バッハIOC会長の信頼が厚い国際体操連盟会長の渡辺守成氏(C)Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ

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【特別寄稿】

【 顔 を 見 る 】次期IOC有力候補のひとりは日本人で、バッハに「I LOVE YOU!」

 我が国では自民党総裁選の話題で持ち切りだが、海の向こうでは9月15日に立候補が締め切られた選挙が注目されている。

 国際オリンピック委員会(IOC)会長選である。誰がなるかで世界のスポーツポリティクスは大きく変わるだろう。

 会長選挙に手を挙げたのは7人。五輪史上初となる大きな出来事が起こる可能性がある。初の女性会長、初のアフリカ大陸出身会長あるいは初のアジア人会長が誕生するかもしれないのだ。

 前2つを担うはジンバブエの競泳金メダリストで選手委員長として実績のあるカースティ・コベントリー。最後のひとつにはヨルダンのフェイサル・アル・フセイン王子そして日本の渡辺守成国際体操連盟会長がいる。

 新会長は来年3月アテネでのIOC総会で決まるが、1月のローザンヌIOC本部での演説会が唯一の公式アピールの場で、そこで未来の五輪をどう語るかが肝心だが、IOC本部周辺の動きから本流が求めているものを予見してみよう。

 候補者の中で最も著名なセバスチャン・コー世界陸連会長は有力候補と思われてきたが、立候補締め切り直前に潘基文(前国連事務総長)IOC倫理委員長名の書簡が全委員に回覧され違う視点が見えてきた。「選挙時および任期中、IOC委員でなければならない」とほのめかされたのだ。IOC委員の定年は70歳。今だけでなく最初の任期8年後、そして延長した場合の12年後、候補者が何歳であるか留意しろということだ。

 7人の中で最年長のコー(9月29日で68歳)は1期目の任期を全うできない。そうなるとバッハの信頼厚い渡辺が浮上する。彼は65歳だが、定年延長4年の特例を使えば8年の任期は全うできる。しかし、さらに潘委員長は「国際競技連盟(IF)の会長職が終われば、IOC委員の地位を自動的に失う」とも注意喚起した。渡辺が3期目のIF会長になっても28年まで。個人資格のIOC委員になる必要がある。

 IOC委員には個人として選ばれた委員、選手委員会からの委員、そしてIFや国内オリンピック委員会(NOC)などの役職からの委員がいる。本流が求めるのは会長任期最長12年を全うし、団体利権からも自由な個人の委員となる。

 この条件を完璧に満たすのは41歳、選手委員長から個人資格委員となったコベントリーだけだ。しかし、自転車のIF会長でフランスNOC会長でもある51歳のダビッド・ラパルティアンは、もしIOC会長になれば全ての会長職を退くと明言した。前者はオリンピアンで初めて会長になったバッハの後継モデルであるし、後者は悩んだ挙げ句バッハに相談して締め切り直前に立候補を決めている。そして来月61歳になるが、個人資格のフセイン王子も捨ておけない。初の五輪eスポーツ大会のサウジアラビア開催が決まるなど、中東パワーが注目されている。

 札幌冬季五輪招致断念で国際スポーツ界の信頼を失いかけている日本にとって渡辺の国際貢献への志は重要だが、実現には秘策が必要だ。今年いっぱいで五輪最高位スポンサーを退くパナソニックを連れ戻すのはどうか?

 初といえばまだあった。第7代会長の同姓同名の息子フアン・アントニオ・サマランチ(64=スペイン)が会長になれば、初の親子2代会長となる。しかし、これではどこかの世襲議員と同じになってしまうが。

(春日良一/五輪アナリスト)