親からの遺産や相続税の金額について、疑問がある人も多いのではないでしょうか。親の遺産の平均額は、民間企業による調査で明らかになっています。

この記事では、親からの遺産の平均額に加え、相続税の仕組みや相続トラブルを回避する方法を解説します。相続に関する疑問を解消したい人は、参考にしてみてください。

調査結果からわかる親からの遺産平均額

親からの遺産は公的機関による調査がないため、実際の平均額や相続の実態を正確に把握することは難しいでしょう。しかし、民間企業による調査結果は公表されているので、金額の目安にはなります。

調査を行ったのはMUFG資産形成研究所です。2020年の報告では、親から相続した財産の平均額は3,273万円、中央値は1,600万円でした。

さらに地域別の統計では、関東地方が平均4,164万円(中央値2,500万円)と最も高く、次いで近畿地方が平均3,668万円(中央値1,850万円)という結果になっています。関東・近畿は都市部が多く、ほかの地域と比べて不動産の評価額が高い傾向にあるため、相続額の平均も高いと推察されます。

各地方の平均額内訳を見ると、不動産が占める割合は関東が5割強ともっとも高く、次いで九州・東北・四国が並びます。北海道は遺産全体の平均額は地域別で4位にいますが、不動産が占めるのは3割強ともっとも低い割合です。

なお、有価証券の金額は地域ごとに差があるものの、どの地方も全体の約1割にとどまっています。

※同調査は、総務省「平成26年全国消費実態調査」の都道府県別1世帯当たり家計資産に記載の金額以上を保有する人を対象に実施されているため、実際の平均額と異なる可能性があります。出典:親子の居住地・地域による資産承継の傾向

相続税はいくらからかかる?

相続財産には相続税がかかりますが、一定額以下であれば課税対象にはなりません。相続税の基準や控除対象、相続税の計算方法を紹介します。

相続税がかかる基準
相続税は所得税や住民税と同じく基礎控除があるため、控除額以下であれば適応されません。

基礎控除額の計算式は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。つまり、最低金額である3,600万円以下なら相続税はかからないと考えて良いでしょう。

たとえば、法定相続人が3人の場合は4,800万円以上が課税対象です。もし3人のうち遺産相続を放棄する人がいても、この計算額は変わりません。

ただし、法定相続人にあたる人が「死亡」、被相続人の遺志により相続権が失われる「廃除」、相続に関する犯罪行為などが理由で相続権をはく奪される「欠格」のいずれかに該当する場合は、基礎控除額の計算式にカウントされないので注意しましょう。

前項で紹介した遺産相続額の平均額3,273万円(中央値1,600万円)をふまえると、実際に相続税を課される人は、それほど多くないと考えられます。

相続税の控除・特例
相続税には基礎控除以外にもさまざまな控除や特例制度があり、先ほど紹介した基礎控除額を超えた場合でも相続税が発生しないケースがあります。

相続税に適用される主な控除や特例は以下のとおりです。

・配偶者の税額軽減
被相続人の配偶者は、相続金1億6,000万円までなら相続税が控除されます。配偶者が被相続人の資産形成に貢献している点や、両者が同世代であることが多く、ふたたび遺産相続が発生する可能性が高い点などを考慮して設けられています。戸籍上の配偶者のみに適応されるため、内縁関係の人は控除されません。

・未成年者控除
相続人が未成年の場合、本人の年齢と成人年齢(18歳)との差に10万円をかけた金額が控除されます。たとえば相続人が10歳なら、(18-10)×10=80万円が控除額です。未成年にかかる養育費・教育費などを考慮して設けられています。

・障害者控除
相続人が障害者で、なおかつ85歳未満である場合に一定額の控除が受けられます。一般障害者は本人と85歳の年齢差に10万円をかけた金額、特別障害者の場合は20万円かけた金額が控除されます。たとえば相続人が60歳の場合、一般障害者なら(85-60)×10=250万円、特別障害者なら(85-60)×20=500万円が控除額です。

・相次相続控除
相続税が10年以内に2回以上かかる場合の控除です。相続権を失っておらず、1回目の相続税をきちんと納めていれば控除が受けられます。計算方法が複雑なので、相次相続控除を受けたい場合は税理士に相談しましょう。

・贈与税額控除
被相続人から生前に財産贈与を受けた場合、二重課税を防ぐために適応できます。通常、財産贈与には贈与税が発生しますが、被相続人が亡くなる直前の3年間に贈与を受けた場合や、贈与時に「相続時精算課税制度」を選んでいる場合など、一定の条件を満たすことで控除されます。

・小規模宅地等の特例
被相続人と同居していた家や、被相続人が事業で用していた土地などを相続する場合に、要件を満たせば土地の評価額が最大80%減額できる特例です。

相続税の計算方法
実際に相続税を計算してみましょう。まず課税対象となる遺産の総額を算出し、相続税の総額が分かったら、相続人それぞれの税額を計算します。

1. 正味遺産総額を計算する
相続財産から非課税財産を差し引くことで算出できます。
2. 課税遺産総額を計算する
1で計算した正味遺産総額から債務や被相続人の葬式費用を差し引き、生前贈与加算をして求めます。そこから法定相続人の数に応じた基礎控除額を引きます。
3. 相続税総額を計算する
まず、課税遺産総額を法定相続分に基づいて分けると仮定して相続人ごとに按分します。次に按分した金額に応じた相続税率をかけ、相続人ごとの控除を差し引いて、個人の相続税額を仮算出します。最後に、それぞれの計算結果を足すと相続税総額が算出できます。
4. 各相続人の相続税額を計算する
実際の相続割合に基づいて、3で求めた相続税総額を再分配します。

相続時のトラブルを回避するには?

遺産を相続する際には、相続人同士でトラブルが起こることもあるでしょう。ここでは、相続時のトラブルを回避する方法を紹介します。

財産目録を作成しておく
被相続人の財産が把握しきれない場合も多いため、生前から財産目録を作成しておくと、相続がスムーズです。

相続すべき財産の場所・総額が把握できないと、相続手続きに時間や労力を要してしまいます。目録があれば遺産の全容がつかめるだけでなく、財産隠しや使い込みなどの疑いも避けられるでしょう。

生前から話し合っておく
生前から相続について話し合っておくことも大切です。

たとえば、相続人のうち1人が被相続人と同居していたり、介護をしていたりすると、「不動産を相続したい」と希望することも少なくありません。

また、相続人が家の購入などで被相続人から支援を受けていた場合は、「相続を減額して他の相続人に譲りたい」と申し出ることもあるでしょう。被相続人を交えて話し合っておくことで、話がまとまりやすくなります。

まとめ

民間企業の調査によると、親の遺産の平均額は3,273万円、中央値は1,600万円です。

また、相続税は、基礎控除の最低額である3,600万円までは課税対象になりません。相続税が発生する場合は、記事内で紹介した計算方法をもとに、金額を算出してみましょう。

相続時にはトラブルが起こることも少なくありませんが、被相続人の生前から財産目録を作成したり、話し合いをもとに遺言書を書いてもらったりすることで、避けられる可能性もあります。

相続時に苦労しないよう、あらかじめ相続税の知識やトラブルを回避するコツを把握しておきましょう。