【佐藤 大輝】「赴任1週間でもう日本に帰りたかった」世界で最もカオスな国・インドで働く34歳商社マンの「気になる年収」

写真拡大 (全2枚)

我が国のGDPがドイツに抜かれて4位に後退したことがメディアで話題になったが、遠くない未来に5位転落も十分にありえる。IMF(国際通貨基金)の見通しによると、インド経済は我が国と僅差の現在5位。2023年に中国を抜いて世界人口1位となった同国は、数年以内に日本経済を上回ることがほぼ確実視されている。いったいインドと日本は何が違うのか。現地で働く34歳・日本人会社員に話を聞いた。

聞き手:佐藤大輝(世界30ヶ国を旅したバックパッカー)

世界で最もカオスな国・インド

「どの国がオススメですか?」と聞かれたら、私は迷わずインドと答えている。あの国はヤバイ。自分の常識、世界観が破壊される。インドでは牛、野良犬、猿といった動物が、当たり前のように街中を歩き回っている。

交通量も尋常ではなく、車線も車間距離もあってないようなものだ。過去に私は同国でタクシーに乗車している際、後ろを走る車に軽く激突されたことがあるが、ぶつけられた側のドライバーは後ろを振り向いて睨みを利かせ、ぶつけた側は軽く手を上げて謝罪し事故処理は終了。双方の車両はそのまま走り出した。

インド最大の思い出は、現地で口に入れた「氷」が原因で、帰りの飛行機内で猛烈な吐き気と腹痛に襲われたこと。慌ててトイレに駆け込んだのだが、その場で意識を失ってしまい、気が付いた時、私は全身汚物まみれ。CAさんを呼んで恥ずかしい事情を説明したところ、感染症の疑いがあるので席には戻らずトイレ内で過ごしてほしいとのこと。支給された子供用オムツを履き、愛する母国へ帰国したのは2019年の夏。

あれから約5年。経済成長率が1%有るか無いかといった我が国とは対照的に、インド経済は過去20年間、毎年のように5〜10%近くの経済成長率を記録してきた。同国の快進撃を下支えしているのは「人口ボーナス」の力が大きいと言われている。現在世界1位の14億人の国民を抱えており、2050年には17億人近くまで達する予想もある。世界人口は約80億人なので、地球上の5〜6人に1人はインド人の計算が立つ。しかも平均年齢は28歳(我が国は48歳)。現役バリバリ世代が多く、英語力も堪能ときている。

いったいインドとはどのような国なのか。もう日本に勝ち目はないのか。多角的な視点で分析するため、私はインド在住の日本人にインタビューを決行。取材に協力してくれたのは森川優さん(仮名=以下同)。年齢は34歳。総合商社に勤める男性サラリーマンだ。年収、預金額、現地での生活を含め、素朴な疑問をストレートにぶつけてみた。

異国で頑張る日本人の気になる年収

ーーまず初めに、森川さんの経歴と職歴について、簡単に自己紹介お願いします。

初めまして。インドのムンバイで働いてます。森川優と申します。大学卒業後に総合商社に就職し、31歳のときに海外赴任を命じられ、インドで働くことになりました。今はインドで部長職として、現地で約100人の部下をまとめています。

ーーその年齢で部長職はすごいですね!

いえいえ、インドでは管理職の立場ですが、日本に戻ったら主任クラスの役職です。現地の人に舐められないためにも、どうしても肩書や権威が必要で…。会社の方針で、童顔の僕に似合わず、立派な役職を頂戴することになりました。管轄している人数も、たしかに多いですが、僕の下にいる現地採用の方、いわゆる中間管理職の方が頑張ってくれているので何とか回せています。日々、感謝しかありません。

ーーご結婚はされているのですか?

はい、結婚してます。ちょうど去年、第一子が生まれました。嫁と子供は現在、インドの社宅で一緒に暮らしています。かなり不便な生活を強いているので正直申し訳ないと思いつつ、インド赴任が決まった時、嫁から『どこにでも付いていくよ』と言われた時はやっぱり嬉しかった。家族を守るためにも、仕事を頑張らなきゃなと強く思っています。

ーーもし差し支えなければ、お給料や年収、預金額をお伺いしてもよろしいですか?

年収は1200万円くらいです。月の給料は、どこからが海外赴任手当なのかの線引きが難しいのですが、日本円の支払いで35万円。現地通貨ルピーの支払いで40万円。それから手当が15万円ほどあります。ここに賞与が加わる感じですね。日本に住民票がないので、住民税や健康保険料などは一切かかりません。給料のほとんどが手取りになります。裏を返せば日本での治療費は10割負担になるのですが、歯医者を除いて、会社が治療費を負担してくれるので安心です。

社宅費用も1円もかかりません。間取りは3LDKで、自宅から職場までは専属ドライバーが送迎してくれます。ちなみにインドの車市場はスズキ自動車がシェア率1位なのですが、そのスズキ自動車の3列シートで送迎してもらっています。預金額は、すみませんがシークレットでお願いします。

ーー日本で働く人から嫉妬されそうな恵まれた労働条件ですね!

いやー、でも正直、ここでの生活は本当にキツイですよ。自宅から職場までは車で片道50分。朝7時に出社して、会社を出るのは21時過ぎ。赴任して1週間も経たない内から、僕は「日本に帰りたい」と全力で思うようになりました。妻も同じです。まだ言葉の喋れない僕の子供もきっと同じ気持ちだと思います。

*     *     *

年収や住環境だけ見れば恵まれている森川さんだが、それでも帰国願望はなくならないようだ。〈「まさかここまでとは」 …インドに来て3年、34歳商社マンが年収1200万円でも「1日も早く帰りたい」ワケ〉では引き続き、過酷な環境で働く日本人のライフスタイルについて聞いていく。

「まさかここまでとは」 …インドに来て3年、34歳商社マンが年収1200万円でも「1日も早く帰りたい」ワケ