ONE OK ROCKが証明する「日本のバンドが世界を制する現実」 自身最大規模ワールドツアー開幕
9月14日、ONE OK ROCKのワールドツアー『ONE OK ROCK 2024 PREMONITION WORLD TOUR』初日となる東京公演が味の素スタジアムで開催された。
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まだまだ暑さの残る17時30分すぎ、オーディエンスで埋め尽くされたスタジアムにTaka(Vo)の言葉が響き渡る。まるでONE OK ROCKが歩んできた道のりを証明し、「物語の続きを始めよう」と宣言するような言葉たちに場内のボルテージが否が応でも高まるなか、ステージ上に登場したToru(Gt)、Ryota(Ba)、Tomoya(Dr)の3人がヘヴィな音を鳴らし始める。オーディエンスの手拍子が最高潮に達したところで鳴り響くサイレン。それが合図だったかのように、ステージ中央、Takaがせり上がってきた。顔にはツアータイトルが書かれたガスマスク。鮮やかな緑色に染め上げられた髪の毛が眩しい。そして彼が歌い始めたのは最新曲「Delusion:All」だ。さっそく巻き起こる巨大なシンガロング。〈We’re all de-fucking-lusional〉――「俺たちはクソみたいな妄想をしているんだ」という言葉に表面的な意味とは裏腹の確信を宿らせながら、実に1年半ぶりとなるONE OK ROCKの国内ワンマンライブは幕を開けた。
バンドの最新型を示す壮大な曲に続くのは「欠落オートメーション」。ONE OK ROCKの新たな始まりを刻んだシングル『The Beginning』(2012年)のカップリング曲だ。ストリングスのイントロが流れた瞬間、いきなりのレア曲にどよめきのような歓声が起きた。そのどよめきは瞬く間に嵐のような手拍子になり、大合唱に形を変えていく。さらに重ねられるのは「Re:make」。バンドの歴史を遡るような序盤の展開に、最初のTakaの言葉のコラージュ同様、ひとつの大きなストーリーが浮かび上がっていった。「Toru、いっちゃって!」。Takaが叫んでToruのギターソロへ。ステージを覆うように火花が噴き上がるなか、鮮やかなソロを決めてみせた。
「こんばんは、ONE OK ROCKです! お祭り騒ぎする準備はできてますか?」――3曲を終えてTakaはそう挨拶したが、まさに「お祭り」のような熱狂が、すでに味の素スタジアムに充満している。ただし、その「お祭り」は単なる祝祭ではなく、なんというか、ロックとロックバンドの生存を懸けた決起集会のような、震えるような高揚感を伴ったものだ。RyotaのベースとTomoyaが叩くアッパーなビートに合わせて「1、2、3!」とTakaが叫ぶと、レインボーカラーの煙が狼煙のように上がる。そうして突入するのは「じぶんROCK」。これも10年以上前に生まれた曲だが、4人の演奏のテンションと怒号のように響き渡るシンガロングがその時間差を一瞬にして無効化する。巨大なスタジアムでまるでライブハウスのようにソリッドなサウンドを繰り出すバンドには、まるで生き急ぐようなフレッシュさが宿っている。それはオーディエンスも同様だ。続く「Save Yourself」でも、そしてその後の楽曲においてもそうだったが、とにかくONE OK ROCKのオーディエンスが歌う。ずっと歌い叫んでいる。そしてその声が、バンドの長い歴史をぎゅっと縮めて“今”へと引き寄せる。ロックだけが生み出せるそのマジックが、キャリアを総覧するようなセットリストで展開していくライブを、身も蓋もない現在進行形へと仕立てていくのだ。過去曲も新曲も関係ない、そこにあるのはただ“今”のONE OK ROCKと、それに向き合うという体験だけだ。
メンバーそれぞれからの挨拶(Tomoyaはここで「ツアーに向けて準備万端のはずだったんだけど……」とまさかの口内炎ができていることを告白)を経て、野外でのワンマンライブは久しぶりだ、と口にするTaka。彼らが静岡の渚園に11万人を集めてライブをやったのは2016年のこと。その時とはバンドが置かれた状況も時代も大きく変わり、当時巨大な空間を前にどこかナーバスにも見えたバンドは、まるで楽屋のような気の置けないトークを繰り広げている。もちろんだだっ広いあの場所とスタジアムでは環境がまったく違うわけだが、明らかに、2016年の時よりも今日の彼らはオーディエンスの近くで音を鳴らしている。
「Decision」でファンとの強い絆を体現し、「Wonder」で軽やかにステップを踏みながら宇宙旅行へと誘い、一方では「キミシダイ列車」で揺るぎないメッセージを届け……あいだで前回のツアーにてお目見えしたメンバーの3Dアバターを紹介したりしながらライブは進んでいく。「Make It Out Alive」を終えると、Toruの弾くアコースティックギターの音色が聴こえてきた。披露されるのは前日のリハーサルで「澄み切った夜空と心地好い風に、アコースティックでやりたいなと思って」と急遽変更したという「Wherever you are」のアコースティックバージョンだ。最もシンプルな形で届けられるTakaの歌声に、オーディエンスもスマホのライトを掲げて応える。サビでマイクを客席に向けるTaka。美しい大合唱が、それまでの熱狂とは違うムードを連れてきた。そこからエレキギターに持ち替えたToruがそれを爪弾き、RyotaとTomoyaもそれぞれの楽器で加わって「Take what you want」へ。アコースティックとバンドサウンドが自然につながり、オーディエンスの心に再び火をつける。そこからライブはさらに勢いを増して後半戦へと突き進んでいったのだった。
Toru、Ryota、Tomoyaによるインストセッションを経て「カラス」、「Neon」、そして「The Beginning」と新旧の楽曲を織りまぜて披露したところで、Takaが再び口を開いた。ここから始まるツアーについて語り、「俺らの役割というのは、これからもデカい壁をよじ登っていくっていうことだと思います。この日本はなかなか思ったことを言える環境じゃないし、そういう教育も受けてきていないだろうけど、だからこそ言わなければいけないことを言う、伝えなきゃいけないことを伝える。周りに批判されようとも、嫌われようとも、絶対的に愛をもって、世界の平和のために言わなきゃいけないことがあると思ってます」。バンドとしての、人間としての基本姿勢をそう言葉にするTaka。「僕らは世界中を回って、日本のバンドが世界を制する現実を突きつけに行ってきます。忘れないでください、僕たちはいつでもひとつです。どんな状況で生きていても、ひとつなんです」――。そう言って演奏された「We are」がその言葉どおりの光景を生み出していく。そのまま本編ラスト「Stand Out Fit In」まで、圧倒的なユニティが味の素スタジアムを覆い続けた。
その後アンコールでは再びアバターのTakaが登場して“サプライズ”を告知。次のアルバムからの新曲が初披露された。超ソリッドなロックチューンでありながら、同時にとんでもなくポップなアッパーチューンだ。一面に広がったジャンプが、この曲の求心力を物語るようだった。そして、「Mighty Long Fall」を経て「Wasted Nights」で今度こそライブは終幕。
Takaは「世界をぐるっと回って、また帰ってきます」と力強く宣言し、その言葉を祝うように花火が轟いた。バンド史上最大スケールのワールドツアー、ニューアルバム、そして来年の20周年へ。ONE OK ROCKの新たな旅が、まさにこの日、この場所から始まったのだった。
(文=小川智宏)