今週末にプレミアリーグ(イングランド)、セリエA(イタリア)、ラ・リーガ(スペイン)、リーグアン(フランス)など、多くの国でリーグ戦が開幕する欧州サッカー。今季も多くの日本人がプレーするが、なかでも注目の選手は? ジャーナリスト4人が推すのは――。

ケガから復帰したファンタジスタ的ウインガー
坂元達裕(コベントリー・シティ)

杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

 ウイングは日本で最も競争の激しい、人材の宝庫と化しているポジションである。それを承知の上であえて、推したくなるのが坂元達裕だ。森保ジャパンのもとで2度の日本代表キャップがあるが、2022年1月に欧州組となってからは招集歴がない。

 ベルギーのオーステンデから昨季チャンピオンシップ(イングランド2部)のコベントリー・シティへ移籍。開幕直後こそベンチスタートだったが、シーズンの進行とともに出場機会を増やし、秋口には不動のスタメンとして欠かせぬ選手となっていた。

 日本代表に選出されても不思議ではないほど、現地で高評価を博している。コベントリーの成績もそれとともに急上昇。プレーオフどころか、プレミアリーグ昇格圏をうかがう勢いにあった。ところが今年の2月末、坂元は空中戦で背中を強打。ケガによりその後のシーズンを棒に振る。それと呼応するようにコベントリーの成績も急降下。坂元の重要性を証明する結果になった。

 左利きの右ウイング。セレッソ大阪時代から、伝家の宝刀と呼ぶに相応しい、わかっていても引っかかる深々とした切り返しには定評があった。チャンピオンシップでもそれは十分すぎるほど通用している。縦もあれば、内もある。広角なウイングプレーに磨きがかかり、課題とされた得点力も改善された。昨季は出場20試合でチーム3番目に当たる7ゴールをマーク。プレーの幅、選手としてのスケール感が増している印象だ。


チャンピオンシップ(イングランド2部)開幕節で先発に復帰した坂元達裕(コベントリー)photo by ZUMA Press/AFLO

 さらに加えれば、視野の広さになる。立体的な思考回路を備えているような頭脳的なプレーが光るのだ。坂元にボールが渡ると、ゴールまでのパスルートが見えてくるから不思議である。別名、"大外で構えるゲームメーカー"。背番号は7だが10番的な魅力を備えている。中の選手を操るウインガー。使われる選手というより使う選手だ。

 ウインガーはよく韋駄天と言われるが、ヘンな荒々しさはない。あえて言うなら三笘薫的だ。ウインガーの概念を覆すファンタジスタ的なウインガー。褒めすぎを承知で言えばそうなる。

 ケガは癒えたようである。早くも開幕したチャンピオンシップでは、初戦のストーク・シティ戦でスタメン出場を果たしている。いわゆる2部リーグの域を超えたチャンピオンシップにおいて今季もプレミア昇格をうかがうチームで、不可欠なプレーを見せることができるか。目を凝らしたい。

海外でこそプラスに働く、小回りが利く希少性
三戸舜介(スパルタ・ロッテルダム)

浅田真樹●文 text by Asada Masaki

 パリ五輪準々決勝敗退という結果で、およそ2年半におよぶ活動を終えたU−23日本代表だったが、その活動期間中は、五輪本番のみならず、数多くの海外遠征を行ない、強豪国との対戦を重ねてきた。そうした機会を通じて海外勢に対する強さを見せていたのが、三戸舜介である。

 日本人選手のなかには、国内(Jリーグ)では活躍できても、国際試合になると思うようなプレーができない選手もいれば、逆に、国際試合になると、むしろ国内で見ている以上のインパクトを残す選手もいる。三戸の場合、後者だった。

 スペースを見つける判断力、そこへ走り込むスピード、狭いスペースでも瞬時の動きで相手のマークを外せるアジリティ。そうした特長を持つ三戸は、国際試合で頼りになる選手だったのである。

 それはパリ五輪でも証明された、と言っていいだろう。大会初戦のパラグアイ戦で貴重な先制ゴールを含む2得点を挙げたのをはじめ、全4試合に出場。先発出場でも、途中出場でも、多くのチャンスを作り出した。

 パリ五輪アジア最終予選を兼ねたU−23アジアカップには、所属するスパルタ・ロッテルダム(オランダ)との交渉が不調に終わったのか、出場することはかなわなかったが、それでも大岩剛監督からの厚い信頼が失われることがなかった結果である。それまでの活動を見ていれば、納得の起用でもあった。

 かねてから海外志向を口にしていた三戸が、オランダに渡ったのは今年1月のこと。以来、三戸は5月のシーズン終了までに19試合出場、2ゴールを記録した。

 初めての海外移籍、それもシーズン途中での移籍だったことを考えれば、及第点と言える数字だろう。

 アルビレックス新潟やスパルタでは、右ウイングを主戦場としてきているが、左ウイングに加え、パリ五輪でもそうだったようにインサイドMFを務めることもでき、自在性は高い。体は小さいが、むしろ海外では小回りが利く希少性がプラスに働く可能性は十分にある。

 さらに言うなら、志向するサッカーにやや大味な部分があるスパルタよりもっと上位のクラブでプレーできれば、さらに三戸のポリバレントなよさが発揮されるはず。だからこそ、今後のステップアップが楽しみになる。

 今季はもちろんのこと、さらにその先を期待したくなる選手である。

ゴール、アシストという結果を残しやすい状況に
中村敬斗(スタッド・ランス)

中山淳●文 text by Nakayama Atsushi

 オーストリアのLASKリンツからフランスのスタッド・ランスに移籍した昨シーズンは、リーグ戦25試合に出場(うちスタメン17試合、出場時間計1390分)し、4ゴール1アシストをマーク。リーグアン初年度という点で言えば、中村敬斗が残した結果は及第点だったと言っていい。

 ただし、申し分のない内容だったかと言えば、そうでもなかったというのが実情か。

 まず、それほど選手層の厚くないチームにおいて、完全にレギュラーの座を確保できなかった。左ウイングでポジション争いを繰り広げたライバルのモハメド・ダラミーも昨シーズンの新加入選手だったが、25試合に出場(うちスタメン19試合、出場時間計1657分)して4ゴール5アシストを記録している。初年度から大活躍した伊東純也と比較するのは酷な話ではあるが、出場時間が昨シーズンの伊東の約半分で、アジアカップの不在があったにせよ、ダラミーよりも下回ってしまったことは、本人も満足できない部分ではないだろうか。

 そういう意味で、今シーズンは中村にとって勝負の年。ここで飛躍できるのか、それとも沈んでしまうのかは、中村の今後のキャリアを大きく左右することになる。

 もっとも、今シーズンを展望すると、中村にはポジティブな要素は多い。とりわけプレー面で言えば、昨シーズンは持ち味のシュートのうまさを随所に見せて、ボールタッチが少ない試合でも一発で仕留める才能が光っていたが、アジアカップ後に出場機会が減ったなか、シーズン終盤戦は、カットインプレー以外に、縦突破からの左足でのクロス供給というプレーバリエーションを増やしたことが挙げられる。これにより、相手に捕まえられる局面が激減。要は、対峙する相手を迷わせることが、少しずつできるようになってきたことは意外と大きい。

 縦突破の精度がもっと上がってくれば、今シーズンは周りとの絡み方にも変化が起きるだろうし、よりカットインしやすい状況が生まれるはず。それは、ゴールやアシストといった目に見える結果を残しやすい状況が生まれることを意味する。

「昨シーズンはフランスに慣れるための1年。今年は結果の部分にこだわっていきたい」

 プレシーズンマッチで来日した中村はそう話していたが、果たして、今シーズンはどれだけ数字を残すことができるのか。

 中村の成長は今後の日本代表に大きく影響することを考えても、今シーズンのスタッド・ランスにおける彼のプレーぶりは、注目に値する。

勝負の序盤戦、再びリュディガーに煮え湯を
浅野拓磨(マジョルカ)

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

 マジョルカ(スペイン)では、かつて3人の日本人選手がプレーしている。

 大久保嘉人はシーズン半ばに入団し、最後の5試合は神がかり的な活躍でチームを残留に導き、「救世主」と崇められている。家長昭博も、1年目はミカエル・ラウドルップ監督からの信頼を受け、半年間は"ホープ"だった。ただ、ふたりはどちらも1シーズンを通じては戦えず、2年目以降、ラ・リーガのレベルの高さに飲み込まれている。

 そして久保建英が歴史を変えた。18歳のデビュー1年目でレギュラーに定着。1年を通じて活躍を見せ、すぐにビジャレアルへ"出世"。その後、舞い戻ってきたが、再びレアル・ソシエダに移籍し、現在はスター街道を突っ走る。

 マジョルカにクラブ史上4人目の日本人となる浅野拓磨がやってきた。

 浅野は過去の3人と比べると、技術的ポテンシャルやスケール感は劣るかもしれない。ただ、ドイツで長くプレーし、実績を積み上げ、カタールW杯でドイツ代表のアントニオ・リュディガーを相手にしながらゴールを奪ったように、モードに入った時は想定以上のプレーを見せる。そのスピードと攻守のがむしゃらさは、一見では強力な武器になるのだ。

 マジョルカを新たに率いることになったハゴバ・アラサテ監督は、前任のハビエル・アギーレのように極端な守備的な戦い方ではない。選手のよさを生かすタイプで、バランスが優れたバスク人指揮官。日本人との相性は悪くないだろう。

 実際、浅野はプレシーズンで定位置を確保している。右サイドのアタッカーが基本ポジションになりそうで、ボローニャ戦では貴重な先制点を記録(結果は1−1の引き分けでPK戦負け)した。中央のFWと入れ替わるように斜めに走って、長いパスを受けてのカウンター一発で、これはひとつのパターンになるかもしれない。

 相手が浅野を甘く見る傾向があり、その場合、奇襲が打てる。彼の情報は今のところ限られ、開幕2〜3試合のうちに1点でも取ることができれば、プレーも活性化するだろう。今後の活躍の手がかりになるはずだ。

 逆にスタートダッシュできないと、相手に研究されたあとは厳しくなる。ラ・リーガはシーズンを通して活躍するのが難しい。それは相手が適応してくるからで、それを乗り越えられるか。

 まずは開幕のレアル・マドリード戦だ。圧倒的に相手が有利だが、そういう試合のほうが浅野は勝機を見出せるかもしれない。再びリュディガーに煮え湯を飲ませられるか、注目だ。