「数学ができる子」だけに見えている、「隠れた数字」があるといいます(画像:tomwang/PIXTA)

「算数から勉強をやり直して、どうにか東大に入れた今になって感じるのは、『こんなに世界が違って見えるようになる勉強はほかにない』ということです」

そう語るのが、2浪、偏差値35から奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏。東大受験を決めたとき「小学校の算数」からやり直したという西岡氏は、こう語ります。

「算数の考え方は、『思考の武器』として、その後の人生でも使えるものです。算数や数学の問題で使えるだけでなく、あらゆる勉強に、仕事に、人生に、大きくつながるものなのです」

そんな「思考の武器」を解説した43万部突破シリーズの最新刊、『「数字のセンス」と「地頭力」がいっきに身につく 東大算数』が刊行されました。

ここでは、「数学ができる子」「できない子」を見分けられるクイズを題材に、両者の「ほんのわずかな違い」を解説してもらいました。

「数学ができる子」には何が見えているのか?

みなさんは、数学ができる人と、そうでない人を分けているポイントってどんなところにあると思いますか?


算数や数学は、できる人とそうでない人がハッキリと分かれてしまう科目です。

でも、「自分は数学ができない側だ」と考えている人でも、「なぜ自分は、数学ができなくなってしまったのか」について、思い当たるところがないという人もいるでしょう。

僕はもともと偏差値35で、全然数学が得意ではない人間でした。

頑張って勉強しているはずなのに数学の成績は全然上がらず、「どうしてなんだ!」と悩んでいた時期が長いです。

そんなときに、僕は塾の先生にこんなクイズを出されました。

1500Wで1分間、500Wで3分間温める必要がある料理がある。この料理を、1000Wで温めるとき、何分間温めればいい?

このクイズは実は、数学ができる人なのかそうでない人なのかがハッキリわかるクイズなのだそうです。みなさんは答えがわかりますか?

僕の答えは、「2分」でした。1500Wと500Wの中間が1000Wですから、3分間と1分間の中間である「2分」が答えなのではないか、と考えたのです。ですがこの解答は間違いでした。

このクイズを解くカギであり、数学ができる人かそうでない人なのかを分けるポイントは、「目に見えない数字を意識できるか」なのだといいます。

そもそも電子レンジとは、一定の熱量を加えることで、中に入った料理を温めるためのものです。そして、温めるために使う電力がW(ワット)であり、その電力を一定の時間使えば、一定の熱量がその料理に加わることになるということになります。

計算式で言えば、

熱量=電力(ワット)×時間

になるのです。そして、温めるために必要になってくる熱量は変わらず、電力が少なければ長い時間電子レンジを使わなければならないし、電力が多ければ電子レンジを使う時間も少なくてよくなるということです。

この場合、

180秒(3分)×500W=90000J(ジュール)

の熱量が必要になります。1500Wの場合でも60秒(1分)×1500W =90000J(ジュール)なので、使う熱量は同じですね。

では、1000Wでは何秒温める必要があるでしょうか。この場合でも必要になる熱量は同じなので、

1000W×◯秒=90000J

であり、◯の中に入るのは90になります。ということは、「1分半」が答えになりますね。

ちなみに熱量については、中学校の理科の授業で習うわけですが、こうやっていざ問題として出されると解けないものです。

「見えていない数字」を見ることが大切

この問題を出した先生は僕にこう言いました。

「西岡くん。数学は、見えている数字だけでなく、見えていない数字も意識しなければならないよ。それができる人は数学が得意になるし、それができない人はいつまで経っても数学が得意にはならないよ」と。

今回の問題では、「1500W」とか「1分間」とかそういう見えている数字に気を取られて、重要な「熱量90000J」という数を忘れてしまっていました。そして人間は、表に見えている数字だけを見て考えてしまいがちです。

例えば、こんなクイズもあります。

同じくらいの値段の、ある資格試験のための塾に、A塾とB塾がある。
A塾の年間の合格者数が300人で、B塾の年間の合格者数は100人である。
さて、みなさんならどちらの塾のほうがいい塾だと思いますか?

直感でどちらを選ぶかと言われたら、おそらくAの塾ですよね。だって、300人と100人だったら、300人の合格者のほうが「すごそう」です。

でもこの問題、答えは「わからない」です。なぜなら、評価するための数字が1つ欠けているからです。

たとえば、こんなクイズだったら、みなさんはどっちを選びますか?

同じくらいの値段の、ある資格試験のための塾に、A塾とB塾がある。
A塾の年間の入塾者は3000人で、合格者数が300人である。
B塾の年間の入塾者は100人で、合格者数は100人である。
さて、みなさんならどちらの塾のほうがいい塾だと思いますか?

こう聞かれたら、みなさんはBの塾と答えると思います。

3000人の中で300人が合格するA塾に対して、B塾はなんと全員が合格しています。

先ほどの話も踏まえて考えると、裏側には「合格率」という数字が存在するのです。

「入塾者」×「合格率」=「合格者」

ですよね。もっと言えば、

「合格率」=「合格者」÷「入塾者」

です。

A塾の合格率は「300人÷3000人=10%」ですね。それに対してB塾の合格率は「100人÷100人=100%」です。B塾はみんな合格していて、A塾は10人に1人しか受からないのです。

合格者数という、「見えている数字」で比較しているうちは、その本質が見えてきません。それは一部分だけを見ているのと同じだからです。見えていない数字を意識できるようにならないといけないのです。

「全体を見る」ことで数字のセンスが高まる

この思考ができるかどうかは、ダイレクトに数学の成績に直結します。

例えば数学でよく出てくる問題として、「コインを3回投げる。このとき、少なくとも1回は表が出る確率は?」というものがあります。

この問題、コインは1/2の確率で表か裏が出るわけですので、「じゃあ、3回中1回表が出る場合と、3回中2回表が出る場合と、3回中3回表が出る場合の、3パターンを考えて、足せば答えが出るよね」と考える人がいますが、これは面倒くさいです。3回も計算しなければならないからですね。

この計算方式を数式で表してみましょう。

「3回中1回表が出る場合」=A
「3回中2回表が出る場合」=B
「3回中3回表が出る場合」=C

とおくと、
A+B+C=「少なくとも1回は表が出る確率」

となりますね。

全体から部分を引けば「残り」が出る

ここで、先ほどから登場している「見えない数字」を考えてみましょう。例えば今回、「3回中○回表が出る場合」を考えたわけですが、この○の回数って、もう1個ありますよね?

そう、「0回」です。

「3回中0回表が出る場合」をDとおくと、こんな計算式が出てきます。

A+B+C+D=「全体」

この「全体」というのは、確率の世界だと「1」となります。コインを投げて表が出る確率は1/2で、裏が出る確率は1/2となります。「1/2+1/2=1」ですよね。これは、表か裏は必ず出て、表か裏以外が出ることはない、ということを意味します。

そして、A〜Dを確率で考えると、

A+B+C+D=「全体」=1

となりますね。

さて、これで1つ、見えてきたことがあります。それは、

「少なくとも1回は表が出る確率」=A+B+C=1−D

ということです。「A+B+C+D=1」なら、「A+B+C=1−D」と解釈できるわけですね。

つまりは、「1回も表が出ない確率」を求めて、それを全体から引けばいいのです。「全体」から「一部」を引くことで、「残り」がわかるわけです。

そして、「1回も表が出ない」のは、「1/2×1/2×1/2=1/8」だと計算できますよね。それ以外は全部「少なくとも1回は表が出る確率」になります。ですから、「1−1/8=7/8」になるというわけです。


このように、「見えているものがすべてだろうか?」と考えて、見えていない数字を意識した思考ができる人は、数学の問題が解けて、数字に強くなり、いろんな場所でこの思考を応用できるのです。

みなさんぜひ、参考にしてみてください!

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)