故障さえなければ、間違いなく来年のドラフト1位候補になるはずだ。

 東海大相模(神奈川)の2年生右腕・福田拓翔(たくと)の投球を見て、確信するものがあった。


富山商戦に2番手で登板した東海大相模の2年生右腕・福田拓翔 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【理想は藤川球児のストレート】

 8月12日、東海大相模対富山商の8回裏、3対0とリードした東海大相模の2番手として登板したのが福田だった。バックネット裏のスカウト陣のお目当ては、この日、先発として7回13奪三振無失点の快投を見せた、身長198センチ左腕の藤田琉生(りゅうせい)だったに違いない。

 藤田の投球も見事だったが、福田もインパクトを残した。2回を投げて被安打1、奪三振3、与四球1、失点0で試合を締めくくっている。

 身長184センチ、体重78キロの絵に描いたような投手体型。ワインドアップからバランスよく全身を使って、右腕を振り下ろす。強烈なバックスピンのかかったストレートは、捕手のミットを吹き飛ばさんばかりだ。

 この日の最高球速は149キロだったが、福田のストレートは数字以上の体感スピードがある。ボールの質にこだわりがあるのではないかと聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「ストレートは、絶対に打たれたくないんです。力むと今日みたいに高めに抜けてしまうので、低めに強く、空振りがとれる球を投げたいと考えています」

 この日のベストボールは、8回裏二死から富山商の堂口裕三を見逃し三振に仕留めた147キロのストレートだという。

「いい時のストレートはリリースで指にかかって、低めから伸びてくる感覚があります。しっかり低めに、コースを間違えなければ打たれない自信があります」

 福田が思い描く理想のストレートの軌道を聞いて、その答えに納得するものがあった。福田の理想は藤川球児(元・阪神ほか)のストレートだという。

「藤川さんの浮き上がるようなストレートが理想です。わかっていても打たれないボールを目指しています」

 正捕手の木村海達にも聞いてみた。藤田と福田という左右の超高校級投手のボールは、それぞれどのように見えるのか。

「藤田は力感がないなかで、ストレートがピュッと伸びてくる感じ。少しシュートしながら動いています。福田のストレートは、うなってくる感じです。真っすぐが生きていると感じます。それぞれに違うよさがありますね」

【健大高崎の石垣元気にライバル心】

 そして、福田はただストレートの質が超高校級というだけではない。この日は縦に大きく割れるカーブと、130キロ台のハイスピードで曲がるスライダーが目を惹いた。とくにウイニングショットとして2三振を奪ったスライダーのキレは出色だった。

 木村は福田のスライダーについて、戦慄の証言をした。

「真っすぐに近い軌道から、バッターの近くで曲がってきます。真っすぐを待っているバッターからしたら、『消える』体感だと思いますよ」

 福田はさらなる武器を隠し持っている。この日は1球しか投げなかったフォークだ。おそらく長いイニングを投げる際には、猛威を奮うだろう。

 福田には強く意識する存在がいる。同じ2年生にして、今夏の甲子園で最速153キロを計測した石垣元気(健大高崎)だ。

「石垣は練習試合をした時に連絡先を交換して、お互いに意識し合っています。彼はとにかく球が速いのが魅力的です。もちろん球速だけじゃないんですけど、絶対に負けたくないですね」

 石垣の最高球速が154キロなのに対して、福田は150キロ。だが、球質にかけては勝っている自信があるのでは? そう尋ねると、福田は不敵に笑ってこう答えた。

「僕はそれよりも、ピンチに強いピッチングをできるのが長所だと思っています。そこだけは誰にも負けたくないですね」

 2025年のドラフト戦線は石垣と福田だけでなく、今大会ここまで未登板の大物・森陽樹(大阪桐蔭)などポテンシャルを秘めた逸材が多い。彼らのつばぜり合いが、向こう1年で世代全体のレベルを引き上げていく予感がする。

 これからどんな存在になっていきたいか。そう尋ねると、福田は淀みない口調でこう答えた。

「藤田さんみたいにチームを私生活から引っ張っていける存在になりたいです。あとは『勝てる投手』じゃないと評価されないと思うので、球速を意識しつつも『勝てる投手』になれるように追求していきたいです」

 兵庫・明石から神奈川・相模原へと渡った金の卵は、いずれ日本の宝になれるのか。東海大相模の次戦は8月16日、広陵(広島)との好カード。福田の登板はあるのか、楽しみは続く。

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