SASUKEワールドカップの「編集中に何度も涙ぐみました」 総合演出家が語った胸を打たれた人間ドラマ
SASUKE総合演出家の乾雅人氏。自ら編集も行なっている photo by Kishiku Torao
乾雅人(SASUKE総合演出家)インタビュー後編
SASUKEの第1回から制作に携わり、現在も総合演出を務める乾雅人氏。インタビュー後編では、8月 21日(水)にTBS系列でよる6時30分から放送されるSASUKE史上初の世界大会「SASUKEワールドカップ2024」に込めた思いを聞いた。
――今回の「SASUKEワールドカップ2024」の開催ですが、以前から構想自体はあったそうですね。
乾 10年ほど前からスタッフ間で話に上がっていました。SASUKE新世代の漆原裕治くんや菅野仁志くんらともやりたいね、なんて話もしていて、今回ようやく状況が整い、開催が決まりました。
――出場国と選手はどんな形で選ばれたんですか。
乾 企画に賛同いただき、いまなお現地制作を続けている国のなかから、アメリカ、ドイツ、フランス、オーストラリアの4カ国にお願いしました。出場者の人選は各国のテレビ局側によるものです。ただ、本当にトップ選手ばかりを選んできましたよね。ラインナップを見ながら、これは大変なことになった。もう少し手加減してくれてもいいのに、なんて思いましたから(笑)。
――日置将士さん、森本裕介さんにインタビューもしましたが、おふたりとも開催を喜びつつ、出場に関しては危機感を覚えたそうです。
乾 でしょうね。今回の日本代表は、遠征経験のあるメンバーが大半で、各自散々な目にあっているんです。まぁ、とにかく勝てない(笑)。それもファーストステージの第一エリアで脱落なんてこともある。今回は日本での開催。絶対に同様の結果を招いていけないというのは、相当なプレッシャーだったと思いますよ。
――大会は団体形式での対抗戦となります。それにしても一体なぜ、世界大会で日本は勝てないのでしょうか。
乾 森本くん、日置くんも言っていたと思いますが、何より障害物の規格が違うんです。たとえば並行に配置された2枚のアクリル板に手足を突っ張って進むスパイダーウォークというエリア。アメリカのほうが日本よりも幅が広くて、日本人選手は体が小柄なので手足が届かないんです。
またこれもアメリカですが、ファーストステージの第2エリアからは、ぶら下がって飛び移る障害ばかりの連続。これも慣れていないとなかなかできません。ヨーロッパやオーストラリア版のNINJA WARRIORはアメリカで使用したセットを使い回しているので、現地の選手は慣れている。そう考えると日本人は分が悪いですよね。
――逆に今回は自国開催ということで、日本の規格になると。
乾 そう。なので日本選手にとって大きなアドバンテージになるはず。まぁ日本規格でやることは事前に各国へお知らせしているので、それぞれ準備はしてきたと思います。日本のSASUKEに何度か出場している、アメリカ代表のジェシー・グラフは、日本仕様の練習をしてきたと言っていました。
――各チームとも優勝を目指し、本気で挑んでくると。
乾 そうだと思います。なにしろ世界各国のNINJA WARRIORは、SASUKEのセットのことを「Mt.MIDORIYAMA」と呼び、番組は「ようこそ! マウント・ミドリヤマへ!」という掛け声とともに始まります。言ってみれば、日本の緑山スタジオはプレーヤーたちにとっての「聖地」。「とうとう本場に来たんだ!」と気合十分でした。
【うれしさのあまり感涙】――みんな、日本のSASUKEに出たいんですね。
乾 今回、ワールドカップの日本開催を公式に発表した直後、世界中からメッセージが届きました。「俺を呼んでくれ」「俺はすごいぞ」って。それがあまりに多くて、「各国の放送局に任せているんだ」って返信するのが大変でした。
――ワールドカップの収録現場で選手たちの様子はどうでした?
乾 編集する際、選手たちへのインタビューやベンチ内の会話などをしっかり聞いたんですけど、いかにここでやるのが夢だったかをみなさん語っていました。なかには、うれしさのあまり、泣き出す選手もいました。海外の方々のSASUKEへの熱量は自分の想像を遥かに超えるほど。びっくりしましたよ。
「SASUKEワールドカップ2024」でのひとコマ
――乾さんが感じる日本のSASUKEにあって海外にないものは?
乾 細かい技術とエリアのバリエーションですね。海外のファーストステージは日本のサード(腕力を生かしたもの)のようなエリアばかりで、日本のようなバリエーションはほとんどないんです。それだけに外国勢の選手は脚力が弱く、日本のファースト(脚力を生かしたようなもの)はきつく感じるみたいです。
――なるほど。まさしく今回、外国勢がファーストをどう戦うか見物ですね。逆に海外にあって日本にないものは?
乾 楽しむ姿勢です。NINJA WARRIORを見ても思いますけど、海外勢は脱落しても笑顔だし、会場も盛り上がるんです。一方で日本はやたらシリアスですよね。以前、海外の選手がSASUKEに参戦したとき「せっかくなんだからもっと楽しめよ」と日本人選手に言ったのを聞いたことがあります。日置くんや大嶋あやのさんなどは刺さっていましたね。
【日本3チームもクレームゼロ】――最後にひとつ質問なんですが今回のワールドカップ。日本はRed、Blue、Legendと3チームあります。他国は1チームのみ。これはどういう意図から?
乾 おーっ、その質問、きましたか(笑)。まず長野誠さん、山田勝己さんは日の丸をつけて海外で戦ったことがないんです。彼らはSASUKEのスタートから28年にわたり番組の歴史を支えてくれた功労者。感謝の気持ちを込めて、この舞台に呼びたいなと。そして漆原くん、日置くんら今の番組を支えているTEAM Blue、海外に対抗できる面々を揃えた森本世代のTEAM Red、そしてTEAM Legendの3チームを揃えて史上初の世界大会を飾れればと思ったんです。もちろん海外のプレーヤーたちも長野さんや山田さんがプレーしているところを見たいだろうと思いましたし。
――他国からクレームはなかったんですか。
乾 それがまったく! 内心ではすぐ何か言われるかなとちょっとビクビクしていたんです。でもみんな「ヤマダサンニアエル!」ってウエルカムモード。クレームゼロでした(笑)。
――現場でも山田さんらに対し、そんなムードになったんですか。
乾 めちゃくちゃなりました! すごかったですよ。今回、出場する30代の海外選手は子供の頃、NINJA WARRIORを見て、出場に憧れていた世代。みんなのスーパースターです。みんな、「山田さんが走っている姿を見られてこんな幸せはない」と言っていました(笑)。
――マイケル・ジョーダンやマラドーナみたいですね。乾さん自身、今回のワールドカップを通じて、SASUKEの新たな魅力を発見しましたか。
乾 いやー、いままでとはまったく異なるSASUKEです。今回のワールドカップは通常のよりも断然、面白いんじゃないかと思っています。日本人は団体競技が好きじゃないですか。
――駅伝とか野球、バスケットボール、バレーボール、あるいは柔道の団体戦とか。
乾 そう。たすきを繋いでいくものって面白いですよね。ミスした選手を仲間たちが熱い言葉をかけて元気づけたり、カバーしていく。その姿に胸を打たれます。今回、編集中に何度も涙ぐみましたよ(笑)。
――ただのスポーツ大会ではなく、改めてSASUKEは人間ドラマなんですね。
乾 そう思います。もちろん勝ち負けや競技そのものにも注目していただきたいですが、それ以上にプレーヤー同士がどんな気持ちでいるのか、どういう心情で緑山にいるのか、どこまで辿り着いて何を見たいのか。そうした人間の姿と熱を見せる番組なんだと思います。
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【Profile】
乾雅人(いぬい・まさと)
1964年生まれ、テレビ演出家。「SASUKE」「Amazon 風雲!たけし城」「旅するサウナ」 「リアル脱出ゲームTV」など数々の番組演出を手掛ける。FOLCOM.代表