみました。雪深い路面をものともせず、グイグイと雪道を突破していきます。カーブに差しかかったところで少し強めにステアリングを切るとわずかに横に流れる動きを見せましたが、それでもすぐにグリップして安心感は十分。雪道での頼りがいをしっかり感じ取ることができました。
シャープなハンドリングと快適な乗り心地。静粛性の高さに驚き!
そして、次なるシーンは5月の岡山。ここではダンロップのテストコースで周回路を使ったハンドリング、濡れたスキッドパッドでのウエット路面走行、さらに周辺の一般路でも試乗しました。タイヤは「シンクロウェザー」のほかに、「ルマン・ファイブ・プラス(LE MANS V+)」と、スタッドレス「ウインターマックス・ゼロツー(WINTER MAXX02)」を試しています。
ここで最初に試乗したのは夏タイヤの「LE MANS V+」。周回路を走ると路面の状況にしっかりと反応し、操舵に対しても忠実にトレースする高いスポーツ性を発揮し、高速での周回でももっとも安心度が高かったです。一方のスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX02」は剛性の低さがモロに出ており、ステアリングを切っても反応が鈍く、高速でもその都度修正を余儀なくされました。また、ロードノイズもかなり高めです。
続いて「シンクロウェザー」に乗り換えてまず実感したのは、その静粛性の高さ。おそらくその実力は夏タイヤの「LE MANS V+」とほぼ同等と言っていいでしょう。実はこれまで、オールシーズンタイヤはノイズレベルが高いのが個人的にも悩みでしたが、これなら音楽だって十分楽しめそうです。
さらに乗り心地も上々。荒れた路面でもいなし方が巧みで、路面からのショックが最小限にとどまっていました。しかも周回路での高速走行でレーンチェンジをすると、その反応はとてもオールシーズンタイヤとは思えないほどシャープ。その反応の良さに、高速周回がとても楽しく感じられたほどでした。
タイヤの歴史に新たな1ページを刻むのは間違いなし
雪深い真冬の北海道、汗がにじみ出そうな5月の岡山でテストした「シンクロウェザー」の試乗は、これまでのオールシーズンタイヤの概念を大きく変えるものでした。今までなら、オールシーズンタイヤは一年を通して使える便利さを持ちつつも、夏タイヤとしても冬タイヤとしても“そこそこの性能”にとどまっていたわけです。
一方、この秋に登場する「シンクロウェザー」は見事に“次世代オールシーズンタイヤ”としての実力を十分に見せつけてくれました。価格は同社のタイヤの中では最も高くなるとのことですが、ダンロップとしてはこの製品の実力を正しくユーザーに伝えるため、認定シップ制度を導入して大事に育てていく考えとのこと。「シンクロウェザー」の登場はタイヤの歴史に新たな1ページを刻むのは間違いないでしょう。今後のさらなる進化にも期待したいですね。