Aマッソ 加納愛子 撮影/松山勇樹

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実力派として人気のお笑いコンビ・Aマッソの加納愛子が、2冊目となる最新エッセイ集『行儀は悪いが天気は良い』(新潮社)を発売した。Aマッソのネタ作りを担当する加納は、小説集を刊行するなど文筆業でも活躍。本書では、まだなにものでもなかった“あの頃”や芸人の日常などを持ち前の鋭いワードセンスでつづっている。今回、加納が著書に込めたこだわり、また売れなかった時代のこと、芸人への思いなど話を聞いた。(前後編の後編)

【前編はこちら】Aマッソ加納が振り返る、売れなかった“あの頃”「 2人してトガって、社会性が全然なかった」

【写真】最新エッセイ集を発売したAマッソ加納愛子

文芸誌に短編小説を発表するなど、エッセイ以外の場所でも文筆家として活躍の幅を広げている加納。執筆の仕事には発見も多いという。

「意外と自分のパーソナルなことにも興味を持ってもらえるんだなと思いました。ラジオもそうですけど、絶対にボケなくちゃいけないわけじゃないし、興味深いという方向の面白みを持ってもらえると分かったので、自分も何か発信してもいいんだなと思えるようになりました。昔は芸人として面白く思ってもらえばいいと、自分のパーソナルなことはあんまり言いたくないな、という気持ちがありましたけど、それがちょっと薄くなってきたかも。でも、だからといってSNSはやりたくないですけど(笑)」

芸人には珍しくSNSの発信には消極的。それも「プライベートはちょっと隠しておきたい」というこだわりらしい。

「自分が表現したいことは、すべてアウトプットしているので、SNSで出せるものがないという感じもありますね。でも、多分Aマッソは2人ともSNSにあまり興味がないんだと思います。もし自分がずっと売れなくて仕事もなかったら自分から発信しなくちゃいけない可能性もあったので、そう思うと今の状況はすごくぜいたくというか。今後、気持ちが変わってやる可能性もあるかもしれないけど、どうだろう。そのときは必要に迫られたんだなと思ってもらいたい(笑)」

執筆の仕事は「芸人としての活動と地続きにあるもの」だというが、執筆が続くと「ライブが怖くなる」とも明かす。

「書き仕事とか、脳みそを使う会議や打ち合わせが続いたときに、ポンっとライブが入るとなかなか立ち上がらないときもあります。考えるという作業においては、めっちゃ遠いものでもないですけど、執筆は脳のなかで全部が完結するので、身体に落とし込んで肉体から世に出るネタ作りとは、その感覚がちょっと違うなと思いますね。

毎日舞台に立っていないと感覚が身体から離れちゃうので、執筆が続いたあとのライブはすごく怖いですね。いろんな仕事をさせてもらえるからこそ、1回ごとのライブも大切にしようというか…。ライブばっかりやっていた昔と今は全然違いますね」

本書のあとがきでは、M-1グランプリなどの賞レースについても言及。「私が芸人を続けるための一番の大義名分は『勝つ』ではない。『好きなことをやって芸人として売れ続ける』こと」という一文が印象的だった。

「『THE W』(女芸人No.1決定戦 THE W)には、もともと映像漫才がやりたくて出てたんですね。でも、それもできたし、やりたいこともないのでもういいかなと今年は出場しなかったんですけど、その分、力を入れてた『M-1』では3回戦で落ちちゃいまして。もう最悪ですよ(笑)。

また来年、頑張ろうっていう感じです。もちろん悔しいですけど、ほかにいろいろやらなくちゃいけないこともあるし、今はさっさと切り替えていこう!と思っています。正直言うと、賞レースってめちゃくちゃコスパが悪いんですよね。でも、みんなの夢、青春。人生かけて出る価値はあるけど、結果が出なかったからといって散る必要はないのかなと思います。と言っても、出る以上はやっぱり勝ちたいですけどね(笑)」

ここ数年、バラエティー番組などでAマッソを見かけることも増えた。女性芸人として求められているものに変化を感じるところはあるのだろうか。

「テレビにおいては、女性芸人に対して追い風というか、やりやすい環境になっているのかなとは思います。単純にキャスティングにおいて、今まで1組だったのが2組になっていたり、発言しやすいような企画だったり。排他的に感じることがゼロになったわけじゃないですけど、そういった環境にあぐらをかくのか、それをエンジンとして飛躍させるのか。そこは個人の努力なのかなって。

でも、私がテレビに出させてもらえるようになったのは、最近の話なので、やりやすいのがベースになっているようにも思います。とはいえ、これまで見ていたバラエティーはそうじゃないのは分かるし。上の世代の方の苦悩に触れる機会もあるので、これが当たり前じゃないとは思っていきたいです」

テレビ番組、ライブ、YouTubeと、どれもAマッソらしいこだわりを感じるが、今後は?と尋ねると「臨機応変に。それぞれ全力でやっていきたい」と返ってきた。

「でも、毎日劇場に出番があるような芸人ではないし、年をとって漫才ができる場所もないので、将来的にはメディアの比重が大きくなっていくのかなとも思っています。コンビとしては、まずレギュラー番組を持つことが目標ですね。あとは、単独ライブをもうちょっと大きくしていきたい。今はキャスティングしてもらっている感じですけど、いずれはAマッソじゃなきゃいけないというような番組に出られるようになったらいいなと思います。

個人としては、こういうエッセイとか小説とか、可能性を探していきたいという気持ちもありますね。ドラマや映画の脚本にも挑戦したいんですよ。実は、今その構想も考えているところです」

取材・文/吉田光枝