【夏の甲子園】低反発バットが生んだ新たな挑戦 木製バットを使う早実・宇野真仁朗に見る高校球児の打撃改革
思考力──低反発バットの導入により、球児に変化が起きていることのひとつに、選手たちがバッティングについて深く考えるようになったことが挙げられる。
トレーニングをして振る力をつけ、ただフルスイングすれば打球が果てしなく飛んでいった以前までのバットとは異なり、理にかなったスイングをしないと、自分が理想とするバッティングができない。新基準の低反発バットは、思わぬ意識改革を球児に促している。
甲子園でも木製バットを使用した早稲田実業のスラッガー・宇野真仁朗 photo by Ohtomo Yoshiyuki
そんななかでも、さらに難しいハードルである木製バットを使用する選手からは、とにかくバッティングを追求しようという姿勢がうかがえる。
「(新基準の)金属バットも使ってみたんですが、僕には合わないなと思いました。木製バットの方が飛んでいくなと感じで使うようにしています。木製バットを使うようになって、以前よりどういう風にスイングしないといけないかをすごく考えるようになりました」
早実のスラッガー、ドラフト候補とも言われる宇野真仁朗はそう語る。「内からバットを出す」スイングを心がけ、レベルの高いバッティングを見せている。
1回戦の鳴門渦潮(徳島)戦の打棒は圧巻だった。1打席目は、ファーストコンタクトで141キロのストレートをレフト前に弾き返す安打(二塁打)。二死満塁で迎えた第2打席では、スライダーを捉えてフェンス直撃の二塁打を放った。
初の甲子園、木製バットを使用するなかでの快打に、宇野のスター性を感じたのは言うまでもない。
「この甲子園に入って自分たちの野球ができた。(チャンスの場面は)ツーアウトだったので、1点でもいいから返そうと思ってセンター返しを意識しました。うまく変化球に反応できて、いい感じで前のポイントで捉えることができたかなと思います。新基準バットになってから木製を使ってきたので、練習の成果が出ただけだと思う」
その日のヒーローとなり、お立ち台で宇野は笑顔を見せた。
だが、2回戦の鶴岡東(山形)、3回戦の大社(島根)との試合は一転して投手戦。ともに延長タイブレークにもつれる死闘になったが、宇野は2試合ともノーヒット。木製バットの壁にぶち当たったような打席だった。
敗れた3回戦のあとは悔し涙を見せたが、それでも冷静に自身の課題を分析していた。
「(相手投手の)力のあるボールに対して、力で対抗してしまった感じがあって、インコースもしっかり投げきってきましたし、高めのボールもよかった。そこらへんにやられたかなと思います。(木製バットは)金属バットよりもバランスがヘッドの方にあるので、少しでも力んでバットが身体から離れてしまうと、バットが出てこなくてファウルになったり、詰まったりしちゃうので、力まないでしっかり素直に打ち返せる技術が必要だなと感じました」
【バッティングへの探究心】宇野と話をしていると、深い考察があるのがわかる。ただスイングをしているのではなく、しっかりと考えて取り組んでいる。宇野のなかでのバッティングの思考は、この1年の間でも大きく変わったようだ。
もともと「スイングスピードが速くても、コンタクト率が高くないと試合で使ってもらえない」と考えていたそうだが、低反発バットになってスイングの考え方は変化した。
「スイングスピードより、コンタクト率の意識のほうが高いです。たまたまうまく当たってホームランというのはありますけど、当たる確率が高くて、打率の高い選手のほうがチームのなかで活躍できるかなと自分は思っています。
ただ、前のバットの時より意識は変わっているかなと思います。前のバットだったら、とにかく当てにいけばめちゃくちゃ飛んでいたので、当てることへの意識は高かったです。バットが変わって芯が細くなりましたし、芯が小さくなっているので、とにかくしっかりいいスイングというか、理にかなったスイングをしないと、ヒットはなかなか出ないと思います」
今は多くの情報で溢れている。昨今、プロ野球選手をはじめとして「縦振り」というスイングが流行し始めているが、宇野にそれについて聞いてみると、殊勝にこう話すのだった。
「縦振りはやってみたりはしたんですけど、自分のなかでその技術は足りなかったなと思っています。もちろん、しっかり教えられて技術がある人ならやっていいかなと思いますけど、自分には縦振りをするっていう意識ではやっていないです」
縦振りとはスイングの軌道の話だ。バットの面をいち早くみせ、バットの遠心力を使いながら振り上げるようなスイングは時に「アッパースイング」と批判を受けるが、手首を返さないスイングはボールを正しくコンタクトしやすいとも言われている。ダウンスイングではボールを点で捉えないといけないが、縦振りにしていくと線で合わせることができるという利点もある。
しかし、高校生の間にそれを身につけるのは容易ではなく、宇野のような返答になっているのだろう。
とはいえ、宇野はその知識を知っていたところに、彼のバッティングへの探究心が見えるというものだ。バットが変更になって、今の3年生は意識改革を余儀なくされているが、こうした新しいことへの取り組みは楽しい時間かと聞いてみると、宇野は笑みを浮かべてこう話した。
「正直、楽しくは感じないんですけど、結果的にいろいろ変えながら、いろんなことを意識しながら挑戦して、これはダメだっていうのを何回もやってきた。それがバッティングかなと思う。いろんなことを試すという過程がなかったらバッティングっていうのはよくならないと思うので、そういった部分に関しては(考えたりする時間は)必要なものかなと思います」
低反発バットの導入で騒がれるのは本塁打が減った、長打が見られなくなった、得点数が少ないなどネガティブな声もある。もちろん、それは事実であるのだが、突然のバットの変更に、真摯に取り組んでいる球児の姿があることを忘れてはいけない。
「(大学や社会人やプロで)これから野球を続ける限りは[俊寺1]、木製バットを使わないといけない。そのなかでこの本気の舞台で経験して、結果を残せましたし、いろいろな課題も見えてきた。これからの野球人生にとってはプラスになると思います」
宇野のような高校球児を見て、今は打てなくても、もがきながら思考している時間が彼らを成長させ、将来必ず花を咲かせるのではないか。思考力のある高校球児の登場に、そんな希望を見出している。