夏の甲子園で見つけた逸材! 熊本工の2年生右腕・山本凌雅はほとんどが「ローボール」で百戦錬磨の広陵打線を追い詰めた
今年の熊本工業には、3年生に絶対的エースが君臨していると聞いていた。
廣永大道(だいち)──県内でも有数の実力と評されていたが、熊本大会中に肋骨の疲労骨折で登板できずガッカリしていたら、2年生投手がほぼひとりで投げ抜いて、激戦の熊本を勝ち上がったと聞いて驚いた。
その2年生投手の名は、山本凌雅(173センチ・65キロ/右投右打)。甲子園初戦の対戦相手である広陵(広島)のエース・高尾響は、2年春からこの夏まで4季連続甲子園出場を果たしており、すでに実力は確認済み。関心の的は、熊本工業の2年生右腕だった。
広陵戦で好投した熊本工の山本凌雅 photo by Sankei Visual
山本は、熊本大会40イニングを投げて、わずか4四球。コントロールが持ち味の投手のようだ。小柄なオーバーハンド。立ち上がり、甲子園の常連相手に、気負いも怯みもなく、淡々と投げ進める。
ストレートは135キロ前後、変化球はスライダーにカーブ、そしてスプリットなのかチェンジアップなのか、スッと沈む系のボールがあり、どの球も動きが鋭い。
たしかに、投げ損じのボールが少なく、球道が安定している。なによりすばらしいのは、徹底して低めに投げられることだ。初回から投げるボールのゾーンが、ベルトより下に集まっている。百戦錬磨の広陵打線とはいえ、なかなか芯で捉えられない。
ひたすら低く集めるコントロールが、山本のピッチングの"キモ"なのか。試合中盤の6回まで82球を投げて、ベルトより上のボールはわずか9球。あとはすべてローボールという徹底ぶり。ゴロのシングルヒットを3本打たれたが、無失点で終盤に入る。
迎えた7回表、広陵は内野安打と四球のランナーをバントで送り、一死二、三塁。ここで山本は、広陵の1番・濱本遥大(はると)に、わずかにベルト付近に浮いたスライダーを捉えられ、セカンド頭上を越える2点タイムリーとなり逆転を許してしまう。この試合、10球目の高めにいった球だった。
8回表はちょっと動揺するかな......と見ていたが、投じた14球のうち13球を低めに集めた。選手アンケートのモットーの欄には「沈着冷静」と書かれていた。
【目標は146キロ超え】ボール球になっても、低く外れるか、構えたミットよりも外、つまり打者の目から遠いところに投げられるから、ジャストミートの確率が下がり、長打を食らうことが少ないので大ケガをしない。低めを使えるアドバンテージはそこにある。さらに、打てそうで打てない状態が続くと、打者のイライラも募っていく。
とにかく山本のピッチングは、"安心・安全"といったところか。チームが望む勝利に、最も近づけるタイプの投手である。
コントロールの優秀さは、それ自体がすばらしい才能であり、間違いなく強力な武器である。そのわりに、あまり大きな見出しで取り上げられないのは、球速のように"数字"で表しにくいからだ。
しかし、労をいとわなければ、たとえば構えたミットにどれだけ投げられるかを表す「コントロール率」など、ぜひ取り入れてほしいと思う。制球力の指標である"ストライク率"よりも、ずっと有用なデータであると信じている。
「来年は廣永さんの146キロを超えられるピッチャーになりたいです!」
試合後の取材で、山本はそんなコメントを残した。
チラッと見た右手の指は、身長のわりには長めで、節もしっかりしていた。「この指なら、あれだけいくつもの変化球を、鋭い曲がりで投げられるはずだ」と納得したが、一方で146キロ超えはいいけど、その時は山本のすばらしい才能である「ローボール」を投げ込む技術も一緒に持っていってね、と願わずにはいられなかった。