(写真:zak/PIXTA)

「運気」と聞くと、非科学的なもの、エセ科学、スピリチュアル系、うさんくさいなどというイメージがあるかもしれません。しかし、運気が上がっているかどうかは、次の2つに落ち着きます。

1:出来事をどう解釈するか
2:出来事が起こる確率

それぞれ、心理学や脳科学、統計学の話がかかわってくるので、「運気」というテーマは、きっちりと学術的・科学的研究の対象となるのです。『世界の研究101から導いた 科学的に運気を上げる方法』を上梓した明治大学教授の堀田秀吾氏が、科学的に運気を上げるコツを紹介します。

自然に触れると安心感と幸福感が得られる

旧石器時代と、紛争地域などを除いた先進国の現代人とは、ただ生きるうえでの危険度が段違いでした。

おとぎ話の『三匹の子豚』ではありませんが、人を噛み殺せるような動物が近所を徘徊していても、鉄筋コンクリート造の家屋の中で戸締まりをしっかりしておけば、外壁が傷つくくらいはあっても、基本的に命の危険はありません。

つまり、進化が文明の発展に追いついていない脳にとっては、現代的な生活空間でしか得られない安全、安心感もあると考えられます。

ただ、現代建築が、明らかな異物であることは間違いないので、昔からある自然に触れると、都会に働きに出た人が帰郷してリラックスするかのような、ほっとする安心感、幸福感が得られるわけです。

スタンフォード大学のグレゴリー・N・ブラットマンら[1]は、北カリフォルニアに住む38名の被験者を次の2つのグループに分けて、散歩後の変化を調べました。

1.「自然の中を90分散歩」するグループ(ネイチャーウォーカー)
2.「街中を90分散歩」するグループ(アーバンウォーカー)

その結果、ネイチャーウォーカーたちは、散歩前よりも、散歩後のほうが、自分自身に対して否定的な考えをする人が少なくなり、アーバンウォーカーたちは変化がなかったのです。

「自然」に触れるとストレス値が低下

さらに、自然というのは、特に大自然である必要はないようです。ミシガン大学のマリーキャロル・R・ハンターら[2]は、都会暮らしの36人の被験者に8週間にわたって週に最低3回10分以上、自然に触れる機会をつくって過ごしてもらいました。

この実験での「自然」とは、自分が「自然」と感じる場所ならどこでもいいということになっています。そして、調査期間中、4回にわたってコルチゾールの分泌量を測って、ストレス度合いをチェックしました。

その結果、1回あたり20〜30分間、自然に触れると最も効果があることが分かりました。そして、ストレス値が1時間あたりで28.1%も低下していたのです。

実際に、日頃の運動習慣の有無にかかわらず、たまに体を動かすといい気持ちになった経験がある方は多いのではないでしょうか。

オックスフォード大学のサミ・R・チェクラウドら[3]は、アメリカ在住の成人約120万人のデータを対象に大規模な研究調査を行っています。

その結果、運動をするグループとそうでないグループとでは、運動をするグループのほうが気分の優れない日数が平均で約43%少なく、どんな種類の運動でも精神健康上の負担を減らすことが分かりました。

運動の種類としては、チームスポーツ(22.3%低下)、サイクリング(21.6%低下)、有酸素運動とジムでの運動(20.1%低下)で効果があったとのこと。

そして、週3〜5回の頻度で45分くらい運動した場合に、最大の効果があることが示されました。

さらに、運動するグループは、運動しないグループより年収が約2万5000ドル(=約380万円)低い人でも、幸福度が同程度になるという「お金の代わりに運動で幸せが買える」という結果も出ているのです。つまり、どんなものであっても、体に適度に負荷のかかる運動は心身にいい影響があるということです。

長すぎる運動は、逆効果!?

ただ、これには「基本的には」という断りが必要かもしれません。チェクラウドらの研究では、運動とメンタルヘルスには大きな関係があるとしていますが、同時に一つの警鐘を鳴らしています。それが、「やりすぎはよくない」というものです。

長すぎる運動は悪影響を及ぼすこともあり、1日3時間以上の運動をする人は、まったく運動しない人よりも精神疾患のリスクが高くなるそうです。
それだけの強度や頻度になると、気晴らしの趣味ではなく、仕事のようなものになってしまい、自分を追い込んでしまうところがあるのかもしれません。

また、純粋に運動として見れば、家事や育児などにもリフレッシュ効果はあるようなのですが、それがあまりに長く続くと、自分の思いどおりに時間を使えないなどの理由からストレスが大きくなるのでしょう。

運動するのは大事。

でもしすぎない。

これが大切だということです。

自然との触れ合いもほどほどに!?

運動だけでなく、自然との触れ合いも「ほどほど」がいい可能性がありそうです。エクセター大学のマシュー・P・ホワイトら[4]は、約2万人を対象に、レクリエーション的な自然との触れ合いと、健康や幸福度との関連を調査しています。


すると、過去1週間で自然との触れ合いがなかった場合と比較して、自然に触れた時間が週に120分以上の被験者は、特に健康状態もよく、幸福感を覚える結果が出ています。

ここまでは、自然の力を感じさせる結果になっていますが、問題はそれより長い触れ合いです。健康や幸福度への効果は、200〜300分の接触がピークで、それ以上は効果が上がらない結果が出ています。

これは、あくまでも「上がらない」というだけで、運動とは違って「自然と触れ合いすぎると健康に悪い」という話ではありません。

しかし、どちらにしても、効果が少ないのであれば、貴重な時間の使い道は他にもあるので、週に120分で十分ということになります。

さまざまな研究の結果にならって、週に120分の範囲で、緑がある公園や街路樹のある道、神社などの自然の中を散歩して、運がいい人になりましょう。

<参考文献>
[1] Bratman, G. N., Hamilton, J. P., Hahn, K. S., Daily, G. C., & Gross, J. J. (2015). Nature experience reduces rumination and subgenual prefrontal cortex activation. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 112(28), 8567-8572.
[2] Hunter, M. R., Gillespie, B. W., & Chen, S. Y. (2019). Urban Nature Experiences Reduce Stress in the Context of Daily Life Based on Salivary Biomarkers. Frontiers in Psychology, 10.
[3] Chekroud, S. R., Gueorguieva, R., Zheutlin, A. B., Paulus, M., Krumholz, H. M., Krystal, J. H., & Chekroud, A. M. (2018). Association between physical exercise and mental health in 1·2 million individuals in the USA between 2011 and 2015: a crosssectional study. The lancet. Psychiatry, 5(9), 739-746.
[4] White, M. P., Alcock, I., Grellier, J., Wheeler, B. W., Hartig, T., Warber, S. L., Bone, A., Depledge, M. H., & Fleming, L. E. (2019). Spending at least 120 minutes a week in nature is associated with good health and wellbeing. Scientific Reports, 9, 7730.

(堀田 秀吾 : 明治大学教授)