疲労しやすくなった人の体に起きている「倍速老化」という症状

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疲労や衰えを急に感じるようになったり、病気や不調、痛みが急に悪化したり種類が増えたり――。何か思い当たることはないでしょうか?こうした方の体には、一般的な老化とは一線を画した『倍速老化』が起きているおそれがあります。

輸血によるC型肝炎の感染撲滅に貢献したことで、世界的な評価を得た医学博士・飯沼一茂さんの著書『倍速老化』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成し免疫の知られざる一面についての解説をお届けします。

老化と免疫の深すぎる関係

一般的な老化より急激に老いが進む「倍速老化」は、血液や血流を含む体内の環境が悪化したことで生じる「免疫暴走」から起きる現象です。

そのお話をするために、まずは少しだけ免疫の知られざる一面について、ご説明させてください。

「免疫力を上げる」「免疫力を高める」──。

どちらもよく使われる言葉ですが、これらは誤解を招く表現でもあります。「免疫力を上げる」と聞くと、多くの方は体内に侵入したウイルスや細菌などへの攻撃力を上げることをイメージされるのではないでしょうか。しかし、実際は違うのです。

このような誤解が広まった背景としては、免疫があまりに多種多様な体の機能に関わるだけでなく、最新の知見がつねに出続けている分野なので、医師ですら追いかけ続けるのが難しいことが大きいように思います。

免疫について一つ説明を始めると、そこから派生する内容が膨大なため説明する側も端折りがちですし、聞く側も手短にまとめたがる。それをメディアがさらに単純化して取り上げることが、免疫の理解を限定的にしているのかもしれません。

テレビや雑誌の取材を多数受けてきましたが、10月には「これからインフルエンザが流行するので免疫力を上げておかないとダメですよね」と聞かれ、2月になると「免疫が過剰に反応すると花粉症になっちゃうんですよね。免疫力を下げる方法はありますか」などと聞かれます。

そのような質問を受けるたびに「10月と2月に分けて取材するのは間違っていますよ、まず免疫のしくみを理解してください」などとお伝えするものの、免疫のイメージというものが固まっているからか、なかなか根本的な内容にたどり着けません。免疫が持つ機能の大事な部分は、まだまだ広まっていないと痛感するばかりです。

おそらく多くの人にとっての免疫は、こうして「外敵を攻撃する力」としか認識されなくなっていったのでしょう。

たしかにウイルスなどが体内で猛威を振るうときに、それらを攻撃する力を上げることは大事です。しかし「倍速老化」状態の体においてもっと大事なのは、免疫を「制御」する力なのです。

免疫は「攻撃役」と「制御役」で成り立っている

免疫には、外敵などを破壊する「攻撃役」のほかに、その破壊活動を適正範囲に収めてくれる「制御役」がいます。

私たちの体で免疫というシステムを支えているのは、おもに血液中の「白血球」です。ひと口に白血球と言ってもたくさん種類がありますが、役割から考えるとシンプルに「攻撃役」と「制御役」の2つに分けられます。

じつは免疫の大事な仕事である細菌やウイルスなどの攻撃すら、攻撃役だけでは成り立ちません。なぜなら攻撃役は、外敵を破壊し終えても攻撃をやめられないからです。彼らは、免疫の制御役が現れ「攻撃やめ!」と言ってくれないと止まらない武闘派、こう理解してくださって構いません。

この現象を、すり傷ができたときのことを例にお話ししましょう。

皮膚に傷がつくと出血し、場合によっては、そこが赤くなって腫れたり熱を持ったりして痛みますが、いずれきれいに治ります。どこが傷だったのかわからなくなるのを見て、人体の不思議を感じた方もいらっしゃるでしょう。

ケガをして治るまでにも活躍する2つの免疫

すり傷の場合、傷口から細菌などの外敵が入ることもあるため、免疫はすぐに反応して攻撃役が傷口近くに集まります。そして外敵だけではなく、創傷の際に壊れた細胞をガツガツと破壊し始めるように。

このとき免疫の攻撃役は、破壊をスピーディーに終えるために攻撃役の頭数を揃えるべく、攻撃しつつも仲間を呼び寄せるサイン(低分子のタンパク質)も出します。これは「ヤバいのがいるぞ!」という警報のようなもの。医学的には「炎症性サイトカイン」と呼ばれ、このサインが私たちに「痛み」を感じさせます。

このように体内で何かしらのトラブルが起き、免疫がそれに対応している状態が「炎症」と呼ばれる状態です。炎症とは読んで字のごとく、体の中で局所的に火がついている、火事が起こっているようなイメージですね。

こうして攻撃役が外敵を倒し終えると、今度は制御役が現れ「攻撃やめ!」というサインを出します。こちらは「抗炎症性サイトカイン」と呼ばれ、文字どおり炎症に抗うためのサインです。

その後、制御役は死んだ外敵や免疫細胞、傷ついた細胞などをまとめて掃除します。それらを体外に排出させるためにあるのが「膿(うみ)」で、血液中に運び込んで分解、浄化することも。血液は、酸素など細胞に必要なものを運ぶと同時に、体内の浄化にも使われます。そう考えると上下水道のようですね。

──攻撃役がまず攻撃をし、制御役が出てきてストップをかける──

このように面倒な段取りになっている理由は、免疫が、つねに体に入ってきた刺激に反応する必要があるからです。そして攻撃は、外敵を体内に広げないようスピードが重視されるので、少々手荒になってしまうこともある。そのため、攻撃役のやりすぎに制御役がブレーキをかける、という形なのでしょう。

意識レベルにまで警告してくれている

ほかに、何らかの疾患を抱えた場合にも痛みが生じることがあります。つまり痛みがあるなら炎症が起きているということ。これが人体のすばらしいところで、「トラブルが起きている!」と意識レベルにまで警告してくれているわけです。

疾患とまではいかなくても、肩や背中にコリなどがあると、だるさや痛みを生じることがあります。これも、血流が滞って栄養分が届きにくいことで生じる「何とかしてくれ!」という体からのサインです。

この2つの免疫細胞は、血流に乗って体内のあらゆるトラブルに対応してくれています。倍速老化も例外ではありません。急激な老化の原因となる体内のゴミ(老廃物)を処理し新しい細胞をつくるという、人体の若返りをスムーズにしてくれているからです。

ちなみに「体温が上がると免疫力が上がる」と言われるのは、体温が上がると血行がよくなって血流に乗った免疫細胞たちが全身をくまなく巡り、すぐにトラブルを見つけ対処できるようになるからです。

後編記事『倍速老化は免疫の暴走が引き起こしている…体が急に老化する人を救う「意外な存在」』では、倍速老化を止める救世主となる細胞について解説する。

倍速老化は免疫の暴走が引き起こしている…体が急に老化する人を救う「意外な存在」