星野さん(写真:公式サイトより)/新垣さん(写真:インスタグラムより)

ラジオでの「夫婦共演」は何をもたらすか

5月28日の深夜25時すぎ、ネット上は騒然となっていました。「夫婦共演」「結衣さん」などの関連ワードがXのトレンドランキングを席巻し、朝になると星野源さんと新垣結衣さんの共演がYahoo!トピックスとして大々的に報じられるなど反響が広がっています。

事の発端は22日夜に滝沢ガレソさんがXに投稿した

「超有名女優とドラマ共演して電撃結婚した男性歌手が、結婚後に今度は番組共演した某NHKアナとW不倫し、今年の元旦に某週刊紙が本件をすっぱ抜く予定だったものの男性歌手の所属事務所が10億円を支払って記事を揉み消した件(女優&歌手は事実上の離婚状態だが仕事への影響を考え離婚せず)(NHKアナは新婚で、旦那と新居に引っ越して幸せな生活を始めたばかりだったが、不倫バレによって新居を追い出され、現在はネカフェを転々とする生活を送る)に詳しい方をDMで募集しています」

という書き込み。

すぐに星野さんと新垣さんの名前が連想されてネット上で拡散。Xのトレンドに両名があがったほか、さまざまな臆測や誹謗中傷が飛び交う事態を招いてしまいました。

これを受けて星野さんの所属事務所・アミューズはすぐに全面否定。「虚偽の情報の拡散、発信には法的措置を検討いたします」「名指ししなくても、(中略)虚偽の事実を摘示、投稿することは名誉棄損その他の違法行為に当たります」「随時、証拠保全を行っています」などの強い姿勢を表明しました。

星野さん自身もインスタグラムで「事実無根」などと否定。新垣さんもなりすまし防止が目的で更新しない前提のXにわざわざ書き込んで否定しました。しかし、2人はそれだけで終わらせず、28日深夜のラジオ「星野源のオールナイトニッポン」(ニッポン放送)に夫婦そろって生出演したのです。

今回の“夫婦生出演”は何をもたらすのか。単に「真偽不明の書き込みや誹謗中傷はいけないからやめるべき」という教訓だけでなく、もちろん「希少な夫婦共演」というポジティブな意味合いだけでもないでしょう。世間に向けたいくつかの問いかけや今後への影響が見え隠れしているのです。

自分の声に集中してもらえるラジオ

番組冒頭、星野さんは「やっぱり今日はこのお話からしたいなと思って」「先週、水曜日の夜に起きたことをみなさんも知ってるかと思います」と切り出しました。滝沢ガレソさんのXにおけるフォロワーは約274万人であり、日本国民(約1億2400万人)の2〜3%程度にすぎません。それでも「みなさん知っている」という前提で切り出したところに、ネット上で拡散されることの危うさが表れていました。

続いて星野さんは「インスタグラムのコメントにものすごい数の誹謗中傷があって」「日本中から憎悪を向けられた感覚になった」「本当に恐ろしかったし、本当に悲しかった」「もう二度とあんな気持ちになりたくない」とショックの大きさを次々に吐露。

そのうえで「ファンのみんな、とってもつらかったと思います」「ファンのみんなに安心してほしいんですよね」とファンを気づかい、「100%、1つもやってません。完全なデマです。この噂、臆測に事実は一つもありません。安心してください」と語りました。あえて強調するような話し方をしたところに、「ラジオで語ること」の狙いやメリットを感じさせられます。

それは次の「もちろん『ラジオでふれない』って(選択も)全然あると思うんですよ。“本当に”ありえないことだから、『何でこんなことになってるの』っていう……“本当に”。だから言うことが少なくて。“本当”に1から100までないんですよ。『100%ないんですよ』っていう」というコメントにも表れていました。

会話の際にこれだけ「本当に」というフレーズを続けると逆に「嘘っぽい」などと疑われやすいものですが、この場は自分中心で発信できる音声メディアのラジオ。自分の声のみに集中してもらえる場であえて同じフレーズをたたみかけることで、まるで歌詞のサビを繰り返しているときのような説得力を生んでいました。重要なことを伝える際、「傾聴してもらえる」という意味でラジオは、テレビやYouTubeにはない強みを持っていることにあらためて気づかされます。

星野さんは「本当にファンのみんな、信じないでくれて本当にありがとうね」「あと、聞いてるよ。ハッシュタグで『星野源さんの好きな曲』とか『ここが好き』みたいな。それを“妻”が『こんなこと言ってくれてるよ』って見せてくれて。それがうれしくて本当に励まされています。ありがとう」とファンへのメッセージを続け、さらに知人や仕事仲間への感謝も語りました。

ここで星野さんの口から出た「妻」というフレーズにドキッとした人は多かったのではないでしょうか。放送開始から10分が過ぎ、ここで妻の新垣結衣さんが電話で登場します。

「それでも怒れない」という現実

星野さんからの「いや〜、だから本当にありがたかったね」という問いかけに「ありがたかったね」と笑いながら返す新垣さん。彼女は「何かこう……ネガティブな話題ではなくて、優しい話題で世の中に発信しようとしてくれる方々がいっぱいいて、すごくうれしかったですね」と感謝を述べたうえで、星野さんの「名前言いますか?」という振りに「みなさん、こんばんわ、新垣結衣です。お邪魔します」と答えました。

サプライズのムードをやわらげるように笑い合う声とあうんの呼吸で、早々に不倫の噂など軽く吹き飛ばしてしまった感があったのです。ネット上には「たかが個人の発信でここまでやる必要はなかった」という声も散見されますが、「SNSだけではなく肉声で伝える」「しかも夫婦ふたりで伝える」ことの実効性は、新垣さんが登場して数秒で表れていました。

星野さんは「結衣ちゃんはフリートークで話すような場所があんまりない」「肉声で話せることってなかなかない」、新垣さんは「改めて『“私の口”からもお伝えできればな』と思いまして」と出演の理由を語ったあと、あらためて噂を否定。

新垣さんは「こういうことが起きてしまったこと自体もすごくつらかったですが、先ほど源さんが言ったみたいな誹謗中傷、攻撃を受けてつらい思いをしている姿を隣で見るのが本当につらくて。『もう二度とこういうことが起きてほしくないな』と思ったし、『こんな思いになりたくないな』と思ったし、『誰の身にも起きてほしくないな』と思ったので、それを願っております」と続けました。

表現を変えながらつらい心境を伝える切実なコメントであり、その中に「なぜ?」という怒りもあったことは想像にかたくありません。しかし、2人は一度も怒った口調にならず、極めて穏やかに語り続けました。そこに「これだけのことをされても怒れないのが私たち芸能人夫婦のつらいところです」というメッセージ性と共演の意義を感じさせられたのです。

「不仲説を止める」明確な意思表示

さらに新垣さんが「私は口数が少ないというか、話す場がないので心配をかけることがあるかもしれないですけど、大丈夫ですので」と話すと星野さんが「“僕ら大丈夫”ですので」と呼応。続けて新垣さんは「“今後も2人で協力して”これからの生活を粛々と穏やかに過ごしていきたいなと思っていますので、今回心配してくださったみなさん、本当にありがとうございます」と語りました。

「僕ら大丈夫」「今後も2人で協力して」という夫婦のスタンスを明確に伝えることが共演の趣旨であり、「最も有効な手段がラジオへのサプライズ共演だった」という決断の背景がうかがえます。新垣さんは最後にあらためて「『どうぞ安心していただければ』と思いますし、『本当にもうこういうことがないといいな』と心から願っております」「『温かく見守っていただけたら』と思います」と繰り返しました。

それから新垣さんが「鼻水出てきちゃった」、星野さんが「俺ずっと手がプルプルしてた」などと緊張した様子を明かして笑い合ったほか、急きょ新垣さんへのメッセージや質問を募集。新垣さんの口から2人で水族館に行ったことや星野さんのラジオをいつも聴いていることなどが明かされ、星野さんは新垣さんに「(終わったら家に帰るから)またあとで」と呼びかけるほほえましいやり取りがありました。

終始「結衣ちゃん」「源さん」と呼び合い、質問コーナーで仲良しエピソードを語ったこと。「温かく見守って」と繰り返したこと。いずれも「この関係性がすべて」という十分すぎるほどの提示であり、「不仲を疑われる可能性を限りなくゼロに近づけよう」という意味合いを感じさせられたのです。

実は今回の件には背景があり、過去に星野さんと新垣さんの夫婦仲を疑うような報道があり、SNSでも噂としてつぶやかれていました。だからこそ今回のレアな共演は「不仲説はこれでおしまい」という幕引きの明確な意志表示であり、少なくとも今後のメディア報道を抑制できるでしょう。さらにそれが思い通りになれば今後、不仲が噂されている有名人夫婦が似たような方法を使う可能性もありそうです。

「利益が損害を上回る」という理不尽

気になったのは新垣さんが去り際に語ったフレーズ。「これも話題になるんでしょうね、きっと。ちょっとドキドキしますけど。温かく見守っていただけたらと思います」という言葉に不穏なムードがまだまだ続くことを感じさせられたのです。

前述したようにメディアの不仲説は今回の共演で封印できるでしょう。しかし、その抑制効果が個人にまで及ぶかと言えば話は別。たとえば滝沢ガレソさんのような「暴露系インフルエンサー」などの抑止力になるかと言えば難しいでしょう。

Xにはインプレッション(表示回数)を収益化できる仕組みがあり、「いかにそれを伸ばすか」を求めて投稿された真偽不明の情報が少なくありません。また、“暴露系”のような人は反響の大きそうなテーマをジャンルレスで選ぶ傾向があるだけに専門性は薄く、メディアのように周辺取材をしないことなどもあって、情報の確度としては危ういところがあります。

しかし、今回の投稿には1.5億ものインプレッションが表示されているように、「やったもの勝ち」のような感は否めないでしょう。さらに、もし名誉毀損などで訴えられたとしても損害賠償金などのダメージは限定的であり、訴訟中も継続コンテンツ化するように稼ぐことが可能。それ以前にメディアのように失ってはいけない社会的地位が少ないことなども含め、大した損害を受けないという問題点があります。

この「利益が損害を大きく上回る」は、今年たびたび社会問題のように議論されてきた週刊誌報道のケースと似ていますが、公共性や真実相当性などの前提が不要であり、謝罪や撤回が求められにくく、「抑止力が働きづらい」という点で個人のほうがより深刻。「たかが個人のSNS」と思うかもしれませんが、今回のように大手メディアと同等以上の影響力を持ってしまう危うさがあります。

さらに今回の件は、収益が出た一方、社会的に罰せられず、損害も出なければ、星野さんと新垣さんの思いに反して、模倣する人が増えても不思議ではありません。すると、その真偽不明の情報に巻き込まれて傷つく人も増えるなど、嫌な未来にしかつながらないのです。

個人への過剰攻撃に対する嫌悪感

では、「個人が面識のない別の個人を攻撃する」「しかも事実無根の可能性があっても発信する」という悲しいツールの使い方をどう止めていけばいいのか。

ネット上には「もう国が止めなければいけない段階」「運営側がアカウント凍結などをもっとしていくべき」「得られる収益に比例した罰則規定が必要」「虚偽だったケースでは収益を本人に還元させる仕組みがほしい」「あまりにひどいものは削除するシステム化をもっと進めるべき」などのニュアンスでさまざまな意見が書き込まれています。

どれも一理ある一方で実現までのハードルは決して低くないでしょう。少なくとも、暴露系インフルエンサーは情報を広く募って利益を得ているのですから、もはや個人ではなくメディアの1つとみなして対策を考えるべきように見えます。

ただ、“暴露系”に限らず個人の発信者たちはメディアとしてのリテラシーを持っていない人が多く、広く発信するうえでの技術やリスク管理などの面に不安があるだけに、国や運営側などが罪を未然に防ぐ取り組みが必要ではないでしょうか。

今年は1月から週刊誌報道で「個人を過剰に攻撃すること」や「真偽不明の情報で生活や人生を変えてしまうこと」に対する嫌悪感が世間に漂っているだけに、改善に向けた一歩を踏み出すチャンス。面識のない個人からの攻撃によって心を病み、命を落とす人もいるであろう中、「絶対に変えなければいけない」という各所の本気度が問われています。

最もリスクを負っているのは誰か

29日、週刊文春が「フォロワー274万人の暴露系インフルエンサー『滝沢ガレソ』の意外な素顔『演奏のレベルはかなり高い』慶應SFC卒のバンドマンだった」という記事を報じました。個人の素性を明かすような記事であり、「暴露していた側が暴露される側にもなった」という一例でしょう。

可能性としては逆に「滝沢さんが週刊文春関係者の暴露をする」というケースもあり得るでしょうし、「滝沢さんが他の個人から何らかの暴露をされる」というリスクも考えられます。いずれにしても私たちが「関係性のない人たちから、いつ何を暴露されるかわからない」という怖い世の中で生きていることは間違いないでしょう。

最後にふれておきたいのが、個人やメディアの発信を受け取る側の言動について。ある意味、今回の件で最もリスクを負っているのは、星野さんや新垣さんなどを誹謗中傷した人ではないでしょうか。

特に星野さんのインスタグラムに誹謗中傷を書き込んだ人は、本人や事務所から訴えられても文句が言えない立場。もしそうなった場合、滝沢さんのように収益も得られていないため、「損するだけ」というリスクがあるのです。

有名人のゴシップを見たくなる気持ちは理解できますし、それ自体は何の問題もありませんが、問題はそれに便乗して過剰に攻撃してしまうこと。情報の真偽はさておき、「ただ思ったことを書いただけ」「他の人も書いている」などの言い訳は通用しません。利益が出ないのに、罪に問われてしまうリスクがある以上、もっと慎重になったほうがいいのは間違いないでしょう。

他人への悪意を込めた書き込みで収益を得る人も、それに乗っかって他人を攻撃する人も「罪に問われるリスクがある」という点では同じ。星野さんと新垣さんは終始、穏やかで笑いながら語っていましたが、その一方で今後、誹謗中傷した人々を訴えてもまったく驚かないのです。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)