『さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜』(TBS系)

「2020年ごろまでは視聴した世帯の割合を調査する『世帯視聴率』を重視していたテレビ業界ですが、最近はより厳密な『個人視聴率』が計測できるようになり、さらに、視聴率計測サービス『TVAL』には、モニターとなる視聴者の属性までが登録されている。これにより、年齢・性別・職業などさまざまな条件で、さらに細分化した視聴率まで算出できるようになりました」

 こう語るのは、元NHK局員で「次世代メディア研究所」代表の鈴木祐司氏(65)だ。鈴木氏が算出したのが、史上初公開となる「職業別ドラマ視聴率」だ。今回は、「TVAL」のなかでも特に統計の多い5業種と、「役員・管理職」などを合わせた計9ジャンルで視聴率を計測した。

「個人視聴率を指標として、そこから各業種でどれだけ数値に差があるかを見ていくと、各ドラマがどの業種で “ハネて” いるのかがわかります。たとえば、今期ドラマ中、個人視聴率がトップの『さよならマエストロ』(TBS系)ですが、特に高い業種が宿泊・飲食業で10%超え。接客業なので、客との話題作りのため、トレンドに敏感なことが窺えます。役員・管理職の視聴率も個人視聴率より高くなっており、その年代の男性たちは、西島秀俊さん演じる『娘に拒絶される父』に、自分を重ね合わせているのです。

 同じTBS系の『不適切にもほどがある!』は営業職で伸びている。阿部サダヲさん演じる主人公が『チョメチョメ』などの過激な単語を連発するので、雑談から入る営業トークにもってこいなのでしょう。TBSは、毎クールヒットを続ける日曜劇場を始め、ドラマに関しては『一人勝ち』状態ですが、ワンクールで放送するのは、先に挙げた2本に加え、火曜10時枠の恋愛ドラマの3本。それでも各作品とも毛色がまったく違うので、刺さる職業や年代が違う。すべての視聴者に、いずれかの作品が刺さるようにドラマを作る、局の戦略がわかります」

 職業間での数字のばらつきが大きいのが、大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。特に、教育関係では大きく上がり、不動産業でも伸びている。

「教育関係者は『謎の多い紫式部の生涯を知りたい』『平安時代を勉強したい』と興味を持つ人が多いようです。不動産業界の数字がいいのは、平安時代の寝殿造りや、当時の町並みや建物が新鮮に見えたのかも知れませんね。今回の大河はCGを多用した昨年とは違い、セットに力を入れているといいますから、それが功を奏したのかも知れません」

 個人視聴率が2%台と厳しい数字の『大奥』(フジテレビ系)は、宿泊・飲食業で5%台にハネている。

「これはなかなか興味深い数字でした。今回の『大奥』はSNSで “過度ないじめ” などと評されていますが、宿泊・飲食業の方々は、最近問題になっている『カスハラ』など、理不尽なことが多いのでしょう。主人公に、客のクレームに耐え忍ぶ自分を重ねているのだと思います」

 特定の職業がテーマの “お仕事ドラマ” では、明暗が分かれた。『正直不動産2』(NHK)は不動産業で微増の一方、『となりのナースエイド』(日本テレビ系)は医療・福祉関係で大きく伸びている。

「『正直〜』は嘘がつけなくなった不動産営業マンが、言いにくいことも正直に話して接客をおこなう。同業者は『こんなのはありえない』と思っているのでは(笑)。『となりの〜』は医療界のヒエラルキーに対して、川栄李奈さん演じるナースエイドが異議申し立てをしていきます。日ごろから、職場に不満を抱えている医療関係者は、スカッとした気分になるのでしょう」

 職業別に “刺さる” ドラマは違うのだ。

写真・田中昭男、長谷川 新、伊藤 修