タワーマンションが立ち並んでいる景色

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帰省は一大事だ。人間関係に疲れることもある。少しでも負担を減らすにはどうすればいいのか。夫婦問題研究家の岡野あつこさんは「帰省時のトラブルについての相談は多く寄せられる。メンタルへのダメージを防ぐためには、事前の対策が重要だ」という――。
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHUNYIP WONG

■「夫の実家への帰省が嫌で嫌で仕方ない」

「正直、帰りたくない」「のんびりするどころか、むしろ気が重い」という声を聞くことが多い、自分の実家や義実家への帰省。気を遣っているつもりでも、心をすり減らすような出来事は起こるもの。実際に、年末年始で実家や義実家に帰省をした際にトラブルに遭ったケースとしてこんな事例がある。

※プライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

【CASE1】マウントをとってくる義姉とのバトルに疲れ果てた妻

「毎年年末が近づくと、片頭痛が出るほど夫の実家への帰省が嫌で嫌で仕方ない」と苦しい表情で語るのはR奈さん(43歳)。2歳年上の夫とは結婚14年目、私立中学に通う中学生の娘がひとりいる。

R奈さんが義実家に帰省するのをためらう理由は、1年に1度会う夫の姉の言動だった。「義姉は、なにかにつけて私たち夫婦に対してマウントをとらないと気が済まない性格なんです」。

R奈さん夫婦と義姉夫婦は、「夫も妻も会社員として働いていて、中学生の娘がひとりいる」という環境はほぼ同じ。「だからこそ、現状を比較して『ウチのほうが勝っている』という確信を得たいのではないか」とR奈さんは分析する。

■「都内のタワマン暮らし」を誇ってくる

たとえば、住居についても義姉はR奈さん夫婦に挑んできたという。R奈さんの現在の住まいは東京にほど近い神奈川県にあるタワーマンションだ。9年前に新築のタワマンを購入し引っ越した際、年末年始の義実家への帰省でその報告をしたところ、義姉から「ウチも来年は新居に住もうと話しているの。でも、都内じゃないと資産価値がないじゃない? 一生モノのお買い物だし、慎重に決めなくちゃね」とイヤミを言われた。

結果、義姉夫婦は都内のタワマンを購入したという。R奈さんいわく、「都心まで出るのにウチより時間がかかる中古物件の2階なんです。それでも何かにつけて『都内のタワマン暮らし』を誇ってくるので、うらやましくないつもりなのになぜかイライラしてしまうんです」。

■中学受験をまねされ、同じ学校へ通うことに

義姉とのバトルは、子どもの中学受験についても及んだ。「数年前、私の娘が小学校低学年から進学塾に通っていることを知った義姉は、『ウチの子も私立を受験させたい』とすでに高学年になっていた自分の子どもを慌てて私たちの娘と同じ系列の塾に入れたんです」

受験の結果、R奈さんの娘は第一志望に不合格となり、滑り止めとして受けて合格した学校への進学を決断。ところが、その学校が義姉の娘の第一志望の学校だったため、奇しくもふたりの娘は同じ学校に通うことになったのだった。「『結局同じ学校に行くことになるなら、小学校低学年から塾に通ってもお金のムダだったわね』と、何度も得意げに言ってくる義姉が腹立たしく、それを聞くたびに娘も私も深く傷ついています」。

コロナ禍もひと段落した今年は夏休みに海外旅行に行ってきたという義姉一家。「年末年始はその自慢話が繰り広げられるのかと思うと、今から気が重くて仕方がありません」。

■義実家で待ち受ける「マンツーマンのお料理レッスン」

【CASE2】義母による「おふくろの味」の熱血指導に困惑する料理下手の妻

1歳年上の夫とは結婚3年目、子どもがいないK子さん(35歳)は「年末年始の義実家への帰省は、結婚当初から料理が苦手な私にとってはとても苦痛です」と嘆く。K子さんの義母は昔から料理の腕に自信があり、地元でも希望者を集めては定期的に料理教室を開催しているほど。「そのせいか、夫も義父も舌が肥えていて、義実家に帰省するとおいしいものの話で盛り上がっています」。

K子さん自身は料理が苦手で、食べること自体にあまり興味がなく「正直な話、お腹が満たされれば食事はなんでもいい」というタイプ。夫には交際時から「料理は結婚してから学べばいいよ。場数を踏めばそのうち自然にうまくなるはずだから大丈夫」と言われていたものの、結婚後もK子さんの料理に対するモチベーションは上がらず。時間に余裕のある休日に重い腰を上げてレシピ動画を見ながら挑戦しても、たて続けに失敗。はじめのうちは、「もっと煮る時間を長くしたら?」「次はもっと簡単なメニューにすればいいよ」と優しかった夫も、最近では「何か買って帰るよ」とK子さんの手料理に期待しなくなっているという。

ただ、年末年始は料理から逃れることが不可能なK子さん。帰省先の義実家にて「マンツーマンのお料理レッスン」をしようと、義母が手ぐすねをひいて待ち受けているからだ。「義母は、私が料理下手であることを知っています。だから『K子さんにも息子の好物を完璧につくれるようになってほしいの。息子からも『おふくろ、悪いけれどK子に手とり足とり教えてやってくれないか』と頼まれているのよ』と毎年張り切っているんです」。

写真=iStock.com/lielos
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■「まともな手料理くらい食わせてほしいんだよ」と夫

去年の年末年始に義実家に帰省した際、料理への要求が高い義母と一向に上達しないK子さんの間でちょっとした言い合いになり、思わず涙ぐんでしまったというK子さん。ところがその晩、夫に顛末を報告すると、「K子には申し訳ないけれど、オレは母さんの言い分が正しいと思うし、オレだって毎日仕事で疲れて帰ってきたら、まともな手料理くらい食わせてほしいんだよ」と冷たく突き放されてしまったのだった。

そんな事件があって、その年の義母からの料理指導は中断し、かわりに義母のつくった大量のお惣菜を持ち帰らされたというK子さん。「もうお料理の話はしたくもないし、見るのもいやになっていたので本当はそれも断りたかったのですが、母親の手料理を恋しがる夫のためには仕方がないかな、と諦めて持ち帰りました。

それ以降、夫婦間で料理に関する話を避けたまま、夫は平日は外で夕食を済ませてくるようになり、休日もデリバリーを頼む機会が増えたとのこと。「今年の年末年始の義実家への帰省時に、お義母さんからの料理指導をどうやってかわせばいいのか……。食事のことがきっかけで夫との関係も以前ほど円満ではなくなったので、いっそ帰省すること自体をやめたい心境です」。

写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
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■実家の「経済的な格差」が大きすぎる

【CASE3】実家と義実家の待遇の差に戸惑う子どもの教育に悩む妻

「私と夫、それぞれの実家での待遇にあまりにも差がありすぎて、夫がプレッシャーを感じているようです。子どもたちにも、経済的な格差をどう教えていいかいつも困っている」とため息をつくJさん(44歳)。Jさんの実家は地元でも有名な不動産会社を代々営んでいる。一方、4歳年下のJさんの夫の両親は、小さなアパートで年金生活をしているという。Jさん夫婦には小学生の2人の子どもがいて、年末年始はJさんの実家には数日滞在し、Jさんの夫の実家には日帰りで立ち寄るのが毎年の恒例行事になっている。

Jさんは、自分の実家に帰省する際にも気を遣うという。「私の両親はおおらかなタイプなので、夫や子どもたちに対しても寛容に振る舞っていると思います。ただ、過剰なまでに好待遇すぎて、夫もドン引きしています」と嘆く。

■夫に「10万円のお年玉」を渡す実父

たとえば、お年玉の額も「子どもにはあり得ないくらいの金額」がふたりの小学生の孫にそれぞれ与えられ、そのほかにゲームや自転車など本人たちからのリクエストに応じたプレゼントもついてくる始末。「父親は、義息子である夫にも『家族でおいしいものでも食べてきなさい』と10万円のお年玉を渡しています」。テーブルに並んだ料理も一流レストランのように豪華で、「お義父さんとお義母さんみたいな生活を送れるようになるには、オレの稼ぎじゃ一生無理だな。ごめんな、貧乏クジを引かせて」などと帰省するたびにJさんの夫は自嘲的な発言を頻発、夫婦間も数日はギクシャクした空気が流れるとのこと。

写真=iStock.com/JGalione
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その後、Jさんの夫の実家に帰省すると、6人でひとつのこたつに入って全員で寄せ鍋を囲み、3000円ずつのお年玉をもらった後は「みんなで寝るスペースがないから」と解散になるという。「子どもたちはどちらも非日常的で新鮮な体験を楽しんでいますが、『パパのジイジとバアバはお金がないの?』と臆面もなく夫にたずねる子どもたちと、それに答えられずに黙って不機嫌になる夫の姿を見ると、なんともいえない気まずさを味わいます。とはいえ、私の実家の両親も孫の来訪を楽しみにしているので、『過剰に甘やかすのはやめてほしい』とは言えずにいます」。

■「事前の対策」でメンタルへのダメージを減らす

コロナ禍がなんとなく落ち着いてきた今でも、じつは実家や義実家への帰省時のトラブル話は多い。取り返しのつかないような夫婦間の危機をもたらすことは少ないものの、メンタルにダメージを負うような出来事は生じるもの。だからこそ、事前に対策を練っておくことも必要だろう。

たとえば、CASE1のように「帰省したくはないけれど、避けられない」という状況の場合なら、温泉旅行やショッピングなど自分が楽しいと思える「ごほうび」と帰省をセットにするのも手。「義実家からの帰りにあそこに行こう」という楽しみがあれば、少なくとも心の支えにはなるはず。

CASE2やCASE3のように「帰省先との習慣が違う」という場合、まずすべきことは「無理に相手に合わせる」ことではなく「相手の好意に感謝すること」だ。相手がよかれと思って行動していることに対しては、とにかく感謝して、その気持ちを言葉や形でしっかりと伝えること。そのうえで、自分のできる範囲で少しずつ努力していくほうがストレスは軽減できる。

CASE3のようなシチュエーションで子どもに伝える必要があるのは、「環境は異なっても、愛情は公平である」ということだろう。できあがってしまっている大人の価値観を変えようとするより、子どもに多様性を学ばせる機会ととらえたほうが帰省することにも意味を見出すことができるようになるからだ。

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岡野 あつこ(おかの・あつこ)
夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー
夫婦問題研究家、パートナーシップアドバイザー、NPO日本家族問題相談連盟理事長。立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立。これまでに32年間、38000件以上の相談を受け、2200人以上の離婚カウンセラーを創出『離婚カウンセラーになる方法』(ごきげんビジネス出版)。近著は夫婦の修復のヒントとなる『夫婦がベストパートナーに変わる77の魔法』(サンマーク出版)。著書多数。
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(夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー 岡野 あつこ)