チームの雰囲気をポジティブにするかネガティブにするかは、リーダー次第です(イラスト:『リーダー1年目のマネジメント大全』より)

新年度を機に、昇進してマネジメントを任されることになった人、初めて部下ができた人、無我夢中で約2カ月を過ごして、そろそろ「マネジメントって何をどうすることなんだろう?」「どうやら自分はリーダーに向いていないかもしれない」など、さまざまな疑問や葛藤を抱える時期ではないでしょうか。

本稿では、入社3年目から約20年にわたってリーダーとしてのキャリアを歩み続け、数々の修羅場をくぐり抜けてきた木部智之氏の最新刊『リーダー1年目のマネジメント大全』から一部を抜粋し、新米リーダーが最速で結果を出すための仕事術を3回にわたってお伝えします。今回は3回目です。

メンバーの活躍に「昇進」で報いる

私は以前、何に対しても文句ばかりを言い、組織のマネジメントにもあまり熱心ではなく、指示もめちゃくちゃなリーダーのチームで仕事をしていたことがあります。

正直にいうと、一緒に働いていて、あまり気持ちのいい人ではなく、リーダーとしても尊敬できるタイプではありませんでした。しかしあるとき、ふと気づいたのです。このリーダーは 「メンバーを昇進させている」という事実に。

多くの組織では、一定の範囲内で昇進の枠があります。

例えば、部にA〜Eまで5つの課があり、その部には5人の昇進枠があるとイメージしてみてください。

この場合、5人の昇進枠はそれぞれの課で1人ずつではありません。例えば、Aの課長が自分のチームのメンバーの活躍をアピールして、A課だけで2人とか3人の昇進枠を取っていく、ということも十分起こり得ます。

前述のリーダーは、この昇進枠をきちんと取ってくる人だったのです。自分のチームで活躍したメンバーに対して、できるだけ昇進という形で報いようとしていました。

これも、リーダーにしかできない重要な仕事です。アピール力が弱いリーダーは、こういうとき昇進枠を勝ち取れなかったりします。

これは決して、無理やりメンバーを昇進させるということではありません。きちんと活躍していて、他の組織の候補者と横並びで見て甲乙つけがたいときに昇進枠を取ってくる、ということです。

決して尊敬できるところばかりのリーダーではありませんでしたが、この点では、確かに私も恩恵を受けましたし、これは自分もリーダーとして見習うべき点だな、と学びました。

そういうリーダーの下で仕事をすると、メンバーのモチベーションは間違いなく上がります。リーダーに恩返しをしよう、という思いを持ってチームに貢献してくれるメンバーも出てくるでしょう。

仲良し人事で評価を落とさない

一方で、反面教師のようなリーダーもいたので紹介しましょう。

そのリーダーは、自分の組織の若いメンバーを抜擢人事として、何人も早期昇進させていました。ただそれは、はたから見ると「?」がつくような昇進でした。案の定、彼らは「リーダーとして」機能しませんでした。完全な昇進ミスであることは誰の目にも明らかでした。

また悪いことに、その選ばれた人たちも、リーダーとよく一緒に飲みに行っている子飼いのメンバーなのではないかと見られてしまい、影で「仲良し人事」と揶揄(やゆ)される始末でした。

その後の顚末ですが、ミスマッチとなったリーダーの1人は、経営インパクトを与えるほどのトラブルを起こし、別のリーダーは、成果が出せないまま元のポジションに降格となりました。

このことからわかる教訓としては、リーダーとしてはまだ力不足で昇進基準に達していないメンバーを、自分に懐いているからと無理やり昇進させてはいけないということです。

周りに迷惑をかけるだけではなく、何よりもそのような昇進をさせたリーダー自身の評価が下がってしまうのです。

「これ、やってもムダじゃない? 意味ある?」「こんな無茶な計画、実現できるわけがない!」「組織の方針が、まったくイケてない!」など、口を開けばネガティブ発言しかしないリーダーがいます。

私もこのようなリーダーの下で仕事をしたことがありますが、モチベーションは下がるし、四六時中このような発言を聞いていると、こちらの頭がおかしくなりそうでした。

リーダーがネガティブだと、チームの雰囲気もどんよりとして停滞気味になります。

あからさまなネガティブでなくても、「そのタスクは、ちょっと難しいんじゃない?」「リスクが多いから、やるのは危険だろう」といった、軽いネガティブ発言もあります。

この程度なら、あなたもつい言ってしまっていませんか。しかし、リーダーは軽い気持ちで言ったつもりでも、メンバーの受け取り方は違います。「リーダーがそう言うなら、このタスクはやめたほうがよさそうだ」と、挑戦に尻込みするようになるのです。

つまり、ネガティブなリーダーは百害あって一利なしなのです。メンバーの立場になって、ポジティブなリーダーとネガティブなリーダーのどちらと仕事をしたいか、考えてみれば明らかでしょう。

重要なのは、あなたがどちらのリーダーになるかは、自分で選ぶことができる、ということ。どんなに自分本来の性格がネガティブだったしても、リーダーという仕事上の性格は、努力してポジティブにすることができます。それを繰り返しているうちに、自然とポジティブ思考が自分のスタイルとして身につくようになります。

すべては、リーダーであるあなたの心がけ次第なのです。

どうしても不安なときは

ポジティブリーダーをめざすといっても、常にポジティブであり続ける、というのは不可能です。誰しも不安を拭えなかったり、ネガティブ思考に陥ってしまったりすることはあります。

そういうときは、そんな一面をさらけ出してみるといいでしょう。

普段はポジティブなリーダーが、たまに弱気な一面を見せると、メンバーは人間味を感じて親近感を覚えることもあります。

これは、「自己開示=Vulnerability」と呼ばれるマネジメント手法です。リーダーが万能感を捨て、勇気を持って弱い部分をさらけ出すことで、メンバーの心理的安全性が保たれるのです。


(イラスト:『リーダー1年目のマネジメント大全』より)

私はこれまで、システム開発の超トラブルプロジェクトをいくつも担当してきました。その中でも特に印象に残っているリーダーが2人います。

その2人とは、それぞれ別のタイミングで一緒に仕事をしました。

どちらのトラブルプロジェクトも、普通なら到底クリアできないような厳しい状況でしたが、2人とも、必ず成功に導くぞという強い信念を持った、絶対にあきらめないリーダーだったのです。

ただし、タイプはそれぞれ違いました。

1人は気持ちが強く、常に混乱のど真ん中に立ち、強いリーダーシップでプロジェクトチームを引っ張っていました。

そして、ときに優しく、ときに厳しく、プロジェクトチームのメンバーと接していました。リーダー自らが前線に立ってあきらめずに突き進んでいくので、自ずとプロジェクトチームのメンバー全員もそのリーダーを信じ、次第にチーム全体があきらめない戦闘モードになっていくのを肌で感じました。

もう1人は、逆に理詰めタイプでした。難局を打開するための戦略を考え抜いて、いくつもシミュレーションをしていました。

どの戦略も緻密に組み立て、チーム全員が理解して実行できるようになるまで落とし込むのです。私はいつも隣で感心して見ていたのですが、難しい戦略をメンバーが実行できるレベルまで落とし込んでいくので、すぐにチームが動き出せるのでした。

成否を分けるのは「やり切る」姿勢

2人に共通していたのは「やり切る」粘り強さと実行力です。やると決めたことは途中で投げ出さずに、やり切るのです。

どんなに気持ちを強く持っていても、あらゆるケースを想定し、緻密な戦略を立てたとしても、ビジネスはそうそううまくはいきません。トラブルを抱えた困難な状況であれば、なおのことです。

しかし、うまくいかなかったとあきらめるのではなく、すぐに軌道修正をして、また進み始めることができるかどうか。そして、結果が出るまでやり続けられるか。これが、成否を分けるのです。

ビジネスは、成果を出さなければいけません。

新規事業や新規サービスの立ち上げ、難しいプロジェクトの成功など、より難しい仕事、より大きな仕事をやり遂げる上で、最後の最後に効いてくるのは「絶対にあきらめないという強い姿勢」です。これさえあれば、結果はちゃんとついてくるのです。

あなたも周りのリーダーを見てみてください。上に上がっているリーダーには、そういう人たちが多いのではないかと思います。

ここで、私の「座右の銘」を紹介します。

「あきらめたら そこで試合終了ですよ……?」

漫画『SLAM DUNK』における安西先生の言葉です。


(イラスト:『リーダー1年目のマネジメント大全』より)

これも、私が実際に苦しめられたリーダーの話です。

何か問題が発生するたびに、「報告がない」と怒るリーダーがいました。どんなに些細なことでも、メンバーの判断で進めると、後から「聞いてない」と怒りだすのです。

では、実際にそのリーダーに報告をするとどうなるかといえば、その場で何かを決めてくれるでもなく、メンバーにとっては、単に報告という「手間」が増えるだけなのでした。

場合によっては、「資料がわかりにくい」とか、「要領を得ていない」などと指摘を受け、報告にかかる余計なワークロードが増えていきます。

結果、メンバーは「報告業務」に時間を取られ、上司を怒らせないようにと、顔色ばかりをうかがうようになっていきます。

しかし、上司への報告は「内向き」の仕事です。ビジネスとして成果を出すのは「外向き」の仕事のはずです。外に対してバリューを発揮するからこそ、組織に貢献ができるのです。

過剰な報告ほど生産性を落とす「ムダな仕事」はありません。

メンバーを外で自由に活躍させる

「そんな話、聞いていない」「ちゃんと報告をしろ」が口ぐせになっているリーダーを見かけますが、その報告でメンバーの動きを止めている様は、「老害」に近いものがあります。老害とは、年齢に関係なく、いつまでも昔のやり方に固執している人のことです。


このようなリーダーを何人も見てきて、私も嫌な気持ちを何度も味わってきたので、私がリーダーとして自分に課している禁句があります。それは、「聞いてない」です。これだけは、絶対に言わないように心がけています。

リーダーならば、メンバーの足を引っ張るのではなく自由に暴れさせ、何か問題が起きたら喜んで尻拭いに奔走するくらいの気構えが欲しいところです。

人のふり見て我がふり直せ、です。あなたはこのようなリーダーにならないよう、気をつけてください。

(木部 智之 : デロイト トーマツ コンサルティング合同会社ディレクター)