ガテン系の仕事をするAさんに「経験とスキルを蓄積し、現場を統括する立場や本部勤務なども『狙える』備えを少なくともするべき」と安井さんはアドバイスします(写真:kapinon/PIXTA)

【相談者 ガテン系 Aさん】

ガテン系の複数の仕事を掛け持ちしています。工事現場、警備員、引っ越し、なんでもござれで頭よりも体を使って生きてきました。

実家暮らしで収入もけっこう良く、日払いの仕事も活用しながら季節や需要を考えて仕事の量を自分で調節できています。

このままいけばそれなりに良い人生を送れるのではと思っているのですが、こういった生き方を続けるにあたって、何か気を付けるべきことはありますか?

現在の前提が続く保証はない

まず将来の自分、および自分を取り巻く環境を現在の延長でしか考えないことは危険です。

現在の前提がそのまま続く、という想定に立つべきではない、ということです。


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現時点の自分の置かれた状況や周りの環境がどうであれ、良い点も悪い点も含めて未来永劫それらが続くという保証は当然ありません。

将来をどのように考えるかについては、大きく2つに分かれます。

1つ目は、将来は現在の延長線上「のみ」にある、と考えるタイプです。

これは多くのヒトに当てはまるのですが、キャリアでいうと現在の勤務先、仕事内容、年収、肩書のようなものが延々と続き、一律ではないにせよ右肩あがりで推移するだろうという考え方です。

当然、家庭環境や健康なども「今のまま」という想定が大半です。

コツコツタイプとも言えますが、現在の前提が続く、というところにやはり無理がありますし、もっと言うと延長線上でしか考えないということは、「大きな失敗はないかもしれないけど、大きな成功は見込めない」ということです。

現状の延長で生きる、という意味において固定的な生き方とも言えます。

2つ目は、将来は現在の延長ではなく、新たに創り出すもの、と考えるタイプです。

現時点における前提を是とせず、むしろ変わるものだという認識のもと、「では自分はどう変わるべきか」と考えるタイプです。

世の中や事業環境やさまざまな前提が大きくそして頻繁に変わる現在においては、大きく成功するのはこのタイプなのかと思われます。

将来目指したい姿やゴールを決めて、逆算で今やるべきことを計算するタイプですね。

とは言え、もちろん大きな失敗もする可能性は高い、ということでもあります。

前者とは反対の変動的な生き方とも言えます。

Aさんの「4つのリスク」

もちろんどっちを選択するかは自分自身の性格や考えに応じて決めれば良いだけなので、どっちが正解、というわけでは決してありません。

とは言え、両者における利点と欠点から学べることはあると思います。

これをAさんのケースで考えると、継続する前提で考えるには危険だと思われる点がいくつかあります。

1:キャリアの継続性
2:給与水準
3:ご自身の体力や健康
4:実家暮らし

順番に解説しますと、まずキャリアの継続性ですが、ガテン系というくくりはあるものの、複数経験されてきている仕事のスキルや経験という意味での一貫性が乏しいがため、何かに精通しているという状況ではありません。

そのため、何かしらの職種における管理職的な立場に立つことは少なくとも現状は難しいでしょうから、「体力×現場」からどうしても抜け出すのは難しそうです。

2つ目の給与水準とも関わるのですが、通常給与は「経験×スキル」の掛け算によって増えていくものですが、Aさんの場合、キャリアに一貫性がないので、どちらも浅いという判断をされかねない状況です。

したがって、現在の給与水準から増えていくことはあまり想定できません。

3つ目の体力や健康はご自身もリスクとして認識されていますので、ここでは割愛します。

4つ目の実家暮らし。恐らくご両親がまだご健在、ということだと思いますが、当然歳を重ねるにつれて介護問題や実家の修繕等の問題に直面します。

そのような場合は、「実家暮らし=与えられるプラス面が多い利点」から一転して、ご自身が支える立場になり、「実家暮らし=与える面が多いリスク要因」となりかねません。

そういったことを諸々考慮した上で、では自分自身はどのようにふるまうべきかを考えるべきです。

少なくとも年齢と共に、より自分に降りかかってくるリスクへの対応は考えるべきです。

前述の4つのうち、Aさんご自身でコントロールできるのは1つ目です。

つまり、今後に備えてキャリアにおける一貫性を意識してみる、ということです。

その上で、先ほどの経験とスキルを蓄積し、現場を統括する立場や本部勤務なども「狙える」備えを少なくともするべきでしょう。

もちろんそんな簡単にそういった立場に辿り着けるか否かは分かりませんし、ご自身のキャリア観もあるでしょう。

しかしながら、キャリアにおいて大切なのは「いかに多くの選択肢を持てるか」です。

「一貫性」の育て方

状況に応じて柔軟に対応できるのか否か、それは現在における不確実で不安定な世の中をサバイブする上で必須の条件です。

いざとなったら、自分自身の判断で違う選択肢を選べる、という状況を作れるのか、それとも周りの環境に振り回される側でずっといるのか、の違いでもあります。

したがって、Aさんとしてもやはりある程度は特定分野における経験やスキルを蓄積し、いざとなったときの備えとするべきです。

ちなみに、キャリアにおける一貫性というと同じ会社で、と考えるヒトもいるかもしれませんが、それは違います。

キャリアにおける一貫性や専門性というのは、職場ではなく仕事内容における一貫性ですから、異なる会社であっても、同じような仕事をこなす、ということの方がより重要です。

特定の会社にずっといて、数年に一度仕事内容が変わり、その会社専門プロみたいになってもあまり意味がありません。

それよりもむしろ、外へも持ち運びできるスキルを如何に身に付けるか、特定分野における経験を異なる環境で如何にこなしてきたか、そういったことの方がより重要です。

もちろん単なる転職回数の多いヒト、に成り下がってはいけません。

いずれにしても、Aさんとしては、現在の前提を是とせずに、将来を大きく変えるべく自分自身の裁量において今を変えられることは何を考え、将来に対する備えとすることが大切です。

そのような考え方でAさんが、柔軟性をもって世の中の不確実性や不安定さに立ち向かう準備をされることを応援しております。

(安井 元康 : 『非学歴エリート』著者)