シンプルなのはインテリアも同じ。ハンドルとウィンカーなどのレバー、アクセルとブレーキのペダルは存在するものの、それ以外は極力省略するという強い意志を感じる。スピードメーターは、センターのタブレットのようなディスプレイ上部に小さく表示される。エアコンやサイドミラーの調整、走行モードの切り替えなどの作業も、このディスプレイに集約されているのだ。

辛うじて残されたのが、センターの肘掛け前に移されたウィンドウの開閉スイッチ(これもフロントとリアをボタンで切り替える集約型だ)とパワーシートの操作ボタン(同様にシンプルな形状になっている)、エアコンの吹き出し口とダッシュボード奥のサウンドバー。物理的なスイッチを極限まで減らす取り組みの結果だ。

シンプルすぎるともいえるインテリアの背景には、脱炭素の取り組みがある。特にドアの内側からスイッチ類やスピーカーを除いたことは、もちろんコストダウンという狙いもあるのだろうが、廃車時のリサイクルを容易にし、環境負荷を与えないための取り組みであるという。

リサイクル素材は最大限に活用されている。アルミニウムの25%、スチールの17%、プラスチックの17%がリサイクル素材であるほか、シートにはウール混紡素材や再生可能繊維の亜麻が、パネルには再生プラスチックが、フロアマットは廃棄された魚網が素材として使用されている。加飾を排除してもプレミアムな質感を実現できることを志向したデザインは、まさにシンプルイズベストだ。

運転した感覚は、これまでに乗ったEVの中でもっとも好印象だった。全長4235×全幅1835mmというサイズは、日本の道路事情に合ったほどよいサイズ。日本サイドが本社に掛け合って実現したという、一般的な立体駐車場にギリギリ収まる1550mmの全高も、都市部に住むユーザーのことを考えると慧眼だと思う。

WLTCモードで560kmという大容量69kWhのバッテリーを搭載しているので、車両重量は1790kgとEVにしては軽めという程度なのだが、走ってみるとすこぶる素軽く感じる。強烈なトルクで強引に加速するのではなく、ボディ全体が軽いような感覚なのだ。アクセルワークを多少雑にしてもガバッと踏み込まない絶妙な味付けも好感が持てる。

ハンドリングもナチュラルで、軽快な身のこなしを見せてくれる。とりわけ印象的だったのが乗り心地の良さだ。1000万円超のEVと比較すれば劣るだろうが、この価格帯としては実にしなやかで、首都高速のギャップや路面の段差を乗り越えても、穏やかさを失わない。シートの性能を含め、全体的に乗り手の要望を十分に尊重しつつ、疲れさせないパッケージに仕上がっている。

レクチャーを受けなければ発進すら難しい操作系は、レンタカーやカーシェアには間違いなく不向きだ。だが、あまりにシンプルな内装の質感や、初見殺しの操作性の問題は、意図的に設計されたことが明確に伝わってくるし、その意図を汲むユーザーをターゲットとしていることが十分にわかる。

リサイクル素材の活用を前提とし、廃車時の環境負荷まで考慮したという設計理念からは、ユーザーのインテリジェンスが大きく試される印象を受けた。そもそもEVが根源的に持つ充電時間・航続距離の問題は、対象となるユーザーを大きく絞り込んでいるわけだが、さらにEV30は選ばれたターゲット層へと真っ正面から問いかける車といえそうだ。

そんな中、どうしても納得がいかないのがオーディオだ。EX30にはharman/kardonのシステムが標準装備され、ダッシュボードのサウンドバーなど9つのスピーカーが配されている。センターディスプレイで設定をあれこれいじってみたのだが、どうにも納得のいく音にはならないのだ。特に不満なのが低音で、ソリッドな音がリバーブがかかったように曖昧になってしまう。エレキベースとウッドベース、バスドラムとティンパニーの区別がつかないほどだ。

マルチウェイスピーカーの下部にウーハーが取り付けられるのは正当な理由があるからであって、ドアパネルからスピーカーを排除した弊害は大きかったのではないかと思う。さらにはサウンドバーからの音が強すぎるのか、運転席で聴いていると音がすべて左前方から聞こえる。一方から音がするということは(サラウンド感どころか)ステレオ感が低く、まるでモノラルで音楽を聴いているような感覚がする。

これらはサウンドバーがもともと抱える性質そのものだ。弊害は承知の上で割り切ったのかもしれないが、この音質ではharman/kardonというブランドのイメージを毀損するのではないだろうか。そして他の車種と同様にGoogleが採用されているインフォテインメントシステムは、iPhoneユーザーとの相性が決してよろしくはない点も指摘しておきたい(個人的にはAndroidユーザーなので影響はなかったのだが)。EX30に興味を持つ限られたユーザーが、このあたりを疎かにして黙っているとは思えないのだ。

文:渡瀬基樹 Words: Motoki WATASE