ここにきて浮上する「嫌われ者のトランプ」再登板説…それでも「日本に有利」と言える、4つの理由

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日本との折り合いが悪い民主党

3月17日、予想どおりの圧勝で再選されたロシアのプーチン大統領。彼がその約1ヵ月前、メディアに語った言葉が印象的だ。

「ロシアにとって、アメリカ大統領は、トランプ氏よりもバイデン氏のほうがいい。バイデン氏のほうが経験豊富で予測しやすく、古いタイプの政治家だから」

いかにも政治的な発言だが、ストレートに解釈すれば、この思いは、日本の政界や財界にも共通するものだ。実際、民主党現職のバイデン氏(81)は国際協調路線、対する共和党のトランプ氏(77)は「アメリカファースト」。その政治手法は180度異なる。

確かに、「もしトラ」が「マジトラ」になった場合、日本をはじめ国際社会に多大な影響が出るに相違ない。ただ、トランプ氏が公表している公約集『アジェンダ47』や、これまでの遊説内容を分析すれば、「トランプ大統領」のほうが日本や日本国民にとってベターだと思えてくる。

もともと、日本は民主党政権と折り合いが悪い。それは歴史が物語っている。

古くは、広島と長崎に原爆を投下したハリー・S・トルーマン氏、経済政策に失敗し「カーターショック」を巻き起こしたジミー・カーター氏、そして、中国を「戦略的パートナー」だと持ち上げ、「ジャパン・パッシング」(日本無視)とも言える外交通商政策をとったビル・クリントン氏は、全員、民主党の大統領だ。

逆に、中曽根首相と「ロン・ヤス」関係を築いたロナルド・レーガン氏、小泉首相とキャッチボールまでしたジョージ・W・ブッシュ氏、さらに、安倍首相と親交を深めたトランプ氏は、皆、共和党の大統領である。

いいことは「何もない」のか?

ではここで、先に述べたトランプ氏の公約集「アジェンダ47」を概観してみよう。

こうして見ると、人気ドラマのタイトルではないが、「不適切にもほどがある」項目が並ぶ。特徴的なのは、中国を「最大の地政学的脅威」と位置づけ、中国との「戦略的デカップリング(分断)」を最優先課題としている点だ。

バイデン政権は、中国との対話も維持するため、「デリスキング」(危機低減)という表現に留めてきたが、トランプ氏は「デカップリング」に踏み切るはずだ。

つまり、トランプ氏が大統領に返り咲けば、中国との貿易戦争が再びエスカレートし、先端半導体をはじめハイテク分野についても、アメリカと中国の間のサプライチェーン(供給網)が寸断されることになりかねないということだ。

また、アメリカファーストの見地から、ウクライナへの支援を止める、あるいは、NATO加盟国や日本、韓国などに対して、アメリカの軍事力に見合う費用負担を求めてくるに相違ない。当然ながら、地球温暖化防止への動きも再び停滞する。これでは、対中国どころか、同盟国とも「デカップリング」状態に陥る恐れすらある。

とはいえ、トランプ氏再登板で「いいことは何もない」というわけでもない。

まず、膠着状態が続いているロシアとウクライナの戦いに変化が生まれる。アメリカの支援停止で弾切れとなったウクライナは、現実問題としてロシアとの和平を模索する必要に迫られる。和平の機運が高まれば、原油高や穀物高はいくらか改善され、日本や西側諸国とロシアのビジネス再開にもつながってくる。

また、EV(電気自動車)で出遅れている日本企業にとっては、パリ協定脱退や排ガス規制の撤廃が、一時的な時間稼ぎになる可能性もある。さらに言えば、アメリカアメリカファーストに傾くことで、アメリカの景気は上向き、強い関係性を持つ日本経済や日本企業の株価にとってはプラスに働くと筆者は見る。

もちろん、ウクライナにとって領土の一部をロシアに奪われたままで戦争を終結することは悲劇的なことだ。

極端な経済政策によって、日本企業がアメリカと共同歩調で実施してきた脱炭素投資も滞るリスクもあれば、アメリカでインフレが進み、長期金利が上がって、ドル高圧力が強まる恐れもある。

それでも、トランプ再登板=世界は暗黒の世界に逆戻り、といった論調には賛同できない。

「大統領の権限は強く、大きな変化が予想されますが、周りには共和党の優秀なスタッフもいます。悪い変化だけだけではないと思います」

これは、トランプ氏が初当選した2016年11月、マンスフィールド財団の理事長、フランク・ジャヌージ氏が筆者の問いに答えた言葉だ。それは「トランプ2.0」にも当てはまると思うのである。

台湾有事の可能性が遠のく

2023年7月、トランプ氏がケーブルテレビ局FOXビジネスとのインタビューで語った言葉が波紋を拡げたことがある。

「かつてアメリカは、自分たちの半導体を自分たちで作ってきた。だが今や半導体の90%は台湾製だ。台湾はアメリカのビジネスを奪い去った。連中を止めるべきだった」

というくだりである。このとき、トランプ氏は、台湾有事の際、「台湾を防衛する」と明確に答えなかったため、「トランプ氏は台湾に無関心」との見方が一気に拡がることになった。

しかし、トランプ氏は、1期目の在任時代、台湾旅行法(アメリカと台湾の高官による相互往来や交流を促す法律)や台湾保証法(台湾への防衛装備品の売却と移転を奨励し、国際機関への台湾の参加を提唱する法律)に署名し成立させている。それらは、中国を揺さぶるための措置だったとしても、決して無関心ではない。

事実、トランプ氏は大統領就任直前の2016年12月、次期大統領として初めて台湾の蔡英文総統と電話会談し、中国の習近平総書記をはじめ世界を驚かせている。

今回の大統領選挙で「台湾を守る」と明言しないのは、中国との取引(ディール)を意識してのものだ。トランプ氏にとって台湾は、関心がある、ないというよりも、中国との取引を有利に運ぶ大事な「駒」なのである。

アメリカが中国の侵攻から台湾を守るのは2028年までだ」

こう語ったのは、アメリカ大統領選挙の共和党候補指名争いに参戦したインド系実業家ビベック・ラマスワミ氏(38)である。その論拠は、「あと5年程度でアメリカは半導体生産を自給できるようになるから」ということだが、裏を返せば、「アメリカは、今後数年、中国に対し、にらみを利かせますよ」ということにもなる。

2028年と言えば、習氏が総書記として4選を目指す共産党大会の翌年にあたる。「台湾統一」を幾度となく公言してきた習氏にとっては、2027年までがひとつのヤマ場になる。アメリカが、たとえ2028年までであっても台湾防衛に関与するとなると大きな誤算が生じることになる。

加えて、ただでさえ、ウクライナに派兵しなかったアメリカについて「頼りにならない」と感じ始めている台湾が、頼清徳新政権の下、半導体王国の技術力を駆使して無人軍用機の開発など国防力の強化を急げば、中国による台湾侵攻の時期はさらに遠のいてしまうだろう。

日本の発言力が高まる可能性

トランプ氏が返り咲いた場合、在韓米軍の縮小、在日米軍に対する財政負担増など、日本を取り巻く環境も大きく変化する可能性が高い。

それは、対中国だけでなく対北朝鮮に関しても不安材料だが、国際社会の中でアメリカへの信頼が減退すればするほど、日本の役割、日本の発言力は高まる。

これまで、国際社会が対ロシア、対中国包囲網で結束できたのは、バイデン氏が、EUが力を入れている気候変動対策に本腰を入れたからである。インドや豪州などがアメリカと対中包囲網でタッグを組んだのも、バイデン氏の国際協調路線の賜物であった。

しかし、トランプ氏が大統領に返り咲き、アメリカファースト路線で突き進めば、アメリカとEUの間には亀裂が走る。中国とロシアが取り込みを図るグローバスサウスとの関係も希薄になって、民主主義国家群はリーダーなき混迷に陥るというリスクをはらむ。

そうした中、国際協調路線を堅持してきた日本が、アメリカとEU、あるいは、グローバルサウス諸国との間でどのような役割を果たすかは、これまで以上に重要になる。

その頃、岸田首相ではない可能性が高いと筆者は見ているが、誰が首相であっても、日本の発言力が増すというのはプラスと考えたい。

ここまで、「トランプ大統領」はそれほど悪いことではないと述べてきた。ただ、実際のところ、トランプ氏返り咲きの可能性は、マスメディアが騒ぐほど高くない。

この時期、2016年は「ヒラリー・クリントン氏優位」、2020年も「トランプ氏リード」などと言われたことがあるが、11月の本番まで7ヵ月余りある。

トランプ氏の場合、(1)4つの罪で起訴されている裁判の行方とそれにかかる莫大な費用や賠償がどれくらいになるか、(2)共和党の予備選挙や党員集会でニッキー・ヘイリー氏を指示した穏健派が果たしてトランプ氏に投票するか、(3)副大統領候補に誰を起用するか、など、越えるべきハードルが多い。

「もしトラ」や「マジトラ」は面白いネーミングだとは思うが、筆者は「まだトラ」(まだトランプ氏が大統領になるとは限らない)の範囲内にあると見ている。

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