河合優実

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NHK主演ドラマが高評価

 河合優実(23)は芸能プロダクション関係者らの間で「朝ドラ(NHK連続テレビ小説)のヒロインに最も近い女優」と言われている。若手で屈指の実力派である上、同局のドラマ制作者たちに買われているからだ。現在も同局「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(火曜午後10時)に主演中。河合の魅力と実力に迫る。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 河合の父親は医師で、母親は看護師。3姉妹の長女だ。どんな環境で育ったかは本人の言葉からうかがい知れる。

 映画制作関係者によると。河合は「いい俳優になりたいとか思うより、出会ったものに感謝していられる人でありたい」と話しているという。デビューから5年の若手女優とは思えない言葉だ。河合の魅力の一端が表れている。

河合優実

 河合の知名度を一躍高めたのはTBS「不適切にもほどがある!」(今年3月終了)での不良女子高生・小川純子役だが、縁が深いのはNHKのドラマと映画だ。

 現在もNHKで連続ドラマの主演作「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」が放送されている。約1年前にBSプレミアムで放送された作品が地上波に移行された。BS放送時はギャラクシー賞の月間賞を得るなど高い評価を受けた。

 河合の役柄は高校3年生の岸本七実。純子と同い年だ。しかし、キャラクターと境遇は全く異なる。まず、七美は兵庫県神戸市在住なので話す言葉は関西弁。純子はヤンキーで思考回路は単純だったが、七実は地頭が良く思慮深い。

 七実の父親・耕助(錦戸亮)は既に他界している。母親・ひとみ(坂井真紀)は朗らかな女性で、整体院で働き、七実とその弟・草太(吉田葵)との生活を支えていた。中学2年生の草太も明るい性格だが、ダウン症で、やっと1人でバスに乗れるようになったばかりだった。

 周囲には「岸本家はかわいそう」と思う人もいた。もっとも、当の一家にそんな意識はサラサラなく、仲良く幸せに暮らしていた。ひとみは子供たちが生きがいで、七実も草太がかわいくてたまらない。草太もひとみと七実が大好きだった。

 七実の彼氏・小平旭(島村龍乃介)が草太の存在を知ったことによって連絡して来なくなると、七実の側から別れを通告する。

「ダウン症の子がいる家にはいろいろあるけど、ウチの家族にとって弟は面倒のかかる存在ちゃう! むしろ私が家族の中で面倒な存在で、弟に助けられている!」(七実)

 誰だって自分の家族を疎まれたら不愉快だ。幸不幸も他人が決めるものではない。

 その後、ひとみは大動脈解離で倒れ、生死の淵をさまよう。一命は取り留めたものの、車椅子での生活になり、生きる希望を見失う。

 しかし、七実が大学に合格した際に相好を崩すのを見て、「この笑顔を見るための人生をいただいたんやな」と気付く。

 一方、大学進学に興味がなかった七実が進路を変更したのもひとみの影響だった。ひとみの車椅子を押して街に出た際、入りたかったカフェには入口に段差があったため、入れなかった。道行く人の冷淡さも痛感した。七実とひとみは傷つき、人目をはばからずに号泣する。

 しかし、七実は悲観的な考えをすぐに捨てた。進学先に選んだのは近畿学院大学の人間福祉学部。

「やさしい社会にして、あのカフェの入口の段差、ぶっ潰す」(七実)

 家族の存在が幸福観から切り離せない一家の物語だ。原作は気鋭の若手作家・岸田奈美氏(32)の自伝的エッセーである。

若手屈指の実力派

 このドラマを土台から支えているのは河合にほかならない。河合はユーモアのセンスが抜群で芯の強い七実にしか見えない。河合個人の存在を忘れてしまうほど。どの作品でもそうだ。お手本のような演技である。

 河合は憂いを感じさせるので、山口百恵さん(65)と似ていると言われるが、役柄の人物に成りきれるところは田中裕子(69)、黒木華(34)らと近いのではないか。若手屈指の実力派であるのは間違いなく、朝ドラのヒロインに最も近いと言われているのも納得である。

 朝ドラのヒロインはその作品の制作統括が決める。朝ドラの制作統括になる可能性のあるNHKのドラマ制作者たちから河合は買われているので、やはりヒロインの最有力候補だろう。

 NHKの話題作「17才の帝国」(2022年)には準主役級の1人で出演した。宗教2世を描いた同局の「神の子はつぶやく」(2023年)には主演し、その演技で放送文化基金賞を得た。

「神の子はつぶやく」で、河合は母親が信仰する教団の教えによって部活も遊びも禁じられ、修学旅行にも行かせてもらえず、苦悩する女子高生の遥に扮した。やはり遥にしか見えなかった。

 10月からは次期朝ドラ「あんぱん」にヒロイン・今田美桜(27)の妹役で登場する。妹役はヒロインへのパスポートというのは俗説に過ぎないが、同局制作者たちに評価されているのは間違いない。

 どうして河合は演じる人物に成りきれるのか。それは気持ちと役柄を一体化させるかららしい。公開中の主演映画「あんのこと」の撮影前にはこう考えたという。

「脚本を読んだ瞬間に自分の中に揺るぎないものが 湧き上がって、その気持ちの強さをずっと持ち続けようと思ったし、(演じる)杏という役とそのモデルとなった女性の手を掴んで絶対離さないでいよう、ということを役作り云々より前に、強く思っていました」(放送批評懇談会「GALAC」7月号)

 この映画で演じているのは過酷な運命を背負った21歳の女性・杏。ストーリーは2020年6月1日付の朝日新聞朝刊に載った実話に基づいている。

 杏は幼いころから母親による虐待を受けた。小学校4年生から学校に行かなくなり、12歳になると、母親から体を売ることを強要される。やがて覚せい剤に依存するようになった。

 しかし、薬物依存者の更生を支援する刑事らと知り合ったことから、母親から離れる。介護の仕事を始め、夜間中学にも通い始めた。介護福祉士になるという夢も持った。

 ところが、そこへコロナ禍が襲い、全てを破壊する。杏は行き場の全てを失い、絶望の淵に立たされる――。

 杏の軌跡を知ると、陰鬱な女性を思い浮かべてしまいがちだが、河合が演じた杏は違った。時には屈託のない笑顔や希望に満ちた表情を見せた。生身の人間なのだから、そういうものだろう。やはり河合は役柄に成りきった。

「自分と育ってきた環境が遠い役だったので、それが身体的にどう表れるのか。歩き方や箸の持ち方を考えたり、杏がどういう文字を書くのか監督と試してみたり。服装やメイクなども含めて、スタッフの皆さんにも協力してもらって緻密に作っていきました」(「GALAC」)

 役柄と気持ちを一体化させた上、その人物の特徴を出来る限りトレースする。成りきれるはずである。

ホラン千秋の後輩

 河合自身は東京都練馬区の出身。小学3年生からヒップホップダンスを習い、進学先の都立国際高校でもダンス部に入部した。同校はタレントでキャスターのホラン千秋(35)らもOGの進学校である。

 当初は一般の大学への進学を考えていたが、受験の約半年前に日大芸術学部演劇学科に進むことを決めた。ほぼ同時に現在の所属事務所・鈍牛倶楽部の門も叩く。スカウトされたわけではなく、ネットで自分に適した事務所を探した。

 同事務所には小林稔侍(83)やオダギリジョー(48)らが所属している。アイドル的な所属者はいない。映画に強いことでも知られる。だから河合は自分に合うと思ったのではないか。

 同事務所が映画に強いのは、映画制作や配給を手掛ける木下グループに属しているから。それもあって河合は既に23本もの映画に出演。うち3本に主演した。デビュー5年にしては多い。

 9月にも主演作「ナミビアの砂漠」が公開される。5月のカンヌ国際映画祭の監督週間で国際映画批評家連盟賞を受賞した作品だ。

 まず感謝を忘れない人でありたいと考えたり、ネットで所属先の事務所を探したり、従来の俳優像とは随分と違う。

 新しい時代のドラマと映画は、新しいタイプの演じ手たちによってつくられるのだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部