記事のポイント

ニューヨーク・ファッション・ウィークのデザイナーたちは、ニューヨークの多様性と創造性を称賛し、ヨーロッパにはない魅力があると語った。

ニューヨークのファッション業界は課題に直面しているが、デザイナーたちはその粘り強さと再生力を信じて努力している。

若手ブランドの創業者たちはニューヨークでの小売展開を進めており、ファッションの未来に希望をもたらしている。


ニューヨークは単一のスタイルにとらわれないファッションの中心地であると、今週のニューヨーク・ファッション・ウィーク(9月6〜11日)のデザイナーたちは口を揃えた。長年にわたり、ニューヨークは新進デザイナーの登竜門として機能し、個性や多様性、文化的つながりを独自に育んできたが、これらはヨーロッパではなかなか得られないと彼らは語る。

しかし、さまざまな文化的・経済的要因により、ファッションのエコシステムにおけるニューヨークの人気が脅かされている。

「ニューヨークからは多くのクリエイティビティが生まれている」と、28年の歴史を持つ高級婦人服ブランド、ラファイエット148ニューヨーク(LAFAYETTE 148 NEW YORK)のデザイナー、エミリー・スミス氏は、9月9日にミートパッキング地区で行われたプレゼンテーションで語った。「多様性があるからこそ、多くの異なる意見が反映されている。たとえば、我々は52の異なるサイズを提供することで、あらゆる体型やサイズに対応している。これはヨーロッパのブランドではあまり見られないことだ」。

同様に、9月7日に行われた自身のブランド、パロモ・スペイン(Palomo Spain)のショーを前に、創業者兼デザイナーのアレハンドロ・ゴメス・パロモ氏は、ニューヨークファッションの多様な考え方を強調した。「アメリカのデザイナーは自由で、多様で、クリエイティブなところが気に入っている。ニューヨークのデザイナーは皆、それぞれ独自の声を持ち、自分自身を表現している。それはヨーロッパのファッションの焦点とは全く異なるものだ。無理にシックになろうとする必要はない」。パロモ・スペインはスペインを拠点とするブランドだが、2023年2月以来、シーズンごとのランウェイショーをニューヨークで開催している。

9月8日の夜にイーストリバー沿いで行われた自身のランウェイショーを数日前に控えた、自身の名を冠したブランド、クリスチャンコーワン(Christian Cowan)のデザイナー兼創業者のクリスチャン・コーワン氏も、ニューヨークの際立った特徴について語った。

「ここにはほかの都市にはないエネルギーがあり、私は決して離れたくない。私のキャリア全体でニューヨーク・ファッション・ウィークに参加し続けたいと思っている」と同氏は言った。「ほかのファッションウィークよりも、ニューヨークはポップカルチャーに近く、若者と密接につながっているように感じている」。

そのつながりは特に今重要であると、創業者兼クリエイティブディレクターのステイシー・ベンデット氏は7月7日に開催されたアリス+オリビア(Alice + Olivia)のプレゼンテーションの際に米Glossyに語った。「ファッションのエコシステムは逆転しており、若者やソーシャルメディアから始まっている。ニューヨークはその中心にあるが、今やファッションの中心地というより、ファッションの世界全体が形成されていると思う」。

業界の停滞とニューヨーカーの粘り強さ



マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)は9月4日、「岐路に立つ:ニューヨーク市のグローバルファッションキャピタルとしての地位(At a Crossroads: New York City’s status as a global fashion capital.)」と題したレポートを発表した。このレポートによると、ファッションに関連する活動は、2022年にニューヨーク市で500億ドル(約73兆5000億円)以上の直接売上と450億ドル(約66兆1500億円)の間接売上、13万人の雇用を生み出した。しかし、同業界は課題に直面している。eコマースの台頭、影響力の分散、業界の統合、生活費とビジネスコストの高さ、規模拡大のための支援不足などがその一因である。この結果、同業界の雇用は10年前に比べて5万人減少し、パンデミック後のほかの業界の回復に遅れを取っている。

デザイナーやブランドリーダーたちは、ニューヨークのファッション業界が少し停滞していることを認めている。しかし、ニューヨーカー特有の粘り強さを反映し、彼らは業界を立て直すために努力している。

「長年にわたり、ニューヨークはファッションキャピタルとして非常に活気づいた時期があったが、その後少し勢いが落ちた」と、自身のブランドの創業者であるトミー・ヒルフィガー氏は9月8日に行われた2025年春夏コレクションのランウェイショーのバックステージで語った。「今こそその勢いを取り戻す時だと思う。我々がニューヨークに根を下ろす理由のひとつは、その先頭に立っていきたいからだ」。

スミス氏も同様に、「業界は低迷したかもしれないが、ファッションクリエイターや企業にとって、まだチャンスは残っている」と強調した。

「ニューヨーカーたちはサバイバーだ」とスミス氏は話した。

スミス氏によると、ラファイエット148は、ニューヨークがファッションキャピタルとしての地位を保ち、常に注目され続けるために、ファッションウィークに参加している。それはビジネスにもプラスなのだという。

「我々は、同じ志を持つアメリカのデザイナーたちのコミュニティの中にいたいと思っている。我々の素晴らしいプロダクトがほかのニューヨークのデザイナーたちのプロダクトと同じ舞台で紹介されることを確実なものにしたい。彼らに大きな敬意を抱いていますから」とスミス氏は言う。「そういった意味で、互いに支え合うことが重要だ」。

それでも「ファッションの中心地」である理由



デザイナーのナイーム・カーン氏は、ホルストン(Halston)で見習いとしてキャリアを始めてから45年以上ニューヨークで働いてきた経験から、「ニューヨークのファッションは創造性がすべてであり、常に立ち直る力を持っている」と語っている。

「私は業界が盛り上がっている時も、低迷している時も見てきましたが、常に新しいデザイナーが登場し、新しいアイデアが生まれている」と、同氏は9月9日のランウェイショーのバックステージで語った。「ニューヨークはアメリカのファッションの中心であり、これからもそうであり続けるだろう」。

ファッションウィークのカレンダーには載っておらず、バイヤーや投資家とのミーティングのためにニューヨークに来ていたブランドの創業者たちは、ニューヨークが彼らの成長中のビジネスにとっていかに重要かを強調した。米Glossyが取材した2人の創業者は、困難に直面しながらも、ソーホーに店舗やポップアップをオープンすることに成功している。

「ニューヨークに店舗を開くことは、クヤナにとって最重要事項だった」とレザーバッグブランド、クヤナ(Cuyana)のCEOカルラ・ガジャルドは語り、その理由を3つ挙げた。「1つめは、ニューヨークがメディアの中心地であり、業界の動向について洗練された専門的な意見を持つ編集者が多いためだ。2つめは、我々は、プライベートと仕事を両立させているキャリア志向の女性に向けてデザインしているからだ。ニューヨークにはそういった女性たちが特に多く存在し、彼女たちから学ぶことができる。最後に、地元の人々や観光客を含め、多くの人通りがあるからだ」。

2018年、現在11年目を迎えるブランドはプリンスストリートに店舗をオープンした。しかし、ガジャルド氏によれば、この決断が可能だったのは、2011年から2012年の市場低迷があったからこそだという。これにより、ブランドは少なくとも4つの店舗のロケーションを試すことができ、最終的に常設店舗を構えることができた。「当時、小売業は『死んでいた』し、空き店舗がたくさんあった」と同氏は言う。「ロケーションが重要だったので、我々はそのエリアに慣れ親しみ、多くのことを学び、適切な決定を下した」。

ニューヨークへの進出を目指す若手デザイナーたち



レポート「岐路に立つ」を共同執筆したマッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナー、ジョエル・グランバーグ氏は、ニューヨークのファッション小売業における最近の重要な変化を指摘した。2020年にはバーニーズやオープニング・セレモニーが閉店し、かつてフィフス・アベニューにあった百貨店ロード&テイラーの店舗は現在WeWorkになっている」と同氏は述べた。現在、低価格帯のファッション小売に比べてハイエンドなファッション小売における空き店舗が少なく、価格の高さにより大手ブランドが優勢になっている傾向が示されている。

しかし、若いファッションブランドの創業者たちは、ニューヨークでの小売展開を目指して戦略を立てており、市場の未来に希望をもたらしている。

10年前に設立され、クリス・バーチ氏を投資家に持つウィメンズウェアブランド、ダニエルギジオ(Danielle Guizio)の創業者ダニエル・ギジオ氏は9月10日、NYソーホーのグリーンストリートに常設店舗をオープンした。

「ここに店舗を持つことができるなんて、想像もしていなかった。本当に夢のようだ」と同氏は語る。店舗はロエベ(Loewe)の隣に位置し、サン・ローラン(Saint Laurent)の真向かいにあることも強調した。「素晴らしい仲間に囲まれています。...素晴らしい不動産業者と仲介業者の魔法のような手腕ですべてがうまくいった」。

「ニューヨークは今でもファッション業界の才能と人々を引きつける磁石のような存在だ」とグリンバーグ氏は語る。「ファッションハブであるためには、大手ブランドを持つことが当然重要だが、同時にファッションの未来を担う、つまり、生命力や多様性、豊かさをもたらす若手デザイナーたちの存在も必要だ。ニューヨークの強みはその多様性にある。それによって、ザ・ロウ(The Row)やケイト(Khaite)、ウラ ジョンソン(Ulla Johnson)といったブランドが繁栄するようにする必要がある」。

[原文:As New York’s fashion capital status is questioned, NYFW designers rally]

Jill Manoff(翻訳・編集:戸田美子)