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「北欧は福祉先進国、日本は遅れている」といったイメージを持っている人は少なくないでしょう。しかし、「100歳まで長生きする人の割合」というデータで比較すると、その見え方が少し変わるかもしれません。本記事では老年心理学者の権藤恭之氏の著書『100歳は世界をどう見ているのか』(ポプラ社)より一部を抜粋・再編集し、長生きに関する興味深いデータと日本独自の敬老精神についてご紹介します。

日本独特の敬老精神と「超高齢社会」の関係

ジャン=マリー・ロビンというフランスの人口学者が、日本とデンマーク、フランス、スウェーデン、スイスの5カ国を比較したデータに、どれぐらいの人数が100歳になりやすいかを示したものがあります。これは、デンマークを基準として80歳の人が95歳に到達する比率、および100歳に到達する比率を出したものです(図表1)。

[図表1]日本はデンマークの2.5倍百寿者になりやすい Jean-Marie Robine, Siu Lan Karen Cheung, Yasuhiko Saito, Bernard Jeune, Marti G. Parker, François R. Herrmann. Centenarians Today: New Insights on Selection from the 5-COOP Study. Current Gerontology and Geriatrics Research, Issue 1(2010).

男性と女性で分かれていますが、傾向はほぼ同じです。デンマークを1とした時に、地理的にお隣のスウェーデンはだいたい同じくらい、フランスは少しなりやすく、スイスも少しなりやすい。しかし日本は80歳の人が100歳になる確率がデンマークの2.5倍です。驚くべきことです。

私たちは子どもの頃から、デンマークは福祉の国だ、北欧の福祉は素晴らしいと聞いていましたが、日本のほうが長生きできるじゃないかということです。

私は、どうしてこういう違いが出るのかということについて5カ国の比較研究を進めていますが、なかなかこれだという結論は出ていません。さまざまな理由が考えられますが、最も大きな理由は日本の敬老精神の高さがその根本にあるのではないかと私は考えています。

日本では9月に敬老の日があり、毎年百寿者の人口がマスコミで報道されるので、あまり違和感を持つ人は多くないと思います。しかし、世界各国を見回しても敬老の日が国民の祝日である国はごくわずかなのです。

敬老精神の根拠となっているのは、1963年に制定された老人福祉法です。この法律に基づいて、高齢者を対象とした医療制度や高齢者を敬うさまざまな政策が取られてきました。また、多くの人が高齢者を敬う気持ちを持っていると思います。

現在、一般化されている公共交通機関の優先席は、かつてシルバーシートと呼ばれ、1973年からその制度があるそうです。最近、フランスで路線バスに乗る機会がありましたが、運転が乱暴で驚きました。急発進、急停車は当たり前で、荷物を持っていた私は転びそうになりました。日本で路線バスに乗っても、そのような経験はしたことがありません。

日本のバスでは「車が完全に停車するまで席を立たないように」というアナウンスが入りますし、乗車した人が席に座るのを確認してバスを動かします。フランスも結構な数の高齢者が乗っているのにこの違いは何でしょうか。

海外の研究者が日本に来て驚くのは、街中でたくさんの高齢者が歩いていることだそうです。日本は長年かけて高齢者が生きやすい環境をあらゆる側面で作り上げてきたのです。もちろん、そのことで自身の生活を犠牲にした人がいて、そうした状況の改善のために介護保険が導入されたことも忘れてはいけません。

ともあれ日本は高齢者を敬う精神がきわめて高い国であり、それが超高齢社会をつくったひとつの要素だと私は考えています。

老年心理学者
権藤 恭之