箱根駅伝の名門として名高いが…

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「1名は靭帯損傷で箱根への挑戦も危うい」

 暴言暴行は日常茶飯事、挙句には学生たちがバタバタ倒れ救急搬送――。今年100回の節目を迎えた箱根駅伝において、総合優勝11回、出場回数65回を誇る順天堂大学陸上競技部。その名門で澤木啓祐・名誉総監督による、昭和の時代かと見紛うパワハラが発覚した。週刊新潮の報道後、澤木氏は名誉総監督の職を退任することを発表。果たして陸上部内で何が起きていいたのか――現役部員による告発。【前後編の前編】

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【写真】「殴る、蹴るの暴行」も告発された澤木名誉総監督

「24時間テレビ」(日本テレビ系)のチャリティーマラソンで、芸人・やす子が一昼夜かけて挑んだ距離は400メートルトラック250周分。一方、今回パワハラ被害を訴えた学生たちは、30分足らずの間にトラック25周分、約10キロメートルの距離を、いきなり走らされた。

箱根駅伝の名門として名高いが…

「ゴール後、大勢の仲間が膝をついて倒れ、数十分もの間、身動きが取れなくなる者までいました」

 そう明かすのは、順大陸上競技部のさる現役部員だ。

「寮に帰った後、熱中症のような状態になった部員が少なくとも4名いて、救急搬送された者もいました。うち1名は靭帯損傷と診断され、箱根への挑戦も危うい状況と聞いています」

「水を飲ませようとすると“甘えさせるな!”」

 事件は6月26日、千葉県印西市にある順大さくらキャンパスで起こった。

 同部の実質的トップで名誉総監督を務める澤木啓祐氏(80)の指示の下、予選敗退となった全日本大学駅伝大会に関係した部員らが集められたという。

 その様子を目撃した別の部員はこう話す。

「10人以上の部員が集められ、澤木監督から “箱根に間に合わないぞ”と発破をかけられ、唐突に1万メートル(10キロメートル)を走るよう命じられていた。他の練習が続いていた部員からすれば、予告なく体の調整もできていない、かなり苛酷な状況でした」

 集合時間は16時過ぎと夕方だったが、ひどく蒸し暑かったそうだ。

「マネージャーが部員に水を飲ませようとしましたが、澤木総監督は“甘えさせるな!”と激高。両手でバッテンを示すジェスチャーをして制止していたのを見た人もいます」(同)

〈仲間や先輩、先生方が暴行を受ける姿を見ている〉

 長距離走者としてメキシコ、ミュンヘン両五輪に出場した澤木氏は、指導者として母校・順大を箱根駅伝で9度の総合優勝に導き、教え子には初代「山の神」として名をはせた今井正人氏もいる。その手腕を高く評価され、日本陸連専務理事まで務めた名伯楽だが、順大では“絶対権力者”として君臨していた様子だ。

 事件後に学内で出回った〈被害者とその仲間一同〉による告発文を見ると、

〈たくさんの仲間や先輩、若い先生方が殴る、蹴るの暴行を受ける姿をみているため、(中略)走ることしかできませんでした〉

 といった調子で、澤木氏の横暴ぶりがつづられている。

 同部OBによれば、

「澤木監督は“腹筋に力が入っていない”と言って腹部をグーでパンチしたり、革靴で蹴りを入れたこともある。“でくの坊が”“使えない”など、言葉の圧もしょっちゅうでした」

「大昔からやっていることだから」

 駅伝監督やコーチたちも暴言を浴び、学生を守ることはできなかったとか。

 現在は同部コーチを務める「山の神」今井氏の携帯に架電すると、

「その件については、お話しできません……」

 と口を濁すのだった。

 それでは当の澤木氏はどう答えるか。ご本人に自宅前で直撃してみたところ、

「大昔からやっていることだから。大会後、同じ距離を走れば自信をつけられる。そういう意味だった。走る前にパルスオキシメーターで体調を確認し、周回遅れはその場でやめさせなさいと駅伝監督に指示した。給水は暑かったら取らせるけど、あの日は“涼しいからよいだろう”と判断した。だって箱根や予選会も1回しか給水しないよ?」

 とはいえ、結果的に複数の部員が倒れたのは事実だ。

「普通はそんなもんだよ。練習というのは」

 その点を改めて聞くと、

「私は見ていない。翌日に病院へ行く予定があって終了後に帰ったんや。今、初めて詳細に聞きましたよ。後日、現場から熱中症があったと軽い感じで報告を受けたから、そうかと言って済ませました。普通はそんなもんだよ。練習というのは」

 順大本部にも問うと、

「選手の安全管理は、十分な注意の元に行っているところですが、体調不良を訴える選手が出たことは誠に遺憾です。引き続き選手の安全管理を徹底していきます。尚、澤木特任教授からは陸上競技部の指導から退くと申し出がありました」

 前回の箱根では総合17位、シード権の獲得すらかなわなかった順大。受け継がれてきた名門の襷(たすき)は再生できるだろうか――。

後編【箱根駅伝の名門で“パワハラ指導”をしたレジェンド総監督の素顔 「“甘えさせるな!”と激高」】では、澤木氏の来歴について詳しく報じている。

「週刊新潮」2024年9月12日号 掲載