「肝臓がんの手術」は何種類ある?肝切除の種類や合併症についても解説!
肝臓がんの手術についてご存じですか?
本記事では、肝臓がんの手術について以下の点を中心にご紹介します!
・肝臓がんの治療の決め方
・肝臓がんの肝切除の種類
・肝臓がんの手術で起こる可能性がある合併症
肝臓がんの手術について理解するためにもご参考いただけると幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室産業医)
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。2023年、TOTO関西支社健康管理室産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
肝臓の手術について
肝臓は血液や胆汁の流れに沿って、区域と呼ばれる部分に分かれています。肝臓の手術では、がんの位置や大きさに応じて、区域ごとに肝臓を切除する「系統的切除」と、がんの部分をくり抜くように小さく切除する「部分切除」の二種類があります。肝臓は自己再生機能があるため、肝機能が正常であれば、約60パーセントまでの範囲の肝臓を切除できます。
肝臓の手術は、おなかを大きく切る「開腹手術」と、おなかの創が小さくて済む「腹腔鏡手術」の二種類があります。腹腔鏡手術は、術後の痛みが少なく、入院期間も短くなるというメリットがあります。肝臓の手術は、血流が豊富なため、出血のリスクが高く、高度な技術が必要な手術です。
手術後は、食事や排便、運動、通院などに注意する必要があります。手術後の入院期間は、合併症がなければ、7日から10日程度です。
肝臓がんの治療の決め方
肝臓がんの治療法はどのように決まるか、ご存知ですか?以下に詳しく解説します。
肝予備能
肝予備能とは、肝臓が正常に働くために必要な機能の余裕のことです。肝臓は、血液の浄化や代謝、胆汁の分泌などの重要な役割を担っています。肝臓がんの治療では、がんを切除するために一部の肝臓を切除することがありますが、その際には、残った肝臓が十分に機能するかどうかを確認する必要があります。
肝予備能の測定方法には、血液検査や画像検査などがあります。血液検査では、肝臓の機能を反映する指標として、アルブミンやビリルビン、プロトロンビン時間などを測定します。画像検査では、肝臓の大きさや形、血流などを評価します。肝予備能の測定には、肝臓の機能と肝臓の量の両方を考慮する必要があります。
肝臓の機能と量が十分にある場合は、肝臓の切除手術が可能です。切除手術は、がんを根治するための治療法です。切除手術の前後には、化学療法や放射線療法などの補助的な治療を行うこともあります。
肝臓の機能や量が不足している場合は、肝臓の切除手術ができない場合があります。その場合は、肝臓の機能を改善するための治療や、がんの進行を抑えるための治療を行います。肝臓の機能を改善するための治療には、肝臓の再生を促す薬や、肝臓の血流を改善する手術などがあります。がんの進行を抑えるための治療には、化学療法や放射線療法、がん細胞を焼きながら焼灼凍結する局所的な治療があります。
ステージ
ステージとは、がんの進行度を示す指標です。ステージは、がんの大きさや数、リンパ節や遠隔臓器への転移の有無などによって決められます。ステージは、治療法や予後の判断に役立ちます。肝臓がんのステージは、大きく4つに分類されます。
ステージIは、肝臓内に1つのがんがあるが、リンパ節や遠隔臓器への転移はない場合です。ステージIの肝臓がんは、手術やラジオ波焼灼療法などで根治的に治療します。ステージIIは、肝臓内に2つ以上のがんがあるが、それぞれ5cm以下で、リンパ節や遠隔臓器への転移はない場合です。ステージIIの肝臓がんは、手術やラジオ波焼灼療法などで根治的に治療しますが、肝臓の機能や合併症などによっては、切除できない場合もあります。
ステージIIIは、肝臓内に5cmを超えるがんがある、またはがんが肝臓の大きな血管に広がっているが、リンパ節や遠隔臓器への転移はない場合です。ステージIIIの肝臓がんは、手術で切除することが難しい場合が多く、肝動脈化学塞栓療法や肝動注化学療法などの局所的な治療や、分子標的薬などの全身的な治療が行われます。
ステージIVは、がんがリンパ節や遠隔臓器に転移している場合です。ステージIVの肝臓がんは、根治的な治療はできません。がんの進行を抑えるために、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの全身的な治療が行われます。
腫瘍の大きさ・個数
肝臓がんの治療法は、腫瘍の大きさや個数によって異なります。一般的には、腫瘍が小さくて少ない場合は、根治的な治療法が選択されます。腫瘍が大きくて多い場合は、根治的な治療法が困難な場合が多く、緩和的な治療法が選択されます。
根治的な治療法とは、がんを完全に除去することを目的とした治療法です。肝臓がんの場合、手術やラジオ波焼灼療法などが根治的な治療法にあたります。ガイドラインでは、肝臓内にがんが3個以下で、それぞれ5cm以下の場合に、根治的な治療法が推奨されています。
緩和的な治療法とは、がんを完全に除去することはできないが、がんの進行を遅らせたり、症状を和らげたりすることを目的とした治療法です。肝臓がんの場合、塞栓療法や薬物療法などが緩和的な治療法にあたります。ガイドラインでは、肝臓内にがんが4個以上で、手術やラジオ波焼灼療法が適応とならない場合に、緩和的な治療法が推奨されています。
手術の種類
肝臓がんの手術の種類には肝切除と肝移植の2つがあります。それぞれについて詳しく解説します。
肝切除
肝切除とは、がんの発生した部位の肝臓を外科的に切除する治療法です。肝切除は、肝臓がんの根治的な治療法の一つで、がんの大きさや個数、位置、肝機能などによって適応や方法が決められます。
肝切除は、肝臓がんの治療成績を向上させる治療法です。肝切除後の5年生存率は、ステージや肝機能にもよりますが、約50~80%と報告されています。しかし、肝切除には、出血や感染、肝不全などのリスクもあります。肝切除後の合併症の発生率は、約10~30%と報告されています。また、肝切除後の再発率も高く、約50~80%と報告されています。再発した場合は、再度の肝切除や他の治療法が検討されます。
肝移植
肝移植とは、肝臓がんや肝硬変などで肝臓の機能が低下した患者さんに、健康な人の肝臓の一部や全体を移植する治療法です。肝移植は、肝臓がんの根治的な治療法の一つで、がんの再発や肝不全のリスクを減らします。
肝移植には以下のような2種類があります。
生体肝移植とは、親族などの健康な人から肝臓の一部を提供してもらい、患者さんに移植する方法です。提供者のことを生体ドナーといいます。生体肝移植は、肝臓の再生能力を利用して行われます。肝臓は、一部を切除しても、残った部分が増殖して元の大きさに戻れるからです。生体肝移植は、日本では肝移植のほとんどを占める方法です。
脳死肝移植とは、脳死(心臓は動いているが、脳の活動が停止した状態)になった人から肝臓の全体や一部を提供してもらい、患者さんに移植する方法です。提供者のことを脳死ドナーといいます。脳死肝移植は、生体肝移植よりも提供者の数が少なく、日本ではあまり行われていません。
肝移植は、肝臓がんの治療において、高い根治性をもつ治療法です。肝移植後の5年生存率は、約70%と報告されています。しかし、肝移植には、以下のようなリスクもあります。肝移植は、ドナーの肝臓が必要な治療ですが、日本ではドナーの数が非常に少なく、待機期間が長くなることがあります。特に脳死ドナーは、脳死の判定や家族の同意などの問題があり、ほとんど提供されていません。生体ドナーは、親族などの健康な人が提供することになりますが、ドナーにも手術のリスクがあります。また、肝移植は、肝臓がんの再発を防ぎますが、完全に防ぐことはできません。肝移植後の再発率は、約10~20%と報告されています。再発した場合は、再度の肝移植や他の治療法が検討されます。
肝切除の種類
肝切除にもいくつか種類があります。がんの大きさや肝臓の状態によって個人に合った肝切除の種類が選択されます。
肝部分切除
肝部分切除とは、がんの大きさに応じて、肝臓の一部を切除する方法です。肝部分切除は、がんが小さくて少なく、肝臓の機能が良好な場合に適応となります。肝部分切除は、肝臓の血管の走向に関係なく、がんの周囲に十分な余裕をもって切除できます。肝部分切除は、肝切除の中では小さな切除であり、肝機能の低下や合併症のリスクが低いとされています。
肝亜区域切除
肝亜区域切除とは、肝臓の中の血管の走向に基づいて、肝臓全体の1/16程度を切除する方法です。肝亜区域切除は、がんが肝臓の端に近く、肝臓の機能が良好な場合に適応となります。肝亜区域切除は、肝臓の血管の走向に沿って切除することで、肝臓の残存部分の血流を確保できます。肝亜区域切除は、肝切除の中では小さな切除であり、肝機能の低下や合併症のリスクが低いとされています。
肝区域切除
肝区域切除とは、肝臓の中の血管の走向に基づいて、肝臓全体の1/8程度を切除する方法です。肝区域切除は、がんが肝臓の中央に近く、肝臓の機能が良好な場合に適応となります。肝区域切除は、肝臓の血管の走向に沿って切除することで、肝臓の残存部分の血流を確保できます。肝区域切除は、肝切除の中では中程度の切除であり、肝機能の低下や合併症のリスクが中程度であるとされています。
肝葉切除
肝葉切除とは、肝臓の左右の大きな区分に沿って、肝臓全体の1/4~1/3程度を切除する方法です。肝葉切除は、がんが肝臓の大きな血管に広がっていたり、肝臓の大部分に広がっていたりする場合に適応となります。肝葉切除は、肝臓の血管の走向に沿って切除することで、肝臓の残存部分の血流を確保できます。肝葉切除は、肝切除の中では大きな切除であり、肝機能の低下や合併症のリスクが高いとされています。
手術で起こる可能性がある合併症
肝臓がんの手術は、高度な技術と経験が必要な難しい手術です。手術前には、合併症のリスクや予後について、医師と十分に話し合うことが大切です。
胆汁漏
肝臓の一部を切除すると、胆管から胆汁が漏れ出すことがあります。胆汁漏は、腹腔内に炎症や感染を引き起こす可能性があります。胆汁漏は、通常は自然に治癒しますが、場合によっては、ドレーンを挿入したり、内視鏡的に胆管にステントを入れたり、手術で胆管を閉鎖したりする必要があります。
胸水・腹水貯留
肝臓の機能が低下すると、血液中のアルブミンが減少し、血管から水分が漏れ出して、胸腔や腹腔に溜まることがあります。これを胸水や腹水と呼びます。胸水や腹水が多量に貯留すると、呼吸困難や腹部膨満感などの症状を引き起こします。胸水や腹水の貯留は、利尿剤やアルブミン製剤の投与で改善することがありますが、場合によっては、胸腔や腹腔から水分を抜く処置が必要になります。
腹腔内膿瘍
肝臓の一部を切除すると、腹腔内に細菌が侵入して、膿を溜めた炎症が起こることがあります。これを腹腔内膿瘍と呼びます。腹腔内膿瘍は、発熱や腹痛などの症状を引き起こします。腹腔内膿瘍は、抗生物質の投与で治療できますが、場合によっては、ドレーンを挿入して膿を排出したり、手術で膿を除去したりする必要があります。
肝不全
肝臓の一部を切除すると、残った肝臓の機能が不足することがあります。これを肝不全と呼びます。肝不全は、黄疸や腹水、昏睡などの重篤な症状を引き起こします。肝不全は、肝臓の再生能力によって回復することがありますが、場合によっては、肝移植が必要になることもあります。
腹腔内出血
肝臓の一部を切除すると、切断面から出血することがあります。腹腔内出血は、血圧の低下やショックなどの危険な状態を引き起こします。腹腔内出血は、止血剤の投与や凝固因子の補充で止められますが、場合によっては、再手術で出血源を探して止血する必要があります。
肝臓がんの予後
肝臓がんの予後の見通しは、個々の患者の状態によって異なりますが、一般的には、肝臓がんは予後が悪いといわれています。日本での肝臓がんの5年生存率は、約40%程度です。手術でがんを切除できた場合は、5年生存率は約70%に上がりますが、手術できなかった場合は、約10%以下に下がります。肝臓がんの予後を改善するためには、早期発見と早期治療が重要です。肝臓がんのリスクが高い人は、定期的に検査を受けることが必要です。また、肝臓がんの原因となる肝炎や肝硬変の予防や治療も大切です。
「肝臓がんの手術」についてよくある質問
ここまで肝臓がんの症状を紹介しました。ここでは「肝臓がんの手術」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
肝臓がんの診断方法は何ですか?
甲斐沼 孟(医師)
肝臓がんの診断には、超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査などの画像検査が用いられます。これらの検査では、肝臓内のがんの位置、大きさ、数、広がり、周囲の臓器や血管への影響などを詳しく調べられます。画像検査では、造影剤を血管から注入して、がんの血流の状態を見ることもあります。画像検査の結果によって、がんの種類や進行度(ステージ)を判断します。
肝臓がんの診断には、血液検査も重要です。血液検査では、がんの種類によって特徴的に産生される物質(腫瘍マーカー)の値を測定します。肝細胞がんの腫瘍マーカーには、AFP(アルファ・フェトプロテイン)、PIVKA-II(ピブカ・ツー)、AFP-L3分画(AFPレクチン分画)などがあります。これらの値が高いほど、がんの可能性が高くなります。ただし、腫瘍マーカーの値だけでは、がんの有無や性質を確定することはできません。また、血液検査では、肝臓の機能や炎症の程度、肝硬変の有無なども調べます。これらの情報は、治療方針を決める際にも必要です。
生検とは、肝臓のがん部分に直接針を刺して、少量の組織を採取し、顕微鏡で調べる検査です。生検では、がんの細胞の形や性質を詳しく分析できます。生検は、画像検査や血液検査だけでは、がんと良性腫瘍との区別が難しい場合や、肝細胞がんとその他のがんとの鑑別が必要な場合に行われます。生検は、針を刺すことによる出血や感染などのリスクがあるため、必要に応じて行われます。
肝臓がんの手術以外の治療法は何ですか?
甲斐沼 孟(医師)
肝臓がんの根治的な治療法は、がんを含む肝臓の一部を切除する手術です。手術は、がんが肝臓内に限局しており、残った肝臓の機能が十分にある場合に適用されます。手術の種類には、部分切除、左右切除、肝移植などがあります。手術は、高度な技術と経験が必要な難しい手術であり、出血や感染などの合併症のリスクがあります。
局所治療とは、がんに直接影響を与える治療法です。局所治療には、ラジオ波焼灼療法、マイクロ波焼灼療法、エタノール注入療法、ラジオエンブリゼーション、トランスアータリアルキモエンブリゼーションなどがあります。これらの治療は、がん細胞を高温にしたり、薬剤を注入したり、血流を遮断したりして、がんを壊死させることを目的としています。局所治療は、手術ができない場合や、手術の補助として行われます。局所治療は、肝臓の機能を損なわないように行われますが、痛みや発熱などの副作用があります。
全身治療とは、血液中に流れる薬剤でがんに働きかける治療法です。全身治療には、化学療法、分子標的治療、免疫療法などがあります。これらの治療は、がんの増殖や転移を抑えたり、症状を緩和したりすることを目的としています。全身治療は、がんが肝臓外に広がっている場合に行われます。全身治療は、消化器系の不快感や脱毛などの副作用があります。
編集部まとめ
ここまで肝臓がんの手術についてお伝えしてきました。
肝臓がんの手術の要点をまとめると以下の通りです。
⚫︎まとめ
・肝臓がんの治療法は、肝予備能や病期のステージ、腫瘍の数や大きさによって決まる。
・肝臓がんの手術には肝切除と肝移植があり、肝切除には肝部分切除、肝亜区域切除、肝区域切除、肝葉切除などの種類がある。
・肝臓がんの手術後は、胆汁漏、胸水・腹水貯留、腹腔内膿瘍、肝不全、腹腔内出血などの合併症に注意が必要。「肝臓がん」と関連する病気
「肝臓がん」と関連する病気は1個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
肝臓の病気
肝硬変肝臓がんの症状と同じような症状をおこす病気もこれほどあります。なかなか自己判断は難しいので、症状が続く場合はぜひ一度医療機関を受診してください。
「肝臓がんの症状」と関連する症状
「肝臓がんの症状」と関連している、似ている症状は4個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
右上腹部の痛み
圧迫感
食欲不振
体重減少
黄疸
これらの症状が当てはまる場合には、肝臓がんなどの異常の有無を確認するべく、早めに医療機関を受診しましょう。
参考文献
国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院
国立がん研究センター がん情報サービス
国立研究開発法人国立がん研究センター 東病院