『虎に翼』28歳俳優の“食べるシーン”がイイ理由。家族の不和を孤独に描く“表情”に注目
『虎に翼』(NHK総合)の主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)が、同僚判事・星航一(岡田将生)と内縁関係になった。すると航一の子どもたちも顔を揃え、新キャラ登場である。
航一の長男・星朋一を演じるのが、井上祐貴。大学での成績はトップで法律家を志すこの人物はなかなかのくせ者だが、井上の演技はまったく無駄がなく、感動的ですらある。それはなぜなのか。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、“食べる人”としての特徴に注目しながら、本作の井上祐貴を解説する。
◆井上祐貴は、食べ物とともにある人
『虎に翼』第20週第97回、新潟から東京に戻ってきた佐田寅子が、娘の優未(毎田暖乃)を連れて同僚判事・星航一の家にやってくる。航一の父であり最高裁判所初代長官・星朋彦(平田満)の後妻である星百合(余貴美子)は寅子の手土産を嬉しそうに受け取り、航一の子どもたちも優しげに迎える。
これから家族になろうとする佐田家と星家が同じ食卓を囲んで初めて食べるのが、店屋物の鰻重。優未はお重に箸を運び、一口食べた鰻の味に心踊らせる。それを見た航一の長男・星朋一(井上祐貴)が「優未ちゃん、鰻好きなの?」とたずねる。
初登場した朋一の第一声が、「初めまして」に続いて、この「鰻」という単語にぎゅっと凝縮され、食卓全体にさりげなく響く。井上祐貴という、極めて精悍な印象の俳優はどうやら食べ物とともにある人のようなのだ。
◆大盛中華にがっつく『イケメン共よ メシを喰え』
筆者が井上を初めて画面上で見たのは、筧美和子主演ドラマ『イケメン共よ メシを喰え』(テレビ大阪・BSテレビ東京、2022年)だったと記憶している。筧扮するイケメン好きの雑誌編集者・池田好美がグルメ企画を担当することになり、彼女が指導を任された新入社員・細見賢人を井上が演じている。
極端に少食な好美はチーズケーキでランチを済ませてしまう。ところが大好きなイケメンが食事する姿を前にすると翻って、猛烈な食欲を感じる。目元の泣きぼくろによって「ヤンチャ系と無気力系のハイブリッドイケメン」と判定した賢人にもう夢中の彼女は、中華料理店でチャーハンと餃子、麺類にがっつく彼を見て大興奮。
ワイシャツの袖をまくり、食べるモードに切り替わった賢人が大盛中華を平らげる姿が延々描写される。結構脇を広げて、とにかく一点集中でがつがつ食べる井上だが、この作品をきっかけに食べる人として印象づいたことは言うまでもない。
◆脇広げから読み解く演技
脇を広げてワイルドに食べるということでは、本格的な調理シーンに初挑戦した『にがくてあまい』(東海テレビ、2023年)も共通している。
同作で井上が演じたのはゲイでベジタリアンの美術教師・片山渚。第1話、広告代理店でばりばり働く主人公・江田マキ(生駒里奈)が、同居予定だった彼氏に捨てられ、ゲイバーでくだをまいているところへ野菜を抱えた渚がやってくる。
渚は泥酔したマキを介抱してそのまま彼女の家で一泊する。翌朝、マキが目を覚ますと、キッチンで渚が朝食を作っている。さすが美術教師のこまやかな手つきで、野菜を刻んで煮込んだミレットスープをこしらえるのだが、マキは大の野菜嫌い。
せっかく用意された野菜料理を前に躊躇するマキを横目に、渚はうまいうまいと自作を食べ進める。ここでも井上はやっぱり脇を広げる。料理と井上祐貴、そして脇広げ。この特徴的な仕草から、彼の演技を読み解けないだろうか?
◆脇を広げることを禁じられた演技の場
『虎に翼』に話を戻すと、鰻重を食べる場面では全然脇を広げていないことがわかる。それどころか、まるで修道院のように静かな星家の食卓では、ぎっちり脇をしめて食べることが厳格なマナーとして守られている。
航一の長男・星朋一を演じるのが、井上祐貴。大学での成績はトップで法律家を志すこの人物はなかなかのくせ者だが、井上の演技はまったく無駄がなく、感動的ですらある。それはなぜなのか。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、“食べる人”としての特徴に注目しながら、本作の井上祐貴を解説する。
『虎に翼』第20週第97回、新潟から東京に戻ってきた佐田寅子が、娘の優未(毎田暖乃)を連れて同僚判事・星航一の家にやってくる。航一の父であり最高裁判所初代長官・星朋彦(平田満)の後妻である星百合(余貴美子)は寅子の手土産を嬉しそうに受け取り、航一の子どもたちも優しげに迎える。
これから家族になろうとする佐田家と星家が同じ食卓を囲んで初めて食べるのが、店屋物の鰻重。優未はお重に箸を運び、一口食べた鰻の味に心踊らせる。それを見た航一の長男・星朋一(井上祐貴)が「優未ちゃん、鰻好きなの?」とたずねる。
初登場した朋一の第一声が、「初めまして」に続いて、この「鰻」という単語にぎゅっと凝縮され、食卓全体にさりげなく響く。井上祐貴という、極めて精悍な印象の俳優はどうやら食べ物とともにある人のようなのだ。
◆大盛中華にがっつく『イケメン共よ メシを喰え』
筆者が井上を初めて画面上で見たのは、筧美和子主演ドラマ『イケメン共よ メシを喰え』(テレビ大阪・BSテレビ東京、2022年)だったと記憶している。筧扮するイケメン好きの雑誌編集者・池田好美がグルメ企画を担当することになり、彼女が指導を任された新入社員・細見賢人を井上が演じている。
極端に少食な好美はチーズケーキでランチを済ませてしまう。ところが大好きなイケメンが食事する姿を前にすると翻って、猛烈な食欲を感じる。目元の泣きぼくろによって「ヤンチャ系と無気力系のハイブリッドイケメン」と判定した賢人にもう夢中の彼女は、中華料理店でチャーハンと餃子、麺類にがっつく彼を見て大興奮。
ワイシャツの袖をまくり、食べるモードに切り替わった賢人が大盛中華を平らげる姿が延々描写される。結構脇を広げて、とにかく一点集中でがつがつ食べる井上だが、この作品をきっかけに食べる人として印象づいたことは言うまでもない。
◆脇広げから読み解く演技
脇を広げてワイルドに食べるということでは、本格的な調理シーンに初挑戦した『にがくてあまい』(東海テレビ、2023年)も共通している。
同作で井上が演じたのはゲイでベジタリアンの美術教師・片山渚。第1話、広告代理店でばりばり働く主人公・江田マキ(生駒里奈)が、同居予定だった彼氏に捨てられ、ゲイバーでくだをまいているところへ野菜を抱えた渚がやってくる。
渚は泥酔したマキを介抱してそのまま彼女の家で一泊する。翌朝、マキが目を覚ますと、キッチンで渚が朝食を作っている。さすが美術教師のこまやかな手つきで、野菜を刻んで煮込んだミレットスープをこしらえるのだが、マキは大の野菜嫌い。
せっかく用意された野菜料理を前に躊躇するマキを横目に、渚はうまいうまいと自作を食べ進める。ここでも井上はやっぱり脇を広げる。料理と井上祐貴、そして脇広げ。この特徴的な仕草から、彼の演技を読み解けないだろうか?
◆脇を広げることを禁じられた演技の場
『虎に翼』に話を戻すと、鰻重を食べる場面では全然脇を広げていないことがわかる。それどころか、まるで修道院のように静かな星家の食卓では、ぎっちり脇をしめて食べることが厳格なマナーとして守られている。