デベロッパーとの癒着を断ち切れない小池知事

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都幹部14人が三井不動産グループに天下り

 神宮外苑、築地市場跡地、五輪選手村を改修した「晴海フラッグ」。東京都内で進められるこれら三つの「巨額再開発事業」を、同じ企業が主導している事実をご存じだろうか。都庁OB14人の天下りを受け入れる三井不動産グループと都の、「癒着の構図」とは――。【前後編の前編】

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「週刊新潮」7月4日号では、小池百合子都知事(71)がついぞメスを入れられなかった都の「暗部」、都庁OBの外郭団体への天下りの実態について詳報した。小池氏に尽くして出世すれば「東京地下鉄株式会社」(東京メトロ)社長などの天下り先が用意され、1500万円以上の年収が保障される。庶民感覚からかけ離れた「天下り天国」。それと同等、いやそれ以上に闇が深いのが、民間企業への天下りである。

デベロッパーとの癒着を断ち切れない小池知事

〈都幹部14人 三井不天下り〉

 6月16日、そんな見出しで都庁OBの三井不動産グループ2社への天下りについて報じたのは「しんぶん赤旗」だ。記事によると都市整備局(旧都市計画局)元局長や同局元参事ら12人が三井不動産に、同局元所長ら2人が三井不動産レジデンシャルに天下っていたという。同社グループへの天下りが特に問題視されるのは、都の大型再開発事業を同社が複数主導しているからである。具体的には、神宮外苑、築地市場跡地、東京五輪・パラの選手村を改修した「晴海フラッグ」の三つだ。「元総理の影」「疑惑の都技監」――再開発事業の背景にちらつくキーワードを踏まえながら闇の奥に光をあてたい。

坂本龍一、桑田佳祐も再開発に反対

 まずは神宮外苑。ここで進められている「神宮外苑地区まちづくり」の事業者は三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事の4社である。老朽化が進む神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所を入れ替えた上でそれぞれ建て直し、新しい神宮球場の近くに三井不動産や伊藤忠商事が超高層ビルを建てる――というのが再開発計画の中身だ。

 外苑内の樹木が伐採されることに対する批判の声が広がるにつれて注目を集めるようになったこの再開発計画。特に都が再開発を認可した直後の昨年3月、がん闘病中だった音楽家の故・坂本龍一氏が再開発見直しを訴える手紙を小池氏らに送ったことの影響は大きかった。同年9月には歌手の桑田佳祐氏も再開発を憂える曲を発表し、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)が緊急声明を発する事態に。こうした動きの末、小池氏は事業者に対して、樹木保全の具体策を、伐採開始前に報告することを求めた。つまり小池氏が伐採に「待った」をかけたわけである。

「都合が悪くなったらこっちのせいにしてくると思っていた」

「小池都知事はデベロッパーに責任を押し付けているみたいだけど、彼女のことだから都合が悪くなったらこっちのせいにしてくるとは思っていたよ」

 恨み節を述べるのは、さる三井不動産OBである。

「神宮外苑の再開発地域の土地の所有者は明治神宮やJSCでしょ。自分たちのものではない樹木の伐採で、なぜ三井不動産が批判され、悪者にされなければならないのか……」

 今回の都知事選でも取り沙汰されることになった神宮外苑の再開発計画に都がゴーサインを出すまでの経緯をたどっていくと、ある人物に行き当たる。森喜朗元総理だ。

「三井不動産が儲けられるようにお膳立て」

「神宮外苑の再開発計画は、故・石原慎太郎都知事の時代にスタートしています。そして、オリンピック招致に失敗した後、森元総理が石原さんを“もう一度オリンピック招致に挑戦しよう”と説得するあたりから本格化します」

 元都庁幹部の澤章氏はそう語る。

「明治神宮外苑は都市公園で風致地区でもあるので元々、いろいろな規制がかかっています。その規制をかけているのが、都の都市整備局です。そこが神宮外苑の規制を取っ払う手続きをして、容積率をバーンと上げて、三井不動産などが高層ビルを建てて儲けられるようにお膳立てをしてきたわけです」

 石原元知事がオリンピック招致への再挑戦を表明したのは東日本大震災から4カ月後の2011年7月。翌12年5月、当時の東京都副知事の佐藤広氏と都市整備局幹部の安井順一氏の二人が、議員会館に森元総理を訪ねた時の興味深いやり取りが都の内部記録に残されている。

 神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所を入れ替えて建て直すという、まさに今現在進んでいる再開発計画と同じ構想を安井氏が示すと、森元総理は次のように応じたという。

〈素晴らしい案じゃないか。長生きしないと〉

 構想を示した安井氏はその後、役人として副知事に次ぐナンバー2の地位「都技監」に昇進している。

都議も「これほど怪しい話はない」

 三井不動産などがこの構想に沿う形で再開発に向けた協議を始めたのは13年ごろ。当時の都知事は石原氏の後継の猪瀬直樹氏である。その後、都知事の座は舛添要一氏を経て小池氏に移り、21年12月、都は再開発の詳細な内容を示した都市計画案を公表。翌22年8月には、再開発で建て替えられる新秩父宮ラグビー場を整備、運営する事業者を選ぶ一般競争入札が行われている。

 入札に臨んだのは以下の三つの企業グループだ。「楽天、清水建設、TBS」「鹿島建設、三井不動産、東京ドーム」「三菱地所、大成建設、電通」。選ばれたのは、「鹿島建設、三井不動産、東京ドーム」のグループだった。入札価格は清水建設のグループが約226億円、三菱地所のグループが約358億円だったのに対し、三井不動産のグループは1桁少ない約82億円だった。

 この再開発の問題点を都議会で追及してきた日本共産党の原田あきら都議が言う。

「そもそも神宮外苑の再開発は、三井不動産が主導している事業です。その企業が、新ラグビー場の整備事業を破格の安値で落札していく。これほど怪しい話はありません」

 出来レース。そう批判する声が聞こえてくるのも無理からぬことだが、やはり同様のささやき声が聞こえてくるのが、築地市場跡地の再開発事業「築地地区まちづくり事業」である。

 後編「『“松井秀喜監督誕生”と築地への本拠地移転を狙う読売』『晴海フラッグは9割引きで投げ売りされた』 東京都と三井不動産の“癒着”、驚愕の裏側とは」では、「築地地区まちづくり事業」「晴海フラッグ」など三井不動産が再開発を手がける案件について紹介しながら、都政と同社の“癒着”の裏側について徹底取材をしている。

「週刊新潮」2024年7月11日号 掲載