鎌田大地、プレミアでの前途は? 瞬間的には光るプレーも「中央集中」のサッカーに埋没
今季、UEFAリーグランク1位のプレミアリーグに所属する日本人選手は5人。各国の"国力"を推し量るうえで、この数字はチャンピオンズリーグ出場についで重要になる物差しだ。
そのうち開幕戦のピッチには三笘薫(ブライトン)、菅原由勢(サウサンプトン)、鎌田大地(クリスタルパレス)の3人が立った。冨安健洋(アーセナル)は故障。遠藤航(リバプール)はベンチ入りするも、出場機会なしだった。
出場時間は三笘が89分、菅原が45分。ブレントフォードとのアウェー戦にスタメン出場した鎌田は70分間だった。
クリスタルパレスの監督はドイツ人のオリバー・グラスナーだ。フランクフルトで鎌田らを率いて、ヨーロッパリーグのタイトルを獲得した監督である。鎌田がラツィオからクリスタルパレスに移籍を果たした理由はわかりやすい。
グラスナーがロイ・ホジソン監督の後任としてクリスタルパレスの監督に就任したのは昨シーズンの2月。そのとき15位だった順位を終盤の連勝で最終的に10位まで順位を押し上げたこともあり、ユーロ2024のイングランド代表にはプレミアのクラブとしては最多の4人を送り込むことになった。主力級はCBのマルク・ゲイぐらいだったが、プレミアにおいて勢いのあるチームであることを誇示することになった。
新加入の鎌田はその流れに乗ることができるか。おさらいをすれば、昨季所属したラツィオでは、前任のマウリツィオ・サッリ監督との相性の悪さも手伝い苦戦した。監督がイゴール・トゥドールに代わるまで、出場機会に恵まれずにいた。日本代表の森保一監督の評価も、けっして高くなかったこれまでよりさらに下落。今年初めに行なわれたアジアカップのメンバーから外れる事態に陥った。
ブレントフォード戦でプレミアデビューを飾った鎌田大地(クリスタルパレス)photo by Reuters/AFLO
プレミアの昨季10位という成績は、三笘が所属するブライトン(11位)よりわずかに上だ。ここで活躍することができれば、選手としての格は確実に上がる。代表監督が自らの"好み"を云々していられない状況になる。
グラスナー監督のサッカーは、プレミアにおいては少数派の5バックになりやすい3バック(3−4−2−1)だ。フランクフルト時代と同じで、鎌田も同様にその2シャドーの一角に座った。これまでの経緯を踏まえると、鎌田好みの役回りだと推察される。
鎌田の身長は184センチ。日本人のなかでは大柄な部類に入るが、ボールを保持しながら身体を多角的に回転させることができる。ポストプレーがうまいとされる所以だが、この日も開始4分、挨拶代わりにさっそく披露した。
MFアダム・ウォートン(イングランド代表)からパスを受けるとくるりと身を翻し、前方で構える1トップのジャン・フィリップ・マテタ(フランス代表)に縦パスをつけ、その結果、CKのチャンスを得た。大迫勇也を除けば、日本人でこの手のプレーをサクッとこなす選手は見当たらない。鎌田の貴重さを垣間見た瞬間である。
前半20分には日本人選手らしい忠実さを披露している。相手のCBイーサン・ピノック(ジャマイカ代表)を追いかけたその足でGKマルク・フレッケン(オランダ代表)にもしつこくプレスをかけた。それがミスフィードを呼び、近距離からのFKゲットにつながった。
だが、この日、1番のプレーは前半のアディショナルタイムに再び見せた回転プレーだった。鎌田はCBゲイのロングフィードに反応。最終ラインの裏に入り込むとピノックを背に置きながらくるりと回転。マテタのシュートをお膳立てするラストパスを送った。シュートは外れ、鎌田の飛び出しもオフサイドの判定が下されたが、細身のすらりとした長身選手が、ともすると猫のような動きで、身体能力の高い大柄なディフェンダーを翻弄する姿は、痛快そのものだった。
一方、残念だったのは前半40分、右前方を走るマテタに送ったラストパスの精度だ。鼻先に出せば1点という決定的なシーンで、鎌田は3メートル先にずらしてしまった。
ブレントフォード戦の結果を言ってしまえば、クリスタルパレスは2−1で敗れた。ブレントフォードが前半29分に先制すれば、クリスタルパレスが後半12分にピノックのオウンゴールで同点に追いつくという展開で、ヨアネ・ウィサ(コンゴ代表)の逆転弾が決まったのは後半31分、鎌田がピッチを去ったあとだった。
クリスタルパレルはサッカーの質でブレントフォードに劣った。この試合をひと言でまとめればそうなる。
何と言ってもボールの奪われ方が悪かった。3−4−2−1はパッと見、先の尖ったクリスマスツリー型だ。4−1−4−1のブレントフォードにサイドを突かれれば突かれるほど、その傾向は増す。攻撃は中央に偏る。しかも1トップのマテタ、2シャドーの一角を張るエベレチ・エゼ(イングランド代表)の身体能力に頼るその攻撃は強引だ。途中で負傷したマテタに代わって入ったオドソンヌ・エドゥアール(U−21フランス代表)も身体能力を生かした荒々しさが売りだ。
加えて鎌田も、2シャドーの左というより1トップ下付近でプレーしたことから、真ん中集中の傾向はいっそう顕著になった。ボールを奪われる場所が必然的に内寄りになるので、その瞬間、高い確率でピンチに陥る。現役のイングランド代表4人を含むメンバーの力はブレントフォードを上回る。メンバーで勝りながら、昨季16位のチームに敗れる姿はけっして美しくなかった。グラスナー采配は正直、イマイチという印象だった。
それはこの日に限った話で終わるのか。少なくとも、鎌田の前途に対して100%楽観的になれる試合ではなかった。瞬間的には光るプレーを見せた鎌田だが、全体的にはクリスマスツリー型のサッカーに埋没してしまった格好だ。クリスタルパレスと鎌田のこれからに目を凝らしたい。