「虚血性心疾患の前兆となる初期症状」はご存知ですか?発症しやすい季節も解説!
虚血性心疾患の前兆とは?Medical DOC監修医が虚血性心疾患の前兆・原因・予防法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。
監修医師:
大沼 善正(医師)
昭和大学医学部卒業。昭和大学病院、関東労災病院を経て、現在はイムス富士見総合病院勤務。総合内科専門医、循環器専門医、不整脈専門医、医学博士。
「虚血性心疾患」とは?
虚血性心疾患とは、冠動脈(心臓に酸素や栄養を供給している動脈)が狭くなり、詰まる病気です。冠動脈が動脈硬化を起こすと、血管内にプラークと言われるコレステロールの塊ができやすくなります。プラークによって血管が狭くなり、詰まることで、心臓の筋肉を動かすために必要な血液が流れなくなり、胸の痛みや胸の圧迫感、不快感を起こします。狭心症と心筋梗塞を総称して、虚血性心疾患と呼ぶことがあります。
虚血性心疾患の前兆となる初期症状
胸の痛みや圧迫感
階段の上り下りや重いものを持った時に、胸の痛みや圧迫感を感じるという症状です。痛みの持続時間が20秒以下の場合は、そのまま様子を見ていても問題ありません。また痛みを感じる部位を触ったり、押したりしただけで痛みが悪化する場合も、虚血性心疾患の前兆である可能性は低いです。しかし、横になって休んでも全く痛みが改善しない場合や、痛みが20分以上持続する場合や、冷や汗が出るときには、虚血性心疾患の前兆である可能性が高いため、救急外来や循環器科を受診しましょう。
息が詰まる感じ、息切れ
息を吸ってもうまく吸いきれない、少し動いても息が上がってしまうという症状です。このような症状がある場合には、歩いているときであれば、立ち止まり、その場で深呼吸をします。徐々に息切れが悪くなる場合や、階段を2階まで上がれないようなときは、呼吸器内科を受診して検査を受けましょう。数週間や数ヶ月でゆっくり悪くなっているのであれば緊急性はありませんが、突然症状が出現したときには、緊急性がありますので早めに病院を受診しましょう。
胸やけ
胃がムカムカする、みぞおちのあたりが重く感じるという症状です。食事の前後で胃のムカつきや不快感が悪くなったり、良くなったりする場合は、胃炎や逆流性食道炎の可能性があるため、消化器内科を受診しましょう。胃薬を使用しても症状が改善しない、胃カメラを行っても異常がない場合は、虚血性心疾患の前兆である可能性があるため、循環器内科を受診し、心電図検査などを早めに行うのがよいでしょう。
歯やあごの痛み
歯やあごに痛みを感じた場合、すでに歯医者で治療中であったり、歯肉が腫れたりしている場合には、心臓とは関係がありませんので、歯科を受診しましょう。しかし、胸の痛みや圧迫感に伴って、歯やあごの周辺が痛くなることがあります。これは放散痛(関連痛)といって、心臓の痛みにも関わらず、その周辺の皮膚や筋肉の痛みであると脳が認識してしまうことを指します。歯やあごの痛みとともに胸の痛みや圧迫感を感じるときには、救急外来や循環器内科を受診しましょう。
腕や肩の痛み
腕や肩に痛みを感じたり、締め付けられるように感じたり、しびれたりする症状です。スポーツで酷使した、ぶつけたなどはっきりした原因がある場合は、冷却、湿布や鎮痛剤で様子を見て、改善しなければ整形外科を受診しましょう。腕や肩の痛みも、心筋梗塞の関連痛として生じることがあります。痛む部位を動かしても痛みが変化せず、胸の症状と一緒に腕や肩の痛みが出現する場合は、はやめに病院を受診しましょう。
虚血性心疾患の主な原因
高血圧症
高血圧症の一番の原因は塩分のとりすぎによるものです。その他には肥満、メタボリックシンドロームが原因となります。無症状であることが多いのですが、頭痛やめまい、ふらつきを起こすこともあります。定期的に血圧を測定し、家庭血圧が135/85mmHg以上が続くときには、内科を受診しましょう。
高コレステロール血症
高コレステロール血症は、肉の脂、バター、マーガリン、加工食品などに含まれる飽和脂肪酸を多く摂取することにより、血液中のコレステロール値が高くなる病気です。甘いもの、糖質を多く摂取すると中性脂肪が上昇します。これも高コレステロール血症の原因となります。
無症状であるため、年1回の定期的な健康診断をお勧めします。症状がないため放置してしまうことが多い病気ですが、中性脂肪が1,000mg/dlと重症の高トリグリセリド血症になると膵炎になる可能性が高くなるため、すみやかに内科を受診しましょう。
糖尿病
糖尿病とは、血糖値を下げる作用があるインスリンというホルモンがうまく作用できないことで、血糖値が持続的に高い状態が続く病気です。原因としてはインスリンが分泌されない、または高コレステロール血症、肥満などの影響でインスリンが効果を発揮しにくくなることが挙げられます。軽度の糖尿病であれば自覚症状はありませんが、血糖値の高い状態が持続すると喉の乾き、多飲、多尿、体重減少を起こし、急激に糖尿病が悪化した場合は意識障害を起こすこともあります。健康診断で高血糖を指摘されたときは、一般内科や糖尿病内科を受診しましょう。意識障害を起こすほどであれば、救急外来を受診したほうがよいでしょう。
すぐに病院へ行くべき「虚血性心疾患の前兆」
ここまでは虚血性心疾患の前兆を紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。
20分以上持続する突然の胸痛のの場合は、循環器科へ
20分以上胸の痛みや圧迫感が持続している場合は虚血性心疾患の可能性が高くなります。また呼吸がしにくい感じ、意識を失うほどの痛みである場合も重症であり、虚血性心疾患を疑いますので、すみやかに救急外来、循環器内科を受診しましょう。
受診・予防の目安となる「虚血性心疾患の前兆」のセルフチェック法
・急ぎ足のときや運動したときに胸の痛み、胸の圧迫感がある場合
・胸の痛みや圧迫感が最近になって初めて生じた場合
・胸の痛みや圧迫感が生じる間隔が以前より短くなってきた場合
・最近になって胸の痛みや圧迫感の回数が増えてきた場合
虚血性心疾患を予防する方法
禁煙
喫煙により、血管の内膜損傷、血小板凝集、炎症を起こします。タバコの種類や量によらず害があり、少量であっても心筋梗塞のリスクを上昇させます。タバコを1日に1~14本吸うだけで、心筋梗塞のリスクが2.3倍にもなるという報告もあります。タバコを減らすのではなく、禁煙が最も効果的です。ニコチン依存に有効なニコチン貼付薬、ニコチンガムなどを使用することで、禁煙率を高めることもできますので、病院を受診し、禁煙をするのもよいでしょう。
肥満・体重管理
肥満指数(BMI)(体重 / 身長[m]2 )=22 が標準体重、 BMIが25以上で肥満と診断されます。BMIが25以上の肥満の人では心疾患などのリスクが高まることが報告されています。またBMIが25未満であっても腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上のメタボリックシンドロームに該当する人も食事や運動療法を行うことが望ましいと思われます。ただし、急に体重を落としてしまうとリバウンドを起こします。体重またはウエストの3%程度の減少を3~6ヶ月の間に達成するだけで充分です(体重が80kgであれば、2.4kg程度の減量)。
食事療法
食事に気をつけることで高血圧症、高コレステロール血症、糖尿病を改善させることができます。高血圧に対しては減塩食(1日の塩分量を6g以下にする)、野菜や果物を積極的に摂取する、アルコールを控えることが望ましいです。高コレステロール血症に対しては動物性の脂(牛脂、ラード、バター)、加工肉、卵類を控える、緑黄色野菜や食物繊維(野菜、穀物、果物、海藻、きのこに含まれる)を多めに取る、大豆や大豆製品を摂取することがよいとされています。また糖尿病に関しては年齢、体重別に必要なカロリー数は異なりますが、エネルギー比率としては炭水化物を全体の50~60%にする、赤身肉や加工肉を控える、食事全体の食物繊維を多めに取るなどが重要です。
運動療法
運動を行うことで、コレステロール値を改善させることが報告されています。また血圧を改善する効果も期待できます。具体的には1日合計30分以上の運動を週3回以上、または週に150分以上の中強度以上(軽く息が切れる程度の強さ)の有酸素運動をお勧めします。運動の内容としては、ウォーキング、ジョギング、水泳、エアロビクス、サイクリング、テニスがあります。日常生活として、歩ける範囲のところは積極的に歩く、なるべく階段を使用するなど、いつもの活動に気をつけるだけでも充分に運動することも可能です。
「虚血性心疾患の前兆」についてよくある質問
ここまで虚血性心疾患の前兆などを紹介しました。ここでは「虚血性心疾患の前兆」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
虚血性心疾患を発症しやすい季節はありますか?
大沼 善正 医師
寒くなり始めた10月から虚血性心疾患は増えはじめ、12月から2月頃にピークを迎えます。原因としては、寒くなると血圧が上昇すること、また暖かい場所から寒い場所に行くと血管が収縮を起こし、過剰に収縮した場合には血流障害を起こすことが考えられます。浴室での事故が多いため、脱衣室を暖かくし、浴室との温度差を少なくしましょう。また収縮期血圧180mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上の時、アルコール摂取時は入浴を控えるようにしましょう。
編集部まとめ
虚血性心疾患の前兆は胸部症状だけではなく、多岐にわたります。胸の痛み、不快感が強い場合はすみやかに医療機関を受診するとは思いますが、それ以外の場合はなかなか前兆と気づきにくいと思います。とくに高齢者、女性、糖尿病の人では嘔気、嘔吐、食欲低下などの消化器症状や体のだるさの症状が多いとされています。一般内科、消化器内科を受診することが多いと思いますが、胃薬などの薬での治療を行っても改善しない場合は、循環器内科を受診しましょう。
「虚血性心疾患の前兆」と関連する病気
「虚血性心疾患の前兆」と関連する病気は13個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
循環器科の病気
狭心症心筋梗塞大動脈解離肺塞栓症心不全呼吸器科の病気
気胸肺炎消化器科の病気
逆流性食道炎食道潰瘍・胃炎
胆石・胆嚢炎
その他の病気
帯状疱疹肋軟骨炎肋間神経痛虚血性心疾患の前兆の症状では、循環器系以外に呼吸器、消化器、整形外科、皮膚科などと関連することがあります。
「虚血性心疾患の前兆」と関連する症状
「虚血性心疾患の前兆」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
首が痛い背中が痛い体がだるい
食欲が出ない
吐き気がする
胸の症状だけではなく、心臓周辺である、あご、首、肩、腕、背中、腹部など多岐にわたります。とくに男性では冷や汗、女性では嘔気、嘔吐、呼吸困難、高齢者では息切れ、体のだるさ、食欲低下が虚血性心疾患の前兆であることがあります。一般内科、消化器内科などを受診しても改善しない場合は、循環器内科を受診しましょう。
参考文献
急性冠症候群ガイドライン2018年改訂版(日本循環器学会)
冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン2023年改訂版(日本循環器学会)
動脈硬化性疾患予防ガイドライン(日本動脈硬化学会)