夏の甲子園で見つけた逸材! 青森山田の遊撃手・吉川勇大の「脱力プレー」のなかに潜む無限の可能性
青森山田のプロ注目の遊撃手・吉川勇大 photo by Ohtomo Yoshiyuki
東京に住む私にとって、簡単に見られる選手ではないのに、不思議と縁があるのか、おそらく7、8回は実際にプレーを見ている。そのたびに「うまいなぁ」と、いつも感心してしまう。
青森山田の遊撃手・吉川勇大(3年/181センチ・84キロ/右投右打)だ。
まず彼のすばらしいところは、いい意味で全力感がないことだ。いつも7分、いや5分ぐらいの出力だろうか。速く動こうとしすぎないし、無駄に力を入れて投げようとしない。フィールディングの柔軟で鮮やかな身のこなしは天下一品。プロの一軍内野手の動きを見ているような流動性は、じつに華麗である。
ただ、このいい感じで脱力したプレーは、一方で「カッコつけてんじゃねえよ」という印象がついてまわる。
ほんとは、もっと速く動こうと思えば動けるんじゃないか。MAXのアクション、MAXのスピードを見てみたいと。吉川の脱力感に感心しつつ、私も彼の本当のMAXのプレーを見てみたいひとりである。
2回戦(初戦)の長野日大との試合だってそうだ。
初回のファーストプレーで、投手の足元を抜けたゴロを二塁ベース後方で捕球すると、即アンダーハンドで軽〜く一塁へ送球。この一連の動きについつい見とれてしまうのだが、いわゆる軽率なプレーと見る人もいるんじゃないのか。
試合後半にも、同じように二塁ベース付近にさっきよりも強烈なゴロが飛んだ。これを見事なスライディングキャッチから、即立ち上がって柔らかく投げて、アウトにしてみせた。
こういう時こそ、パチーンとメリハリをつけて投げてくれ! ついそんなことを思ってしまったが、それは見ている者のエゴなのか。
二塁ゴロからの併殺の場面では、さすがに「強」の目盛を上げてストライクスローの送球をしたが、そうした「強弱」をつけられること自体、秀でた才能なのか......。
【これからの伸びしろに期待大】一見、軽く見られがちだが、攻守交代の際、いち早くショートのポジションにつき、荒れた地面をスパイクで丁寧にならしている姿を見ると、守備に対する思いが伝わってくるし、投手がボールを投げるたび打者のインパクトに合わせて一歩目の準備を怠らないあたりは、すばらしい遊撃手だと思う。
やるべきことをしっかりやっている選手だけに、出力全開のプレーに出会って、彼をベタ褒めしてみたい。これはずっと思っていたことだ。
「自分のこと、うまいと思っているんじゃないですか......」
ある記者仲間が、吉川についてそう表現した。
こういう選手が、たとえばプロ野球のような自分よりうまい選手がたくさんいる世界でプレーした時、はたしてどんな変化を見せてくれるのか? 「ヤバい!」と思って、がむしゃらに本気を出し、隠し持っていた才能を発揮するのか。それとも心がポキッ折れて、そのまま終わってしまうのか。
長野日大戦の試合のあと、失礼を承知で本人にどっちなのか聞いてみた。
「前のほうです」
そう言葉少なく答えてくれた吉川の目が、怒っているように見えた。彼のようなタイプの選手は、レベルの高いところに放り込めば、きっと恐ろしいスピードで成長していくのではないか。吉川は高校からプロも考えているという。だからこそ、もっとがむしゃらにアピールしてほしいとも思う。
彼の本当の才能はまだまだこんなものじゃないと思っているひとりとして、吉川のプレーにはこれからも注目していきたいと思っている。