将来の夢は?と聞かれたら何と答えますか?(写真:maruco / PIXTA)

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こんにちは、将来の進路について質問させてください。僕は大学に入学したばかりの者ですが、将来なりたい職業がどんどん小さくなっていく、という現実にぶつかり、葛藤しています。

小学生の頃は野球選手や格闘家になりたかったですし、中学生や高校生のときには医者やユーチューバーに憧れた時期もあります。ところが現在はといえば、自分に何か特技があるわけではないので、サラリーマンになるという進路しかないように思えます。

現実的といえばそうなのかもしれませんが、夢があるかというとそうではない気がします。なんだか自分がどんどん小さくなってきているような気がして、心配しています。周りも同じような感じですし、普通なのかもしれませんが、将来の夢がサラリーマンというのは普通なのでしょうか? またどうしたら、楽しい将来像を描けるでしょうか?

NT 大学生

サラリーマンをひとくくりで考えない


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まず職業上の区分として、サラリーマンとそれ以外、という誤った認識を捨てたほうがよいでしょう。

サラリーマンという職業はご存じの通り、存在しません。

いわゆる月給を勤務先からもらう、という意味においてサラリーマンという言葉が作られたのかもしれませんが、それは決して職業ではありません。

月給を勤務先からもらう、という意味においては、例として挙げていただいている、医者の中でも勤務医は同様ですから、サラリーマンとみなされる可能性もあるのです。

それは、大手事務所に所属する公認会計士や弁護士も同様です。

また、俗にいうサラリーマン、または会社員といっても、メーカー勤務、出版社勤務、商社勤務、金融機関勤務、など業種によってだいぶ異なりますし、大企業・中小企業といった違いもあるでしょう。

したがって、サラリーマンとして1つにくくることの意味はありませんし、そう考えてしまうことで、それぞれの職業のディテールを見ることなく、思考が停止してしまうのは、非常にもったいないです。

さて、そのうえで「どんどん夢が小さくなる」とのことですが、これは小さくなっているのではなく、現実的になっているのであり、極めて普通のことです。むしろ誰もが通る道でしょう。

なぜそうなるのでしょうか。

それは小学生や中学生といった、職業に対するイメージをあまり持てない時期や、また自分自身の中での、そして社会の中でのアイデンティティが確立していない時期においては、自分が何者かもわかっておらず、加えて将来何者にでもなれる、という夢を持てるのが普通です。

繰り返しですが、それは自分自身のことも、社会のことも、そして社会との関係における自分の立ち位置すらも、見えていないからです。

とりわけ今の時代のようにSNSなどで著名人、有名人とつながっていると、自分とその相手が近い関係にあると勘違いをしてしまうケースが多々ありますから、なおさらです。

隣にいる彼・彼女ができたのだから、自分にもできて当たり前だ、というやつですね。

「何者にでもなれるハズだ」にズレが生じるように

ところが、歳を重ねるにつれ、そしてそれは往々にして、受験で初めて偏差値や、進学先という区分に直面し、なんとなく社会(といっても学生という身分のみによって構成された社会ですが)における自分のポジションを理解し始めた時期から、ぼんやりと自分の将来像が見え始めるのです。

「何者にでもなれるハズだ」から、「いやそれって無理ゲーでしょ」になるのです。

もちろん、小さい頃に思い描いていた夢を諦める必要もないのですが、多くのヒトは、目の当たりにした現実をベースに「夢の軌道修正」を図るのです。

夢の軌道修正を図ったヒトが皆不幸せかというと、まったくそんなことはなく、人によって異なります。

その前提で、「どうしたら楽しい将来像を描けるか」ですが、やることは1つしかありません。

自分と社会を知る、ということに尽きます。

自分が何をしているときに楽しいと感じるのか、反対に何を極力避けたいのか。自分にとっての幸せは何か、ですね。

それによって、どんな人生を歩みたいのか、どんな仕事をしたいのか、がある程度見えてきます。

そのうえで、どのような職業に就きたいのかを、より深く考えてみましょう。

冒頭に申し上げましたが、サラリーマンとひとくくりにしてしまい、サラリーマンは嫌だ、といってもまったく意味がないのです。

そうではなく、世の中にはそもそもどんな仕事があるのか、を調べてみて、その中で興味がある仕事をしているヒトと、リアルに話してみたり、気になる業界や会社でアルバイトしてみたり、またはセミナーやインターン体験をすることで、どんどん経験を積み重ねましょう。

そうすることで、仕事に対する、たんなる漠然としたイメージから、リアルな肌感覚を持てるようになります。

外からみた姿がすべてではない

何事もそうですが、頭の中のイメージや、机上の空論で結論を出して行動をしても、ロクな結果にはなりません。

世の中は、外から見たイメージがすべてでは決してないのです。

先ほどのSNSのケースでもそうですが、例えば誰かのきらびやかな一面だけを見て「いいな」で終わったり、そのライフスタイルの「一部だけ」を真似して、同じ環境にいる「つもり」になってしまうのか。

それとも、その成功の背景や、努力の軌跡を探り、自分の人生に応用するなら、どの部分から学べるのか……などと考え、思考や、行動、努力を真似することをできるのかによって、同じSNS上のつながりでも自分の人生は変わってくるハズです。

漠然と見ているだけではなく、やはり何事においても、深い洞察や具体的行動が大切なのです。

よりよい決断を下すには、どれだけリアルな経験や知識を自分自身で持っているかが大切、ということです。

そうすることで、より現実的で、より自分にとってベストな選択肢を選ぶ、審美眼が磨かれるというものです。

NTさんは大学に入学されたばかり、ということですから、そういった具体的な行動や、リアルな情報収集をするための手段はこれまで以上に広がるハズです。

OB・OG訪問やインターン、バイト、セミナー、専門学校などなど。選択肢は非常に多岐にわたるハズです。

そういった大学生ならではの特権をどんどん利用し、どんな仕事が世の中あるのか、それぞれどんな特徴があるのか、どんな良い面と悪い面があるのか、そして大人はどんなライフスタイルをしているのか。

そういったことをどんどん調べて、実際に経験し、漠然としたイメージから、リアルな知見に落とし込んでいきましょう。

経験や知識を積むと、ベストな選択肢が見える

リアルな経験や知識を得れば得るほど、自分にとってより現実的で、そしてベストな選択肢も見えてくる、というものです。

結局のところ、社会に出て、より自分にあった職業に出会えるかどうかは、どれだけ学生時代にそういったリアルな行動をして、リアルな知識を仕入れられたかによります。

それができないと、「思っていたイメージと違う」という理由で、すぐに職を転々とすることにもつながりかねません。

もちろんそれも、経験を積む、という意味においては、無駄な行動では決してないのですが、そういった試行錯誤を学生時代にできるのか、それとも社会に出てからするのかでは、その後の人生が大きく変わってしまうことでしょう。

そういった前提で、NTさんが学生時代にできるだけ多くの試行錯誤を繰り返し、リアルな経験と知識を持って、将来の選択肢を探る一歩を踏み出すであろうことを応援しております。

(安井 元康 : 『非学歴エリート』著者)