5合目から山容はうかがえず、撮れるのは看板くらい。でもうれしい、楽しい

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 山梨県富士河口湖町のコンビニ前が富士山の人気撮影スポットになり、住民の迷惑となったことを理由に、黒い幕がセッティングされたのは、5月21日のこと。

 言うまでもなく本来、富士山はどこからでも見える。撮影もできる。

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 そしてどこで見ても撮っても富士山富士山。今さらながらコンビニと絡めることの何が面白いのかは、大多数の日本人にはよく分からない。

 それなのに、インバウンドの観光客には、まだこのコンビニ前がいいという人が一定数存在している。

 誰の仕業か、黒い幕はピリッと破られており、のぞけば当然、富士山がチラリと見える。

5合目から山容はうかがえず、撮れるのは看板くらい。でもうれしい、楽しい

 しかし、それだけのことである。

 しかも、一瞬でも立ち止まろうものなら、すぐに警備員が駆け付けて「ダメダメ」と注意が入る。そんな思いをしてまで見る風景ではない。

 せっかく来日してくれたお客さんのことを「迷惑」とは言いづらいものの、地元の人からすれば、わざわざ対策までしたのに、とため息をつきたくなるところだろう。

山開きの日に見に行くと

 それでもまだイージーな登山客に比べればマシかもしれない。

 7月1日、富士山の山開きの日は、あいにくの荒れ模様だった。吉田口につながる富士スバルラインは風速30メートルを超えたため通行止め。午前9時にようやく開通し、一斉に登山客&観光客が5合目になだれ込んだ。

 今年からこの吉田口で入山規制が設定されたことは、方々で伝えられてきた。ウェブで事前登録し、2000円支払わなければならない。ちなみに追加で1000円を寄付すると入山日がスタンプされた木札がもらえる。

 1日4000人という上限もあるが、昨年のデータに従えば4000人を超えたのは真夏のハイシーズンの5日間だけで、その点はあまり心配する必要はなさそうだ。

 さて2000円を払い、手首にリストバンドを巻いてもらってゲートをくぐると、そこからは立派な「登山者」だが、開山日直前に4人が遺体で見つかる痛ましいニュースがあったことからも分かる通り、富士山は決して安全な山ではない。

筋肉自慢のインド人

 にもかかわらず、富士山をなめているとしか思えない者は後を絶たない。

 インドからやって来たサングラスの男性は、半ズボン姿でペットボトルと雨傘一本をぶら下げて登るつもりだという。登山口で指導員がしきりに注意しても、ニヤリと笑って、

「オレは筋肉をつけているから平気だぜ」

 そのままスタスタと登って行った。

 半ズボン姿は珍しくない。アメリカから来た男性もやはり同様のスタイルで上を目指すのだという。

「私たちは注意はできても止められないんです。でも、すぐ上は風速10メートル以上、気温も6度で、体感温度は氷点下。おそらく7合目ぐらいで音を上げて下りてくるでしょうね」(指導員)

 他にもお金も払わず登ろうとしたのは香港から来たカップル。防風、防水のつもりかゴミ袋を巻き付けているのだが、それに何の意味があるのだろうか。

 もちろんこうした人たちがトラブルに巻き込まれた場合には、日本側で対応しなければならないのだ。

 常識的な観光客、登山客のみならず非常識な輩や変わり者も引きつけるほど富士山には魅力があるのだ――で片付けていいはずがない。「景気回復の起爆剤」などと言って、インバウンドをもてはやす風潮はいつまで続くのか。

撮影・福田正紀

「週刊新潮」2024年7月11日号 掲載