管理職になりたい人が少ない日本。最近では、管理職は罰ゲーム、といった言葉も(写真: den-sen / PIXTA)

最近、「管理職は罰ゲーム」という話題に触れることが多い。

初めてその言葉を聞いたとき、「確かにそうかもな」と妙に納得した記憶がある。年々厳しくなる人手不足、コンプライアンスやメンタルヘルス対策、ダイバーシティへの配慮……。

確かに、管理職に求められる業務は複雑化しており、負担が集中して「報酬などのリターン」に見合わないことは想像にかたくない。

筆者はウズウズカレッジという会社で、IT分野リスキリングのための転職・研修サービスを提供している。この分野だけを見ても、昔はなかった「新しい仕事」が増え、上司が経験値だけで部下を育てられる時代でないことは明らかだ。

管理職になりたい人が少ない日本


興味深いデータがある。パーソル総合研究所が2019年に行った「APAC就業実態・成長意識調査」によると、アジア太平洋地域(APAC)の14カ国・地域の中で、「管理職になりたいと感じる」と答えた割合は日本がダントツで最下位。

高いと予想していたわけではないが、1位インド(86.2%)、7位マレーシア(69.0%)、13位ニュージーランド(41.2%)という中、日本(21.4%)は想像以上に低かった。

そのような状況を踏まえて、これから組織を担っていくZ世代にとって、管理職が「罰ゲーム」でなくなるための3つの考え方を提案したい。

筆者も20代後半から管理職と呼ばれるポジションを経験しているが、以前から感じていたのが「”管理職”という日本語が本質とズレている」ということだ。

英語では「マネージャー」だが、その意味は「自分のチームやメンバーがうまくいくようにサポートする人」だと認識している。もちろんチーム管理の業務も含まれるが、それは役割の一部分。最大のミッションは、受け持つチームのパフォーマンスを最大化して、企業やチームの目標を達成することだろう。

ところが、管理職という言葉になるとどうしても「人を管理する役割」というイメージが全面に出てしまう。サポートの意味合いがこの言葉からは微塵も感じられないのだ。

ちゃんと業務が進捗しているかチェックしたり、会社やチームに不利益なことをやらないか見張ったり、目標や勤怠、コンプライアンスや残業を管理したり。それが、人を管理する業務の一般的なイメージではないだろうか。主な目的は、組織の中でミスや問題が起きるのを防ぐこと、ということになる。

一方で、”逆張り”の会社も出てきている。「部下に好かれているか」を管理職の評価基準にするやり方だ。斬新だとは思うが、部下に好かれないと評価が下がるのであれば「好かれる管理職」を演じるケースも出てくるだろう。職場にいる限り「好かれる管理職」の仮面をかぶり続けなくてはならず、それもやはり「罰ゲーム」だと思う。

「管理職」の認識を再定義しよう!

そのように「人を管理する業務」をあらためて眺めると、「そもそも、こうした仕事をやりたい人はいるのか?」と疑問に感じるのは筆者だけではないだろう。これから組織で働く20代には「管理職=人を管理する役割」という認識をリセットするよう強く勧める。

筆者の考えでは、本来管理職のミッションとは「チームメンバーのパフォーマンスを最大化させて結果を出す」ということだ。人の管理は役割の一部で、主となるのは「チームが機能して目標達成するようにサポート・調整する」ことだと思っている。

「チームのパフォーマンスを最大化させる」ということで参考になるのが、スポーツの監督ではないだろうか。

例えばサッカー日本代表の監督だったとして、「勝つためには代表選手全員をワールドクラスの選手で固める!」なんて言ってもそんなことは不可能なので、今いる日本選手の特性を把握して、その中でやりくりしながら勝つ方法を見出していくことになる。それがマネージャー(いわゆる管理職)の役割だ。

最も大事な任務は、それぞれのメンバーの特性を把握して、成果が出せるように役割や目標を決めることだろう。点を取りたい、シュートが得意な選手はフォワード、チームのために献身的な動きができる、身体が強い選手はディフェンダーというように、職場のチームでも仕事の内容や量、難易度を見ながら、その人が結果を出せるような仕事や役割をあてがうのだ。

ある程度結果が出てくると、本人に自信がつく。「これができたから次も」とさらに一歩踏み出せる。当然評価もついてくるし、企業も助かる。そう考えると、マネージャーの仕事で最も大事なことは「結果が出ない」という結末にしないようにすることだ。

誰しも最初は新人マネージャー!できないのが普通!

書店を見ると組織マネジメントの指南書がずらりと並んでいる。それだけ悩んでいる人が多い証拠だが、本によって理論が全部違うから、「いったいどれが正解なのか」と混乱してしまうかもしれない。

ちなみに、筆者がマネージャーになりたてだったころ、社内では細かく部下とやり取りするマイクロマネジメント型が評価されていた。

連絡は細かくチェックして即レス。こまめなチャットが苦手な筆者も頑張ってやっていたが、正直なところチームのパフォーマンスが改善した実感はあまりなかった。経験を重ねた今は、ポイントを絞って指示やサポートをするポイントマネジメント型に落ち着いている。

振り返ってわかったことだが、マネージャーをやるうえで重要なマインドセットは、うまくできないことでいちいち自分を責めないということ。「そもそもやったことないんだからできなくて普通!」というくらいの気構えで十分なのだ。

なぜなら、マネージャーという業務には、わかりやすい定型の勝ちパターンや正解なんてものがないからだ。むしろ、「失敗しないほうがおかしい」と言っていい。

そうした中で勝ちパターンを確立するには、いろいろなやり方を試しながら自分に合うものを見つけていくスタンスが必要だろう。「自分や自分の部下に合うやり方はどれだろう?」と試行錯誤していくプロセスはどうしても必要だ。

順番としては、まず自分に合う、基準となるマネジメント方法を見つけること。

次に、いろいろな部下に合わせられるよう2パターン目、3パターン目と引き出しを徐々に増やしていくことでマネジメントできる範囲や質が向上していく。

自分の仕事に対する「感情の配点」を理解する

マネージャーという仕事を面白みを感じながらやれるための環境づくりに役立つのが「ウズウズ働くためのポイント配分」という視点だ。

一人ひとり手元に100点分のポイントが配点されているとして、どんなことにやりがいを感じるのか、面白みを感じるのかポイント配分して、自分の「感情の配点」を理解しておく方法だ。

まずは自分が働いていてやりがいを感じたり、面白みを感じることを洗い出す。「仕事を通じてスキルアップすること」「収入」「誰かに感謝されること」「仲間と協力し合うこと」「オンとオフが明確であること」などいろんな切り口があるだろう。

ある程度書き出せたら、それぞれに100点分のポイントを割り振っていく。これによって、自分がウズウズ働くためには「何が」「どのくらい」大事なのかを視覚化できる。

これは、マネージャーの仕事を「罰ゲーム」にしないためにも非常に有効だ。

管理職をやっていると、「やらないといけないこと」ばかりになってしまい、自分のやりがいや仕事に対する面白みを考える機会がどんどんなくなってしまう。

自分のマネジメントのやり方と、このウズウズ働くためのポイント配分を可能な限り一致させるようにすることで、自然とマネジメント業務を行うことが自分のやりがいや面白みにもつながる。

例えば、マネージャーになると、パラメーターに「チームメンバーの成長」や「会社のミッション達成」といった新たなポイントが加わる可能性もある。

筆者も今はマネージャーの仕事に面白みがあると感じるが、その理由は、1人で出せる結果よりも10人で出せる結果のほうが大きいことや、チームメンバーが自信をつけていく嬉しさを知ったからだ。

こうして見てみると、「人を管理する業務」一辺倒にならず、チームのパフォーマンスを最大化することに注力できれば、マネージャーという仕事にプレーヤー以上のやりがいを感じる可能性は大きいと思う。

最後に、マネージャーが「罰ゲーム」にならないために経営陣がすべきことにも触れておきたい。

マネージャーの仕事を減らす

一言で言えば、「マネージャーの仕事を減らすこと」だ。勤怠管理や過度なコンプライアンス対策、毎週の1on1など「人を管理する業務」に疲弊しているなら、経営陣がサポートして負担を軽減する必要がある。

なぜなら、経営陣は「マネージャーのマネージャー」だから。マネージャーがパフォーマンスを最大化できていなければ、経営陣がサポート、調整して結果が出せるよう環境を整えないといけない。

ここまで述べてきた、管理職に大切な3つの考え方をまとめると、以下の通りだ。

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こうした視点で全社一丸となってマネージャーの業務を整理していけば、マネージャー(管理職)になりたいと感じる若い世代はもっと増えるのではないだろうか。

(川畑 翔太郎 : UZUZ COLLEGE(ウズウズカレッジ) 代表取締役)