メールの冒頭にはどんなことを書けばいいのか。営業コンサルタントの菊原智明さんは「営業メールでは『会社名+名前』で名乗ってはいけない。私だったら『休みの日でもお客様のことを考えてしまう菊原です』などと書き出しを工夫する」という――。(第1回)

※本稿は、菊原智明『使ったその日から売上げが右肩上がり! 営業フレーズ言いかえ事典』(大和出版)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

■営業メールの時点で大きな差がつく

【メールの挨拶文で印象に残す】

×ありがちなフレーズ

ABC株式会社第一営業部菊原と申します

○心が動くフレーズ

お客様のお役に立てるよう毎日勉強している菊原です

いまはメールやSNSなどの文字媒体でお客様とやりとりすることが多くなりました。その際、ただ単に“会社名+名前”で送っていたのでは、ほとんど印象に残りません。名前の前に“印象に残る一言”を添えて、あなたの存在をお客様に印象づけましょう。

あなたが誰かから商品を購入したいと考えていたとします。その際、「営業は嫌いだけど、食べるためにしかたなくやっているだけです」という営業パーソンから買いたいでしょうか? そんなことはありませんよね。

よほど欲しいもの以外は、「私のことを真剣に考えてくれる人から買いたい」と思うはずです。多くのお客様は“お客様のために真剣に活動している営業パーソン”に好感をもつものなのです。このような話をすると、「そんなことは言われなくてもわかっている」と思うかもしれません。でも、本当にその気持ちをお客様に伝えているでしょうか?

残念ながら、私の経験からすると、99%の営業パーソンはそれができていません。心の中で思っているだけでなく、しっかりと気持ちを伝える必要があるのです。実際、トップ営業はメールのやりとりで他の営業パーソンたちに差をつけています。

■見栄えのいい「空気文字」を使っても意味がない

具体的にどういうことなのか、例を見ていくことにしましょう。まず、苦戦している営業パーソンは、一度会ったお客様に対してメールの冒頭で、

【ABC株式会社 第一営業部 ○○と申します】

というように名乗ります。まあ、これが普通ですし、何の問題もないと思っているのでしょう。しかし、これでは何の印象にも残りません。私は“ABC株式会社 第一営業部〜”という文言のことを“空気文字”と呼んでいます。間違ってはいませんが、お客様の印象に残すという観点ではゼロ点です。こうしたメールを送っていても、その他大勢の1人にしかなれないのです。また、ビジネスメールのテンプレートでよく見かける、

【拝啓 ○○の候 益々のご活躍のこととお喜び申し上げます】

というのも空気文字になります。つまり、営業活動で送るメールは“正しい文法かどうか”ということより“結果が出るかどうか”を重視すべきなのです。私の場合、長年のアポなし訪問をやめてお客様の役に立つ情報を送るようになった際、メールの挨拶文でお客様の印象に残るように工夫しました。一番のお気に入りは、次のようなものです。

【休みの日でもお客様のことを考えてしまう菊原です】

これを見たお客様は、「私たちのことを真剣に考えてくれそう」といったイメージをもちます。我ながらインパクトが大きい1文だと思っています。実際、契約になったお客様から、「あれを見たとき、『菊原さんなら安心』だと思った」と言っていただきました。

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■重要なのは「他の人とは違う」と思われること

その他では、次のような1文を使っていました。

【毎日、ローンについて勉強している菊原です】
【1円でもコストを削減できないかと毎日、考えている菊原です】
【常にお客様の立場で提案できるように努力している菊原です】

一見、あざとい文章に思えるかもしれません。また、口に出して伝えるとなると、かなり照れくさい感じにもなるでしょう。ただ、メールの場合、このくらいの短文であれば、お客様もすんなりと受け入れてくれるもの。事実、私はこうした1文を入れることで、多くのお客様から「菊原さんは他の営業パーソンとは違うぞ」と相談相手として選ばれました。

これを聞いて、「いきなり法人のお客様に対して“休みの日でも〜”とは書けない」と思った方もいることでしょう。たしかに法人営業の代表アドレスには送りにくいですよね。その場合は、冒頭ではテンプレートどおり“お世話になります。○○会社の〜”と書き、最後の追伸でいい印象をもってもらえる一言を添えてもいいでしょう。

■思っていることはストレートに伝えるべき

なお、メールではなく口頭で挨拶する場合ですが、接点のあるお客様に対しては「先週、名刺交換させていただいた○○です」とお客様が思い出せるきっかけをつくりましょう。

もちろん、まったくの新規の場合は、さすがに「いつもお客様のことを考えている○○です」と言うのはおかしいので、「このエリアを担当している○○です」といった感じでいいでしょう。ポイントは、お客様にいい印象を与えることです。心の中で思っているのではなく、お客様にしっかり気持ちを伝えてください。その姿勢は、きっとボディブローのようにお客様の心に効いていきます。

・POINT
メールなら、自分の思いをストレートに書いても受け入れられやすい

【お客様が思わず承諾してしまう伝え方】

×ありがちなフレーズ

おススメの商品です。ぜひご検討ください

○心が動くフレーズ

お客様が考えているご希望に非常に近い商品があるのですが

営業パーソンから「おススメです」と言われても、「どうせ他の人にも同じことを言っているのだろう」と思われてしまいます。これではアポイントはとれません。その一方で、「お客様が考えているものと近い」と言われると断りにくくなります。ちょっとした言い方の違いでアポイントの取得率が何倍も変わるのです。

私が住宅営業をしていたときのことです。2組のお客様と商談をしていたのですが、両者とも30代で4人家族、予算や建物の希望も似通っていました。お客様Aさんは、すでに数回商談をして、家の間取りや予算も煮詰まってきています。

■「おススメの〜」と言っても客には響かない

「完成に近い建築現場があれば見たいのですが」と言ってきたので、会社で企画した現場見学会にお誘いすることにしました。

写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

私「おススメの物件があるので、いかがでしょうか?」

お客様「いいですね。ところで間取りはどのような感じでしょうか?」

私「南玄関ですが、40坪の大きさで和室があるタイプです」

お客様「あぁ、そうですかぁ。和室は考えていないので、今回はやめておきます」

私「そうですか。わかりました」

このお客様Aさんは、和室を設置せずに大きいリビングを考えているということもあり、話に乗ってきませんでした。まあ、しかたがありません。

■ニーズに合わせて見どころを伝える

その翌日のことです。お客様Bさんに対して、次のような言い方にして声をかけてみました。

私「Bさんが考えているご希望に非常に近い建物があるのですが」

お客様「それはいいですね!」

私「大きさも40坪とご希望に近いですし、“洗面所、お風呂、寝室”など参考になると思います」

お客様「すぐに見たいです。いつなら見られますか?」

私「今週の午前10時はいかがでしょうか?」

お客様「大丈夫です。ぜひよろしくお願いします」

その週末、お客様Bさんは現場見学会に参加してくれました。そして、「実際の大きさが体験できて非常によかったです」とご満足いただき、その後、話がとんとん拍子に進み、無事に契約となりました。

菊原智明『使ったその日から売上げが右肩上がり! 営業フレーズ言いかえ事典』(大和出版)

営業パーソンとしては、いろいろおススメしたい商品があることでしょう。

でも、ただ単に「おススメの商品がありまして」では、お客様はピンときませんし、どこをどう参考にしていいかわかりません。お客様によっては「適当にあてがったのでは?」と疑うこともあります。部分的にでも参考になるのであれば、「お客様のご希望に非常に近い○○があるのですが」と伝えることが大切です。このように言われると、お客様は思わず承諾してしまうのです。

お客様のニーズにピントを合わせることで、アポの数を増やしていきましょう。

・POINT
参考になるポイント、見どころをはっきりと伝える

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菊原 智明(きくはら・ともあき)
営業コンサルタント
営業サポート・コンサルティング代表取締役。関東学園大学経済学部講師。社団法人営業人材教育協会理事。1972年生まれ。群馬県高崎市出身。群馬大学工学部卒業後、トヨタホームに入社し、営業の世界へ。自分に合う営業方法が見つからず7年間、ダメ営業時代を過ごした後、手紙で情報を提供する営業に切り替えたことをきっかけに4年連続トップ営業に。2006年に独立し現職。主な著書に『訪問しなくても売れる!「営業レター」の教科書』(日本経済新聞出版社)、『売れる営業に変わる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『面接ではウソをつけ』(星海社)、『トップ営業マンのルール』『「稼げる営業マン」と「ダメ営業マン」の習慣』『残業なしで成果をあげるトップ営業の鉄則』(明日香出版社)、『営業1年目の教科書』『営業の働き方大全』(大和書房)、『リモート営業で結果を出す人の48のルール』(河出書房新社)、『仕事ではウソをつけ』(光文社)、『使ったその日から売上げが右肩上がり!営業フレーズ言いかえ事典』(大和出版)などがる。
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(営業コンサルタント 菊原 智明)