9月の中国戦、バーレーン戦で2試合連続ベンチ外だった旗手。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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 ベンチ外の扱いは選手に大きな疎外感を与える。

 9月のワールドカップ・アジア最終予選、中国戦(7−0)とバーレーン戦(5−0)に向けて27人を招集した日本代表は、各試合の登録メンバーを23人に絞り込むため、2試合で細谷真大、旗手怜央、長友佑都、望月ヘンリー海輝の4人をベンチ外とした。

 驚きがあったのは、旗手だろう。年初のベスト8で敗退となったアジアカップでは試合毎にプレー機会を増やし、3試合に出場したが、ラウンド16のバーレーン戦で前半に負傷。日本が苦汁を舐めた準々決勝のイラン戦はスタンド観戦だった。

 その怪我が癒えた後、6月のワールドカップ2次予選に再び招集され、ミャンマー戦は45分間のみだが、復帰と出場を果たした。

 決して主力とは言えない立ち位置だが、準レギュラーではある。先般、開幕したスコットランドリーグでも所属のセルティックは5連勝で首位。旗手自身も今季ここまで2ゴールを挙げ、調子が良い。それだけに、今回のベンチ外は辛辣なものだった。

 この決断に至った背景には2つの理由が考えられる。ひとつは個人の相互比較。もうひとつはゲームプランだ。
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 旗手の第1ポジションは2列目の中央であり、競う相手は南野拓実や鎌田大地、久保建英になる。第2適性としてボランチを含めると、守田英正、田中碧の椅子もターゲット。さらにユーティリティ性を生かして左ウイング、右ウイングもプレー可能とすれば、三笘薫や中村敬斗、堂安律や伊東純也も競争相手に含まれる。

 ただし、彼らは大半が欧州5大リーグと呼ばれる、UEFAカントリーランキング上位、1〜5位の国でプレーする選手ばかりだ。一方、スコットランドは17位(9月現在)と低迷。6位のオランダ、以下ポルトガル、ベルギー、さらにチェコやトルコ、ノルウェーやイスラエル、ギリシャ等よりもリーグの順位が下回っているのが現状だ。

 ここまでスコットランドの順位が下がったのは、セルティックにも責任の一旦がある。2020-21シーズン、21-22シーズンは予選2回戦で敗れ、CL本戦出場は叶わず。22-23、23-24の2シーズンは本戦に出場したものの、グループステージは2年連続の最下位だ。

 12試合中、勝ったのは消化試合の1試合のみ。セルティックがどれほど国内で無敵を誇っても、カントリーランキングでここまで低迷すると、5大リーグは元より、ベルギーやオランダ、ポルトガルの選手と比較しても優位とは言えない。

 唯一、今季リーズへ移籍した田中だけは、今も2部リーグ所属だが、ボランチの争いとなると、本職と第2適性の差は大きく、さらに田中は前回予選からの代表での実績があるため、優位は揺らがない。

 つまり、旗手のベンチ外は、個人の相互比較として極めて妥当だ。怪我などの問題がなく、選手がフルに揃えば、客観的な評価として次点になってしまう。それほど今の日本代表メンバーは充実している。
 
「だったら、なぜ招集するんだ?」という当然の疑問に当たりそうだが、ここでベンチ外に至る背景の2つ目、ゲームプランが登場する。

 コンディション不調の選手に対する即時の補充として、ユーティリティな旗手が適するのは言うまでもないが、もうひとつ。中国戦とバーレーン戦は、FWの登録が多かった。1トップに、スタメンの上田綺世のほか、小川航基、浅野拓磨、前田大然と4人のFWがメンバーに名を連ねた。前田はウイング起用も想定されるが、サイドはサイドで、三笘、伊東、中村、堂安、菅原由勢と充分に、いや、過多に揃っている。

 逆にボランチは遠藤航と守田のほかは、田中しかおらず、何かあれば鎌田を下げることでやり繰りしている。9月の2試合はベンチの配分として、FWやウイングなど、点を取りに行く選手の割合が多かった。

 中国とバーレーンは、ホームであろうとアウェーであろうと、確実に勝点3を計算しなければならない相手だ。もし、スタメンで点を取り切れずに終盤に入ったら、引き分け上等でゴール前をガチガチに固める相手から、1点をもぎ取らなければならない。

 その状況は間違いなくカオス。スペースのやり取りで気が利く旗手よりも、小川や浅野といった最後を力尽くで押し切る選手が必要になる。その結果、真ん中の枚数を削り、旗手をベンチ外にしてでも、点を取る選手を増やしたのではないか。

 一方、10月に対戦するサウジアラビアとオーストラリアは、より積極的にくる可能性があるので、日本の戦略、あるいは旗手の立ち位置は多少変わるかもしれない。こうしたゲームプラン次第で移ろうギリギリの1枠を、彼は行き来している状態だ。
 
 旗手の定位置は崖っぷち。この苦況を変えるとしたら、チャンスはCLしかない。今季から始まる新方式のCL、リーグフェーズの第2節以降はドルトムント、アタランタ、ライプツィヒ、クラブ・ブルージュと対戦が続く。セルティックと旗手が国際戦で結果を残せば、旗手に対するほかの欧州クラブの見方が変わり、同時にスコットランドのカントリーランキングも上がる。

 CLは大きなチャレンジだ。今後のキャリアが変わる可能性もあるし、何より欧州トップクラブを相手に通用することを証明すれば、森保監督の見方に影響を与える。

 すでに最終予選が始まり、2026年のワールドカップまで2年を切った。今季は旗手にとっても、あるいは逆転メンバー入りを志す、ほかの選手にとっても、勝負のシーズンになる。

取材・文●清水英斗(サッカーライター)