1995年にオフ・ブロードウェイで初演されたミュージカル「ジョン&ジェン」。舞台に登場するのはジョンとジェンの2人のみという“2人ミュージカル”の日本初演で、Wキャストの一人としてジョン役を務めるのは森崎ウィンさん。俳優として数多くの映像作品や舞台に出演する一方で、音楽活動も精力的に行っている森崎さんに、仕事への向き合い方や、愛用しているガジェットなどを語ってもらった。

 

森崎ウィン●もりさき・うぃん…1990年8月20日生まれ。ミャンマー出身。ミャンマーで生まれ育ち、小学4年生の時に来日、その後中学2年生の時にスカウトされ、芸能活動を開始。2020年、アジアから世界に発信するエンターテイナー“MORISAKI WIN”として7月1日に「パレード-PARADE」でメジャーデビュー。俳優としてもさまざまな役を演じ活躍する中で、2018年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の新作「レディ・プレイヤー1」で主要キャストに抜擢され、ハリウッドデビューを果たす。2020年に映画「蜜蜂と遠雷」で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞。また、ミュージカルの世界でも映画版「キャッツ」(20年日本公開)ではミストフェリーズ役の吹替えを担当。近年の舞台主演作には、ミュージカル「SPY×FAMILY}、ミュージカル「ピピン」、ミュージカル「ジェイミー」、ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」Season2などがある。公式HP/X/Instagram/YouTube/TikTok

 

【森崎ウインさん撮り下ろし写真】

 

苦しい先にある場所に到達したときの喜びは大きい

──森崎さんは俳優として数多くの映像作品や舞台に出演する一方で、音楽活動も精力的に行っており、今年4月にセカンドアルバム「BAGGAGE」をリリース、初全国ツアーも開催中です。普段の音楽活動がミュージカルに活かされている面も大きいですか?

 

森崎 ミュージカルはセリフと歌詞が組み合わさって歌になることも多いので、普段やっている音楽と全く違う部分もあれば、通じる部分もあって。両方やっているからこそ、どちらかで得たものが活かされている面は間違いなくあると思います。「ジョン&ジェン」の音楽はクラシックの要素も入ったポップスなので、いつもの音楽に通じるものがあって、すごく入りやすかったです。

 

──俳優活動と並行して音楽活動も行っていて、切り替えるのが大変そうだなと思うのですが。

 

森崎 そんなに僕は引っ張らずにいけるタイプだと思います。ありがたいことに次から次へとお仕事が続いていくので、切り替えていかないといけないというのもあります。さすがにドラマが被っていたときは、「あれ? 大丈夫かな」みたいなこともありましたけど。ただ、ここで伝えておきたいんですが、皆さんが思っている以上に僕は追い込まれているということ(笑)。

 

──確かに、いつも平然と物事をこなしていくイメージがあります。

 

森崎 よく「緊張してないでしょう?」とか「簡単そうにやっているよね」って言われるんですけど、人は見かけによらないというか、心の中では「やべー」って瞬間もあって、寝られない日もあるんです。でも、もの作りってそういうものですし、僕に限らず、一つの作品を作るのってすさまじい労力です。今回、僕たちがやる「ジョン&ジェン」は1995年にオフ・ブロードウェイで初演されたミュージカルの翻訳劇ですが、ゼロから作った人たちは本当にすごいなと思います。既に出来上がっている作品があるので、いろんなヒントが散りばめられているのに、それを演じるだけでも大変ですから。でも苦しい先にある場所に到達したときの喜びは大きいですし、そうして作り上げたものがお客様に伝わったときはめちゃめちゃ気持ち良いから、しんどいことも耐えられるんです。

 

──映像と舞台が続いたときも、前の役は引きずらないですか?

 

森崎 確かに舞台をやった後に映像だと、ところどころしゃべり方が引っ張られているなって感じることがあります。今年3〜5月にミュージカル「SPY×FAMILY」でロイド・フォージャーを演じさせていただいたんですが、低い声でしゃべる役柄だったんです。そのせいか舞台が終わった後に出演した映像作品では、「妙に声が低いな。これだとロイドじゃないか」と感じたので、すぐに切り替えるのは難しいかもしれません。ただ、そういうところも俳優の面白さだと思うんです。

 

──というと?

 

森崎 そのとき、その俳優がどう生きているかが、少なからずお芝居に反映されるんですよね。その人の人生観だったり、こういう人なんだろうなっていうのが、何となく役を通して見えたりする。だから今お話ししたように、前の役を引きずったまま演じることもある。俳優って一つフィルターを通して言いたいことを言っているなと感じる瞬間があって、やっぱり自分の血も入っていますから、100%誰かになりきるのは難しい。「ジョン&ジェン」も森崎ウィンとジョンを行き来していると言いますか、その狭間を見せるのもエンタメの面白みではないかなと。僕自身も好きなスターの作品を見るときは、「この人はこういう顔をするんだ」とか、「怒ったらこういう感じなんだ」とか、役を通して俳優を見ているんですよね。だから演じているときでも、どこまで自分をさらけ出すかというのも面白いです。

 

オフの日もたくさん宿題が溜まっている

──お忙しい中、オフはどう過ごすことが多いですか?

 

森崎 正直オフって言葉は忘れました(笑)。先日、一日仕事がないって日もあったんですが、次の作品の準備だったり、映像編集だったりと、たくさん宿題が溜まっているんですよ。何かしら仕事に関することをやっているので、自分の中で休んだ気にはなれないんですけど、今はそういう時期かなと思っています。

 

──そこにストレスは感じないのでしょうか。

 

森崎 やることが詰まっている状態が好きな瞬間もあれば、ストレスになるときもあります。だから、できるだけ期日ギリギリまで回すというか、もう提出しないとヤバいよっていうほうが自分としては逆にストレスにならないんです。性格的に先々まで計算してというのが苦手なんですよね。

 

──音楽活動と俳優活動、それぞれ重点を置く時期は分けて考えているんですか?

 

森崎 あまり分けてないですね。舞台の場合は早くから予定が組まれているので、「この期間にツアーをしましょうか」とか何となく読めるんですけど、映像作品は急に入ってくることも多いですからね。なのでうまくスケジュールを組めないというのもあります。もっとキャリアを積んで、ある程度は先読みができるぐらいの立場になったら、もうちょっとバランスを取りながらやれるんじゃないかなと思うんですけど、今は目の前にあることに全力で取り組むことが大切なのかなと。

 

──多岐に渡る仕事をしている森崎さんにとって、仕事道具で手放せないものは何ですか?

 

森崎 パソコンですね。今のMacには音楽関係や作品の企画書など、いろんなデータが入っています。ただ整理したつもりが、どこにファイルを置いたっけ? ということが多くて。マネージャーにデータを再送してもらうことも少なくないので、そこは改善したいです。

 

──常にノートパソコンを持ち歩いているんですか。

 

森崎 基本的に持ち歩いていますね。たまにPCを持たない日もあるんですけど、iPadは絶対にカバンに入っています。

 

──ずっとMacユーザーなんですか?

 

森崎 そうですね。音楽やってる人ってMacユーザーが多いので、データのやり取りもスムーズなんです。あと音楽制作は「ガレバン(GarageBand)」から入ったので、その流れで今使っているツールが「Logic Pro」なので、そういうことも含めてMacは一番使い勝手がいいです。ただ、そこまで使いこなせているわけではないので、もうちょっとAppleユーザーになろうかなと思っています。

 

──今狙っているガジェットってありますか?

 

森崎 外付けのハードディスクを軽量化したいなと思っているので、2TBぐらいのSSDを検討しています。僕は動画制作もするので、データを外付けハードディスクに分けているんですけど、普段持ち歩くには重くて。ただちっちゃくするとスピードも落ちたりするので、口コミやYouTubeを見て、どれがいいのか探しています。

 

──動画制作はどういうきっかけで始めたんですか?

 

森崎 昔から興味はあったんですけど、なかなかやる機会がなくて。そしたら富士フィルムミャンマーのアンバサダーをやらせていただいたときに、カメラをいただいたんです。ちょうどキャンプを始めたばかりで、キャンプ動画を撮っている方がいたので、自分でも始めてみたらハマって。今は一眼レフ二台と、最近出た「Osmo Pocket 3」というのを使って撮影しています。エド・シーランのカバーをするPR案件があったんですが、せっかくなら自分で動画を作りたいと思って、バンドを呼んで、カメラを置いて、音も録って、編集してと、自分でプロデュースしました。

 

──多忙なのに、さらに自分から作業を増やしているような(笑)。

 

森崎 それはあるかもしれない(笑)。編集なんて本当に面倒くさいですけど、好きなんですよね。ファンクラブ向けに上げる動画の素材もあるんですが、今は稽古もあるので、なかなか編集に手が回らないんです。

 

「ジョン&ジェン」に運命を感じてキャストの一員として加わらせてもらった

──「ジョン&ジェン」のオファーがあったときのお気持ちはいかがでしたか?

 

森崎 「SPY×FAMILY」で座長という貴重な経験させていただいて、今後、どんな舞台に出るのかを考えたんです。もちろん映像もやりたい。そんなときに「ジョン&ジェン」のオファーをいただいて、「2人ミュージカル」という言葉に心を奪われたんです。エンタメ要素に溢れたミュージカルをやった後に、アートに近いようなディープな内容で、ストレートプレイもやりたいと思っていたので、運命を感じて、今作のキャストの一員として加わらせていただきました。

 

──初めて脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。

 

森崎 日本初演となる今作は家族のお話ですが、家族の問題は万国共通だし、僕自身も共感することがたくさんある心温まる脚本だなとワクワクが止まりませんでした。成長すると、自分の親も一人の人間なんだと分かる瞬間ってあるじゃないですか。そういう誰もが経験したときの気持ちに訴えかけてくるんですよね。

 

──一幕が姉(ジェン)と弟(ジョン)、二幕が母(ジェン)と息子(ジョン)の話ですが、共感する部分はありましたか。

 

森崎 たくさんありますが、特に母親の行き過ぎた愛を受け止め切れない二幕のジョンには共感しました。

 

──Wキャストを務める田代万里生さんはミュージカル界の大先輩ですね。

 

森崎 万里生さんは楽譜もパッと読めますし、歌も教えてもらっていて、頼りっぱなしです。いろんなことを万里生さんに教えてもらいながら自分の中に取り入れています。ただ万里生さんと僕ではタイプが全く違っていて、お芝居のアプローチも違いますし、それがWキャストの醍醐味かなと思います。

 

──ジェン役の新妻聖子さん、濱田めぐみさんの印象はいかがですか。

 

森崎 新妻さんは外国に住んでいた経験があるので、感情を前面に提示するタイプで、めちゃくちゃパワーがあります。濱田さんはキャリアがある方なので自信と余裕があって、すごく人間味のある方です。お二人もタイプが全く違うので、共演していて本当に楽しいです。

 

──最後に今回の舞台で楽しみにしていることは何でしょうか。

 

森崎 「明日への一歩を踏み出す勇気をくれるミュージカル」と銘打っているのですが、勇気を与えるにはいろんな形があると思うんです。ストレートに明るい気持ちになれる作品もありますが、「ジョン&ジェン」は重いシーンもあります。ただ、ジョンとジェンの姿を見ると、「誰もがこうして何かしらに向き合って生きているんだな」って感じると思いますし、「足りないところがあるのは当たり前」「あなたは一人じゃない」ということも伝わるはずです。「完璧じゃない自分を受け入れることから始めようじゃないか」というふうな勇気を与えるミュージカルになっているので、「ジョン&ジェン」を観たことによって、「明日へ一歩踏み出してみよう」と思ってもらえたらうれしいですね。

 

 

 

PARCO PRODUCE 2023 ミュージカル『ジョン&ジェン』

【東京公演】
日程:2023年12月9日(土)〜12月24日(日)
会場:よみうり大手町ホール

【大阪公演】
日程:2023年12月26日(火)〜12月28日(木)
会場:新歌舞伎座

 

(STAFF&CAST)
音楽:アンドリュー・リッパ
歌詞:トム・グリーンウォルド
脚本:トム・グリーンウォルド、アンドリュー・リッパ
演出・翻訳・訳詞・ムーブメント:市川洋二郎
企画製作:パルコ

出演:森崎ウィン、田代万里生(ジョン役Wキャスト)、新妻聖子、濱田めぐみ(ジェン役Wキャスト)

 

(STORY)
[第一幕]
1985年、6歳の少女ジェンの家に、ジョンが生まれる。弟を温かく歓迎するジェンは、暴力を振るう父親から守り抜くことを誓い、ふたりは支え合いながら成長する。やがて10代になったふたりの関係は少しギクシャクし始めるが、ジェンが大学進学のため家を出る時になると、ジョンは姉を引き留めようとする。しかし、自由を望むジェンは、振り払うように出ていってしまう。NYに出てきたジェンは、刺激的な環境で生活を始める。一方で、ジョンは父親の影響を受け始める。やがて、アメリカ同時多発テロ事件が発生。それは、イラク戦争勃発の引き金となり、ふたりの人生をも大きく変えてしまうことになるのだった。

[第二幕]
時は流れ、2005年、ジェンは恋人ジェイソンとの間に息子を授かり、弟にちなんでジョンと名付ける。弟の面影を重ねながら、手塩にかけて息子の世話をするジェンだが、当の本人は過保護な母親を少し疎ましく思うのだった。ジェイソンとの別れや父親との確執など、様々な問題を抱えながらも母親として必死に頑張るジェン。一方で、母の期待とは裏腹に叔父のジョンとはまるで違った人間へと成長していく少年ジョン。やがてジョンが大学への進学のために家を出ると決めた時、母子それぞれが、自らが抱える人生の問題と直面することになる。

公式サイト:https://stage.parco.jp/program/johnandjen

 

 

撮影/河野優太 取材・文/猪口貴裕 ヘアメイク/KEIKO スタイリスト/AKIYOSHI MORITA