マーケターが重視している ソーシャルメディア は? ブランドの課題は、効果的な顧客エンゲージメント測定と安全性【CMO戦略05】
ソーシャルメディアに着目したCMO戦略シリーズの前回は、Glossy+リサーチではソーシャルメディアの利用状況と予算に焦点を当てた。今回は、マーケターがモニタリングしている主要なパフォーマンス指標と、各ソーシャルプラットフォームで直面している課題に注目する。
GlossyのCMO戦略シリーズでソーシャルメディアプラットフォームのすべてのランキングを独占しているインスタグラムは、売上の牽引役としてもトップであり、このプラットフォームへの支出と信頼度は、回答者の42%がコンバージョンに最適なプラットフォームとして挙げていることにも表れている。インスタグラムは、ブランディングに最適なプラットフォームとしては前年比10%増だったが、主要なコンバージョンプラットフォームとしては4%減とわずかに落ち込んだ。このわずかな落ち込みは、ブランドの安全性に関する継続的な懸念とプライバシーの変更に起因するもので、多くのマーケターはユーザーとの価値あるブランドエンゲージメントのために、他のプラットフォームでの実験を開始せざるを得なくなっている。
Snapchat(スナップチャット)、X(旧Twitter)、Reddit(レディット)などのプラットフォームは、インスタグラムのような他のプラットフォームよりも、カジュアルなソーシャルインタラクションや、あまりキュレーションされていないコンテンツをホストしているため、消費者を教育してブランドとポジティブな関係を築くことを目指しながら、消費者の感情に耳を傾けるのによいフォーラムとなっている。
その結果、マーケターは、広告出稿に利用可能なソーシャルプラットフォームを数多く持ち、複数のサービスに同時に投資している。「減らすのではなく、追加することが重要だ」と、ヒュンダイ・モーター・アメリカ(Hyundai Motor America)のCMO、アンジェラ・ゼペダ氏は述べた。「私たちはまだMeta(メタ)にいて、TikTokと差別化するためにコンテンツを改良している」。
では、マーケターはこうしたさまざまなソーシャルチャネルをどのように適切に監視・測定しているのだろうか。本レポートでは、それに関するマーケターの現在の戦略について、マーケティング担当幹部からのインサイトも交えて詳述する。
・メソドロジー
・インプレッションからコマースまで、成功の尺度はプラットフォームに依存する
・ブランディングとコンバージョン:マーケターのFacebookとインスタグラムに対する信頼の変化
・各プラットフォーム全体のコスト上昇につれて、より抽象的な障壁に直面するケースも
・今後の展望:広告なしの階層の将来が広告主にとって脅威となるかもしれない
Glossy+リサーチでは、マーケターの現在のソーシャルメディア戦術を明らかにするために、合計635人の回答者に過去と今後の投資、マーケティングチャネルの戦術と嗜好、ビジネス上の課題について尋ねる3つの調査を実施した。特筆すべきは、この調査がMetaのThreads(スレッズ)のローンチとTwitterのXへのリブランディングの前に行われたことだ。またGlossy+リサーチでは、フォーカスグループと業界全般のマーケティング幹部への個別インタビューも実施した。
消費者がサインアップして使用できるソーシャルプラットフォームは多数あるが、ブランドにとっての大きな課題は、効果的な顧客エンゲージメントをどのように測定し、特にブランドの安全性のためにどうやって各ブランドページを監視するかである。
YouTubeとPinterestを除くと、ソーシャルプラットフォームにおけるマーケターの成功の主要な測定基準はエンゲージメントだった。回答者の41%が、エンゲージメントがMetaのインスタグラムで重視する成功の主な指標であると答えている。コマースや売上はインスタグラムでのエンゲージメントに次ぐ2番目で、回答者の20%がこの指標を選択した。回答者の4分の1(25%)はそれぞれ、同じMeta傘下のプラットフォームであるFacebookでの成功の主な指標として、エンゲージメントとコマースまたは売上を選択した。
どちらのMetaのプラットフォームもショッピング機能を提供している。しかし、Facebookマーケットプレイスよりも新しいサービスであるインスタグラム ショッピングは、スポンサー広告、リール、ストーリー、またはユーザーがカートに追加できるアイテムへのリンクや購入のためにサードパーティのウェブサイトに移動するリンク付きの投稿で、ユーザーのフィードに広告を統合する。興味深いことに、インスタグラムは今年初めにショッピングタブをボトムバーから削除した。インスタグラムの責任者であるアダム・モッセーリ氏は、この削除はアプリをシンプルにし、コンテンツ作成の側面により重点を置くためだと述べている。
新規参入のTikTokは、主にユーザー生成コンテンツ(UGC)をホストしている。そのため、このプラットフォームでマーケティングを行うブランドは、ブランドページの主要な成功指標として、主にエンゲージメント(回答者の46%がそう回答)とインプレッション(回答者の29%)に頼っている。
なお、Glossyの調査はTikTokショップのリリース以前に行われた。TikTokのショッピング機能は、広告、非スポンサード動画、商品リンク付きLIVEをユーザーの「For You」ページに掲載するアルゴリズムに依存しており、クリエイターは売上からコミッションを得ることができる。ブランドプロフィールは自社ページで直接商品を紹介することも可能で、視聴者は外部サイトではなくTikTok上でチェックアウトを完了できる。この機能をさらに前面に表示するために、ユーザーのホーム画面にこのショップ機能にアクセスするためのタブが追加された。
Snapchat、X、Redditのようなプラットフォームでは、ブランドやスポンサードのインフルエンサーの投稿がどれだけ「いいね!」やシェアを獲得したかでエンゲージメントを測定するのではなく、ユーザー間の会話という形でのエンゲージメントにもっとも価値がある。ここで注目すべきは、エンゲージメントの成功とは、ブランドに対するポジティブな言及であるということだ。
現在ベライゾンバリュー(Verizon Value)のCMOで、インタビュー当時はベライゾンのビジブル(Visible)のCMOだったシェリル・グレシャム氏によると、このようなよりカジュアルなUGCに特化したプラットフォームに別のアプローチを取ることは、小規模ブランドや認知度アップが必要なブランドには効果的である。「認知度の低いブランドの場合、ソーシャルプラットフォームを別の角度から見て、認知度を高め、突破口を開くために活用する必要があることがわかった」とグレシャム氏は言う。「その文化に溶け込み、会話に参加する方法を見つけ出してみよう」。
動画ストリーミングプラットフォームのYouTubeでインプレッションがマーケターのもっとも重要なKPIにランクされたことは理にかなっている。インプレッションは、視聴者が動画広告の最初のインストリーム部分にどのくらいの頻度で触れているかを測定するものであり、広告ビューという言葉で広告付きストリーミングのパフォーマンスを一般的に理解できる指標を提供することによって、テレビ広告費のストリーミングへのシフトを促進するのに役立っている。Glossy+リサーチが以前行った広告付きストリーミングの状況におけるCMO戦略の分析では、マーケター回答者の圧倒的多数(83%)がYouTubeに広告を掲載していると回答し、半数以上(60%)が他の広告付きストリーミングサービスと比較してYouTubeが2022年の予算の大部分を消費していると回答した。またYouTubeによると、同プラットフォームの月間ログインユーザー数は20億人を超え、他の多くのプラットフォームを大きく上回っている。
Pinterestに関しては、クリック率を主なKPIとする唯一のソーシャルオプションとして際立っているという点で独自性がある。このプラットフォーム内で移動する際、機能性は検索エンジンのパラダイムから大きく借用されており、ユーザーはアイデアやインスピレーションを見つけて製品ソースにリダイレクトすることができる。検索エンジンと同様に、その成功の主なポイントは、ユーザーがピンしたアイテムのリンクをクリックして、ブランドのサイトに誘導され、コンバージョンに至った時である。
このリストのトップではないが、クリック率はRedditにとって他のKPIよりもはるかに高い重要度で浮上した。Redditは、サブレディットと呼ばれるカテゴリーハブ全体に及ぶスレッドの系統的な集まりの中でユーザーが考えを共有するスペースを提供している。関連するサブレディットは、広告主が製品情報を共有し、フィルターなしの製品レビューやコミュニティのQ&AといったUGCからメリットを得る機会を提供する。Shopify(ショッピファイ)のドロップシッピングアプリであるオベロ(Oberlo)によると、2021年の時点では、Redditには280万以上のサブレディットがあった。
Glossy+リサーチはまた、どのソーシャルプラットフォームがブランドのマーケティング目的にもっとも適しているかを分析した。どのソーシャルプラットフォームがブランディングに最適かという質問に対し、調査回答者の69%が昨年もトップだったインスタグラムを選んだ。
インスタグラムは今年もブランディングとコンバージョンのランキングのトップに君臨した。実際、インスタグラムは、GlossyのCMO戦略シリーズ内のすべてのソーシャルメディアプラットフォームランキングを独占している。Glossyのソーシャルメディアに関する最初の回では、インスタグラムはマーケターが使用するソーシャルプラットフォームの第1位であっただけでなく、今年マーケターの予算の最大部分を占めたプラットフォームでもあった。
インスタグラムとは対照的に、同じMeta傘下のプラットフォームであるFacebookは、目的に最適なプラットフォームだと答えた回答者がわずか9%と、マーケターの間で好まれるブランディングツールではなかった。これは、回答者の36%がトップのブランド牽引役として選択した2022年から大幅に減少している。
Glossyの姉妹メディアであるDigidayがエージェンシーのプロフェッショナルを対象に行った最近の調査では、エージェンシーのクライアントはFacebookやインスタグラムへの投稿頻度が以前より減っていると回答している。具体的には、エージェンシークライアントは週に1回か数回しかMetaのプラットフォームに投稿していない。また、Metaのサイトでの広告購入や、Facebookやインスタグラムのオリジナルコンテンツへの投資からも撤退しつつあり、エージェンシーがMetaのプラットフォームから投資対効果を見出せていないことを示している。パブリッシャーもまた、過去数年と比較してMetaのプラットフォームの利用が減少していると報告している。
だが、ブランドや小売業者は依然としてFacebookを効果的な売上の牽引役とみなしている。コンバージョンの原動力としてインスタグラムに次いで2位となったのはFacebookで、ブランドと小売業者の回答者の28%がFacebookと回答している。Facebookは、今でも多くのショッピング機能や可能性を提供しているが、インスタグラムとは異なり、元々インフルエンサーやブランドがユーザーの友人の範囲を超えてリーチするようには設定されていなかった。だが、Facebookのアルゴリズムに人工知能と機械学習が導入されたことで、状況は変わりつつある。フートスイート(Hootsuite)によると、Facebookのフィードコンテンツの15%は、現在フォローされていないアカウントから推奨されている。
そして、ブランディングにおけるFacebookの価値は今年に入ってから高まっている。ブランドと小売のプロフェッショナルの3分の2強(68%)が、Facebookはブランディングにとって価値がある、または非常に価値があると回答しているが、昨年そう回答したのは半数強(52%)だった。より具体的には、Facebookがブランディングにとって非常に価値があると答えたブランドや小売業者の割合は、2022年のわずか12%から、2023年には4分の1以上(27%)と、今年大きく跳ね上がっている。
それにくらべて、TikTokはほぼ完全にインフルエンサーのためのフォーラムである。ユーザーがフォローしているアカウントのコンテンツを優先するのではなく、アプリのアルゴリズムによって人気の動画が「For You」ページに掲載される。ブランドがバイラルになれば売上を急増させることができるため、TikTokはコンバージョンのトップの牽引役として他のプラットフォームに急速に追いつきつつあるようだ。インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のソーシャルメディア担当主席アナリスト、ジャスミン・エンバーグ氏は、「TikTokユーザーに財布を開かせるのに、バイラルトレンドに勝るものはない」と述べている。
昨年、TikTokをコンバージョン牽引役のトップ3に挙げたブランドはわずか15%だった。今年は、18%がコンバージョンのためのナンバーワンのプラットフォームとしてTikTokを選び、インスタグラムとFacebookに次いで全体では3位となっている。これは、他のプラットフォームがすべてトップコンバージョンの牽引役としての順位を下げていることからも、特に注目に値する。
エージェンシーの幹部の中には、2022年が好調に終わったことを指摘し、今年はTikTokへの広告費が増加すると予想する者もいた。「2022年の第1〜3四半期と第4四半期のあいだで、TikTokへの広告費は20%増加した」と、ヴェイナーメディア(VaynerMedia)のメディア運用責任者であるベン・アリソン氏は1月に語っている。「TikTokに投資するこうした傾向は、少なくとも2023年中は四半期比較で成長すると予想され、今後も拡大し続けるとみている」。オベロによると、TikTokの広告収入は2023年には132億ドル(約2兆円)に達し、昨年から33%増加するという。
プラットフォーム全体で獲得コストが増加し続ける中、企業が費やす広告費1ドル(約149円)あたりのROIは減少している。そして、レガシーなプラットフォームであるFacebook、インスタグラム、YouTubeにおけるマーケターの最大の課題は、媒体費である。「我々は認知度に注力している。行動喚起(CTA)が低い場合は、獲得単価を考えると、全員にただ新しい車を買ってあげた方がいいからだ」と、ベライゾンのグレシャム氏は言う。
プラットフォームへの広告出稿コストは上昇しているが、プラットフォームは広告サービスの多様化を継続している。しかしブランドが選択できる選択肢が増えたことで、効果が実証されているものを使い続けながら、新しい広告フォーマットをテストしようとするため、企業の予算はさらに圧迫されている。たとえば、XのCEOであるイーロン・マスク氏が、Xに広告を掲載するには広告主は認証費用を支払う必要があると発表した際、多くの中小規模の広告主は出費を渋った。
デジタルコンサルタント会社SJRソーシャルメディア(SJR Social Media)のソーシャルメディアマーケティングマネージャー、サマンサ・ロビンソン氏は次のように述べている。「大きな予算を持っておらず、細かく節約するために非常に慎重に考えなければならない小規模なブランドには害になると思う。そうしたブランドはただ別のところに予算を使うだけだろう」。
予算に関する懸念に加え、マーケターの広告費に直接影響する課題は、キャンペーンの成功を適切に測定する能力である。インスタカート(Instacart)のCMOであるローラ・ジョーンズ氏は、プライバシー規制強化の影響に関連したメディアコストの上昇により、測定がマーケターの頭の片隅に追いやられていると述べた。
「近年、測定とデータの可視性がソーシャルにとってますます顕著な問題となっており、それが我々が直面している最大の課題だ」とジョーンズ氏は言う。「さまざまなソーシャルメディアプラットフォームが、結果を正確に報告するために必要なシグナルを得ていることを確認するのが難しくなっている。もうひとつの問題は効率性であり、投資に適したメディアに支払っていることを確かめることだ」。
「繰り返しになるが、シグナルや測定の損失について考える際に、それが重要になってくる。なぜならドルが効率的に配分されていると確信することが難しくなるからだ」とジョーンズ氏は付け加えた。
マーケターは、Snapchat、Pinterest、Xでは規模の不足が最大の課題だと感じている。UGCに特化したプラットフォームの多くは、ブランドが効果的なネイティブプレゼンスを確立するのに苦労する傾向があるため、規模が不足している。これらのプラットフォームは、受動的なコンテンツ消費を促進するのではなく、ユーザー同士のエンゲージメントを重視している。とはいえ、数多くの「ラーカー(ソーシャルメディアプラットフォームのアクティブユーザーだが、投稿したりほかのユーザーと関与したりしないユーザーのこと)」は確かに存在する。そのため、相互作用や言説を生み出すコンテンツの必要性が大いに高まっている。キュレーションされたビジュアルのみを投稿する傾向のあるブランドは、こうした環境では投稿が有機的に感じられないため、十分な「いいね!」を獲得するのに苦労している。
さらに、カジュアルなUGCプラットフォームでは、消費者が議論やトレンドをリードしているため、企業はトレンドを生み出すことを目指すのではなく、トレンドに乗っかる傾向がある。これは積極的な戦略ではなく、受身的な戦略につながる。たとえば、テイラー・スウィフト氏がカンザスシティ・チーフスの試合に登場した後、NFLはXのバイオグラフィを「NFL(テイラー・バージョン)」に変更した。これは膨大な数の「スウィフティ」と呼ばれる熱烈なファン層を獲得するための受身の努力であり、ブランドが計画的なマーケティングキャンペーンを実施するよりも、こうしたプラットフォームでユーザーのトレンドに従う傾向にあることを示している。
ブランドは規模の不足をデメリットとして捉えるのではなく、UGCに特化したプラットフォームの環境を利用して、より本物の1対1のコミュニケーションにユーザーを引き込む機会を得ている。Snapchat、Pinterest、Xは、顧客の感情を収集し、顧客に対応するのに適したスペースであり、それはXでのブランドのカスタマーサービスの反応からもわかる。
だが、Glossyが調査したマーケターによると、X、TikTok、Redditのような、フィルターを通さないUGCのためのフォーラムを提供するプラットフォームでは、ブランドの安全性に対する懸念が、ブランドがプラットフォームをさらに活用する際にあたって最大の脅威となっている。回答者の47%がRedditにおける最大の脅威としてブランドの安全性を選び、TikTokとXに関してもそれぞれ35%が同様の回答だった。
これらの環境では、コンテンツクリエイターのフィルターを通さない意見やコメントが重視され、事前に把握されているため、ブランドはコントロールしにくい。特にXは、ブランドの安全性に関する問題の迅速な解決に向けた進展がないとして、批判が高まっている。これは、このプラットフォームに対する否定的な認識を助長し、消費者がこのプラットフォーム(と広告主)を真摯に受け止める能力に疑念を残している。
同様に、ブランドは歴史的にRedditでの広告をためらってきた。多くのブランドがこのプラットフォームで存在感を示しているが、その取り組みは通常、特定の状況下でのみ有効である。このフォーラムでは、ブランドが「何でも聞いて(Ask Me Anything)」のような投稿を行い、その会話の中でユーザーと対話することができる。しかし、一般的に好意的に受け入れられているのは、説得力のあるセレブリティや専門家だけである。さらに、このフォーマットの主な問題は、ブランドは通常サブレディットや投稿を所有していないため、そこで行われる会話をほとんどコントロールできないことだ。
一方、TikTokは、別のブランドの安全性に関する問題を提起している。このプラットフォームは、さらに予測不可能なバイラルモーメントを生み出すため、ポジティブな論評かネガティブな論評かを区別しない。バイラルな瞬間は、企業に対する悪い評価や体験談である可能性があり、ブランド認知に大きな影響を与えかねない。このようなブランドの安全性に対するリスクは、新しく予測不可能なコンテンツの表示に偏っているフィードベースのプラットフォームに内在している。
ブランドの安全性は、UGCプラットフォーム全体に共通する懸念事項だが、インスタカートのジョーンズ氏が指摘したように、すべての広告主にとってつねに同じ量の苦痛をもたらすわけではない。「ブランドの安全性は我々にとって重要な検討事項であり、チャネル上のどのキャンペーンでも最前線にあるものだ。でもそれは、これまでもそれほど重要な問題ではなかったし、特定の課題に直面したというようなものでもない」。
媒体費や利用可能なツール、プライバシーの制限とは異なり、ブランドの安全性はマーケターにとってより抽象的な障壁であり、その重要性は企業の価値観やリスクの許容度によって大きく左右される。
コストやブランドの安全性への懸念はさておき、広告主に迫っているより大きな脅威は、ユーザー向けの広告なしのサブスクリプションオプションである。
YouTubeやRedditといったプラットフォームは、何年も前から有料顧客に対して広告なしの独占コンテンツを提供してきた。YouTubeプレミアムは2014年に参加レーベルのミュージックビデオを広告なしでストリーミング配信するミュージックキー(Music Key)としてスタートした。2024年末までに現在のYouTubeプレミアムの加入者は2800万人近くになるとスタティスタ(Statista)は予測している。
以前はRedditゴールドだったが2018年に名称が変更されたRedditプレミアムは、会員には広告なしで閲覧できるオプションのほか、アバターギア、カスタムアプリアイコン、「ラウンジ」サブレディットページへのアクセスが提供される。スタティスタによると、2022年の時点で、Redditプレミアムのサブスクライバーは47万3000人を超えている。
Snapchatは昨年、Snapchat+と呼ばれる月額4ドル(約600円)の広告なしサブスクリプション層をリリースした。同社によると、2023年9月までにSnapchat+の購読者は500万人を超えた。同様に、Xプレミアム(旧名Twitterブルー)も2022年12月に開始されたが、Snapchat+ほどの成功は収めていない。スタティスタによると、4月時点でXプレミアムの加入者はわずか64万人だった。
Facebook、インスタグラム、TikTokなどの他のプラットフォームも広告なしのサブスクリプション層を米国以外の地域でテストしている。最近の報道によると、MetaはEUのユーザーに対し、ターゲティング広告のためにMetaが個人情報を使用することを許可しない場合、携帯電話でインスタグラムにアクセスするための月額利用料14ドル(約2100円)を請求する計画を立てている。また、デスクトップでFacebookとインスタグラムを併用する場合は17ドル(約2540円)を請求する計画もあるという。TikTokは、米国以外の非公開の場所で、広告なしの月額サブスクリプションサービスの単一市場テストを開始したと報じられている。
当然ながらソーシャルプラットフォームは依然として広告収入に大きく依存しており、ほとんどのユーザーは広告なしの体験のために追加料金を支払いたいとは思っていない。しかし、広告なしのサブスクリプション層の広告主にとってのリスクは、より高額なラグジュアリープランに加入する余裕があって喜んで金を支払うことができるユーザーを失う可能性があることだ。皮肉なことにこの重要な層は、金を払ってまで避けようとしているオンライン広告に反応する可能性がもっとも高い消費者で構成されている。
スポンサードの投稿を通じてこれらのオーディエンスにリーチする能力が低下しているため、ブランドページを通じてソーシャルプラットフォーム上で自然なエンゲージメントを生み出すことが必要不可欠となるだろう。オーガニックなエンゲージメントの潜在的な成長ポケットは、インスタグラムがXに対抗するために最近リリースしたテキストベースの会話アプリ、Threads(スレッズ)にある。しかしブランドは今もなおこのプラットフォームを探っている最中であり、それを最大限に活用するための戦略を開発しているところだ。
最近のGlossy+リサーチの調査では、ブランドやエージェンシーの47%がThreadsのマーケティングの可能性について確信を持っていないことがわかった。だが、その可能性について否定的な意見(回答者の24%)よりも肯定的な意見(回答者の29%)の方が多い。デジタルマーケティングエージェンシー、クラウド(Croud)の有料ソーシャルアカウントディレクター、ダニエル・カーター氏は次のように言う。「人々(マーケター)がThreadsでの戦略を決定するには時間がかかるだろう。現時点では正解も不正解もなく、マーケターはThreadsに慣れようとしている最中だ」。
このプラットフォームでの収益化や広告についてはまだ言及されていないが、近いうちにThreadsにも導入される可能性が高い。広告なしのサブスクリプション層も伴うかもしれない。
Threadのリリース後、ユーザー登録が大幅に減少したことも注目すべき重要な点だ。このアプリが消費者の維持に苦戦しているため、ブランドは流出には加わっていないが、慎重にことを進めている。広告代理店エスケープポッド(The Escape Pod)の最高戦略責任者であるタイラー・ムーア氏は、「クライアントに対しては、この新しいプラットフォームでは予想外のことが起こることを予期するように伝えており、エンゲージメントが低下するにつれて、それを引き続き注視している」と述べた。「このプラットフォームはユーザーとFacebookによって定義されつつあることがわかっているので、我々はThreadsを捨ててはいない」。
Threadsでも明らかなように、ソーシャルメディアの状況は新しいアプリや機能が次々と登場し、これまでもつねにそうだったように、急速に進化している。ブランドのマーケターは、顧客とエンゲージメントする能力という点でソーシャルプラットフォームに引き続き価値を見出しているため、多くのプラットフォームに投資し、活用し続けており、それぞれに対して固有の戦略を進化させている。オーディエンスと広告機能が進化するにつれて、各プラットフォーム用に異なるコンテンツを創出することが、今後も重要な役割を果たすことになるだろう。
[原文:CMO Strategies: The key metrics and challenges behind each social platform - from Instagram to X]
DANIA GUTIERREZ(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)
GlossyのCMO戦略シリーズでソーシャルメディアプラットフォームのすべてのランキングを独占しているインスタグラムは、売上の牽引役としてもトップであり、このプラットフォームへの支出と信頼度は、回答者の42%がコンバージョンに最適なプラットフォームとして挙げていることにも表れている。インスタグラムは、ブランディングに最適なプラットフォームとしては前年比10%増だったが、主要なコンバージョンプラットフォームとしては4%減とわずかに落ち込んだ。このわずかな落ち込みは、ブランドの安全性に関する継続的な懸念とプライバシーの変更に起因するもので、多くのマーケターはユーザーとの価値あるブランドエンゲージメントのために、他のプラットフォームでの実験を開始せざるを得なくなっている。
その結果、マーケターは、広告出稿に利用可能なソーシャルプラットフォームを数多く持ち、複数のサービスに同時に投資している。「減らすのではなく、追加することが重要だ」と、ヒュンダイ・モーター・アメリカ(Hyundai Motor America)のCMO、アンジェラ・ゼペダ氏は述べた。「私たちはまだMeta(メタ)にいて、TikTokと差別化するためにコンテンツを改良している」。
では、マーケターはこうしたさまざまなソーシャルチャネルをどのように適切に監視・測定しているのだろうか。本レポートでは、それに関するマーケターの現在の戦略について、マーケティング担当幹部からのインサイトも交えて詳述する。
目次
・メソドロジー
・インプレッションからコマースまで、成功の尺度はプラットフォームに依存する
・ブランディングとコンバージョン:マーケターのFacebookとインスタグラムに対する信頼の変化
・各プラットフォーム全体のコスト上昇につれて、より抽象的な障壁に直面するケースも
・今後の展望:広告なしの階層の将来が広告主にとって脅威となるかもしれない
メソドロジー
Glossy+リサーチでは、マーケターの現在のソーシャルメディア戦術を明らかにするために、合計635人の回答者に過去と今後の投資、マーケティングチャネルの戦術と嗜好、ビジネス上の課題について尋ねる3つの調査を実施した。特筆すべきは、この調査がMetaのThreads(スレッズ)のローンチとTwitterのXへのリブランディングの前に行われたことだ。またGlossy+リサーチでは、フォーカスグループと業界全般のマーケティング幹部への個別インタビューも実施した。
インプレッションからコマースまで、成功の尺度はプラットフォームに依存する
消費者がサインアップして使用できるソーシャルプラットフォームは多数あるが、ブランドにとっての大きな課題は、効果的な顧客エンゲージメントをどのように測定し、特にブランドの安全性のためにどうやって各ブランドページを監視するかである。
YouTubeとPinterestを除くと、ソーシャルプラットフォームにおけるマーケターの成功の主要な測定基準はエンゲージメントだった。回答者の41%が、エンゲージメントがMetaのインスタグラムで重視する成功の主な指標であると答えている。コマースや売上はインスタグラムでのエンゲージメントに次ぐ2番目で、回答者の20%がこの指標を選択した。回答者の4分の1(25%)はそれぞれ、同じMeta傘下のプラットフォームであるFacebookでの成功の主な指標として、エンゲージメントとコマースまたは売上を選択した。
どちらのMetaのプラットフォームもショッピング機能を提供している。しかし、Facebookマーケットプレイスよりも新しいサービスであるインスタグラム ショッピングは、スポンサー広告、リール、ストーリー、またはユーザーがカートに追加できるアイテムへのリンクや購入のためにサードパーティのウェブサイトに移動するリンク付きの投稿で、ユーザーのフィードに広告を統合する。興味深いことに、インスタグラムは今年初めにショッピングタブをボトムバーから削除した。インスタグラムの責任者であるアダム・モッセーリ氏は、この削除はアプリをシンプルにし、コンテンツ作成の側面により重点を置くためだと述べている。
新規参入のTikTokは、主にユーザー生成コンテンツ(UGC)をホストしている。そのため、このプラットフォームでマーケティングを行うブランドは、ブランドページの主要な成功指標として、主にエンゲージメント(回答者の46%がそう回答)とインプレッション(回答者の29%)に頼っている。
なお、Glossyの調査はTikTokショップのリリース以前に行われた。TikTokのショッピング機能は、広告、非スポンサード動画、商品リンク付きLIVEをユーザーの「For You」ページに掲載するアルゴリズムに依存しており、クリエイターは売上からコミッションを得ることができる。ブランドプロフィールは自社ページで直接商品を紹介することも可能で、視聴者は外部サイトではなくTikTok上でチェックアウトを完了できる。この機能をさらに前面に表示するために、ユーザーのホーム画面にこのショップ機能にアクセスするためのタブが追加された。
Snapchat、X、Redditのようなプラットフォームでは、ブランドやスポンサードのインフルエンサーの投稿がどれだけ「いいね!」やシェアを獲得したかでエンゲージメントを測定するのではなく、ユーザー間の会話という形でのエンゲージメントにもっとも価値がある。ここで注目すべきは、エンゲージメントの成功とは、ブランドに対するポジティブな言及であるということだ。
現在ベライゾンバリュー(Verizon Value)のCMOで、インタビュー当時はベライゾンのビジブル(Visible)のCMOだったシェリル・グレシャム氏によると、このようなよりカジュアルなUGCに特化したプラットフォームに別のアプローチを取ることは、小規模ブランドや認知度アップが必要なブランドには効果的である。「認知度の低いブランドの場合、ソーシャルプラットフォームを別の角度から見て、認知度を高め、突破口を開くために活用する必要があることがわかった」とグレシャム氏は言う。「その文化に溶け込み、会話に参加する方法を見つけ出してみよう」。
動画ストリーミングプラットフォームのYouTubeでインプレッションがマーケターのもっとも重要なKPIにランクされたことは理にかなっている。インプレッションは、視聴者が動画広告の最初のインストリーム部分にどのくらいの頻度で触れているかを測定するものであり、広告ビューという言葉で広告付きストリーミングのパフォーマンスを一般的に理解できる指標を提供することによって、テレビ広告費のストリーミングへのシフトを促進するのに役立っている。Glossy+リサーチが以前行った広告付きストリーミングの状況におけるCMO戦略の分析では、マーケター回答者の圧倒的多数(83%)がYouTubeに広告を掲載していると回答し、半数以上(60%)が他の広告付きストリーミングサービスと比較してYouTubeが2022年の予算の大部分を消費していると回答した。またYouTubeによると、同プラットフォームの月間ログインユーザー数は20億人を超え、他の多くのプラットフォームを大きく上回っている。
Pinterestに関しては、クリック率を主なKPIとする唯一のソーシャルオプションとして際立っているという点で独自性がある。このプラットフォーム内で移動する際、機能性は検索エンジンのパラダイムから大きく借用されており、ユーザーはアイデアやインスピレーションを見つけて製品ソースにリダイレクトすることができる。検索エンジンと同様に、その成功の主なポイントは、ユーザーがピンしたアイテムのリンクをクリックして、ブランドのサイトに誘導され、コンバージョンに至った時である。
このリストのトップではないが、クリック率はRedditにとって他のKPIよりもはるかに高い重要度で浮上した。Redditは、サブレディットと呼ばれるカテゴリーハブ全体に及ぶスレッドの系統的な集まりの中でユーザーが考えを共有するスペースを提供している。関連するサブレディットは、広告主が製品情報を共有し、フィルターなしの製品レビューやコミュニティのQ&AといったUGCからメリットを得る機会を提供する。Shopify(ショッピファイ)のドロップシッピングアプリであるオベロ(Oberlo)によると、2021年の時点では、Redditには280万以上のサブレディットがあった。
ブランディングとコンバージョン:マーケターのFacebookとインスタグラムに対する信頼の変化
Glossy+リサーチはまた、どのソーシャルプラットフォームがブランドのマーケティング目的にもっとも適しているかを分析した。どのソーシャルプラットフォームがブランディングに最適かという質問に対し、調査回答者の69%が昨年もトップだったインスタグラムを選んだ。
インスタグラムは今年もブランディングとコンバージョンのランキングのトップに君臨した。実際、インスタグラムは、GlossyのCMO戦略シリーズ内のすべてのソーシャルメディアプラットフォームランキングを独占している。Glossyのソーシャルメディアに関する最初の回では、インスタグラムはマーケターが使用するソーシャルプラットフォームの第1位であっただけでなく、今年マーケターの予算の最大部分を占めたプラットフォームでもあった。
インスタグラムとは対照的に、同じMeta傘下のプラットフォームであるFacebookは、目的に最適なプラットフォームだと答えた回答者がわずか9%と、マーケターの間で好まれるブランディングツールではなかった。これは、回答者の36%がトップのブランド牽引役として選択した2022年から大幅に減少している。
Glossyの姉妹メディアであるDigidayがエージェンシーのプロフェッショナルを対象に行った最近の調査では、エージェンシーのクライアントはFacebookやインスタグラムへの投稿頻度が以前より減っていると回答している。具体的には、エージェンシークライアントは週に1回か数回しかMetaのプラットフォームに投稿していない。また、Metaのサイトでの広告購入や、Facebookやインスタグラムのオリジナルコンテンツへの投資からも撤退しつつあり、エージェンシーがMetaのプラットフォームから投資対効果を見出せていないことを示している。パブリッシャーもまた、過去数年と比較してMetaのプラットフォームの利用が減少していると報告している。
だが、ブランドや小売業者は依然としてFacebookを効果的な売上の牽引役とみなしている。コンバージョンの原動力としてインスタグラムに次いで2位となったのはFacebookで、ブランドと小売業者の回答者の28%がFacebookと回答している。Facebookは、今でも多くのショッピング機能や可能性を提供しているが、インスタグラムとは異なり、元々インフルエンサーやブランドがユーザーの友人の範囲を超えてリーチするようには設定されていなかった。だが、Facebookのアルゴリズムに人工知能と機械学習が導入されたことで、状況は変わりつつある。フートスイート(Hootsuite)によると、Facebookのフィードコンテンツの15%は、現在フォローされていないアカウントから推奨されている。
そして、ブランディングにおけるFacebookの価値は今年に入ってから高まっている。ブランドと小売のプロフェッショナルの3分の2強(68%)が、Facebookはブランディングにとって価値がある、または非常に価値があると回答しているが、昨年そう回答したのは半数強(52%)だった。より具体的には、Facebookがブランディングにとって非常に価値があると答えたブランドや小売業者の割合は、2022年のわずか12%から、2023年には4分の1以上(27%)と、今年大きく跳ね上がっている。
それにくらべて、TikTokはほぼ完全にインフルエンサーのためのフォーラムである。ユーザーがフォローしているアカウントのコンテンツを優先するのではなく、アプリのアルゴリズムによって人気の動画が「For You」ページに掲載される。ブランドがバイラルになれば売上を急増させることができるため、TikTokはコンバージョンのトップの牽引役として他のプラットフォームに急速に追いつきつつあるようだ。インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のソーシャルメディア担当主席アナリスト、ジャスミン・エンバーグ氏は、「TikTokユーザーに財布を開かせるのに、バイラルトレンドに勝るものはない」と述べている。
昨年、TikTokをコンバージョン牽引役のトップ3に挙げたブランドはわずか15%だった。今年は、18%がコンバージョンのためのナンバーワンのプラットフォームとしてTikTokを選び、インスタグラムとFacebookに次いで全体では3位となっている。これは、他のプラットフォームがすべてトップコンバージョンの牽引役としての順位を下げていることからも、特に注目に値する。
エージェンシーの幹部の中には、2022年が好調に終わったことを指摘し、今年はTikTokへの広告費が増加すると予想する者もいた。「2022年の第1〜3四半期と第4四半期のあいだで、TikTokへの広告費は20%増加した」と、ヴェイナーメディア(VaynerMedia)のメディア運用責任者であるベン・アリソン氏は1月に語っている。「TikTokに投資するこうした傾向は、少なくとも2023年中は四半期比較で成長すると予想され、今後も拡大し続けるとみている」。オベロによると、TikTokの広告収入は2023年には132億ドル(約2兆円)に達し、昨年から33%増加するという。
各プラットフォーム全体のコスト上昇につれて、より抽象的な障壁に直面するケースも
プラットフォーム全体で獲得コストが増加し続ける中、企業が費やす広告費1ドル(約149円)あたりのROIは減少している。そして、レガシーなプラットフォームであるFacebook、インスタグラム、YouTubeにおけるマーケターの最大の課題は、媒体費である。「我々は認知度に注力している。行動喚起(CTA)が低い場合は、獲得単価を考えると、全員にただ新しい車を買ってあげた方がいいからだ」と、ベライゾンのグレシャム氏は言う。
プラットフォームへの広告出稿コストは上昇しているが、プラットフォームは広告サービスの多様化を継続している。しかしブランドが選択できる選択肢が増えたことで、効果が実証されているものを使い続けながら、新しい広告フォーマットをテストしようとするため、企業の予算はさらに圧迫されている。たとえば、XのCEOであるイーロン・マスク氏が、Xに広告を掲載するには広告主は認証費用を支払う必要があると発表した際、多くの中小規模の広告主は出費を渋った。
デジタルコンサルタント会社SJRソーシャルメディア(SJR Social Media)のソーシャルメディアマーケティングマネージャー、サマンサ・ロビンソン氏は次のように述べている。「大きな予算を持っておらず、細かく節約するために非常に慎重に考えなければならない小規模なブランドには害になると思う。そうしたブランドはただ別のところに予算を使うだけだろう」。
予算に関する懸念に加え、マーケターの広告費に直接影響する課題は、キャンペーンの成功を適切に測定する能力である。インスタカート(Instacart)のCMOであるローラ・ジョーンズ氏は、プライバシー規制強化の影響に関連したメディアコストの上昇により、測定がマーケターの頭の片隅に追いやられていると述べた。
「近年、測定とデータの可視性がソーシャルにとってますます顕著な問題となっており、それが我々が直面している最大の課題だ」とジョーンズ氏は言う。「さまざまなソーシャルメディアプラットフォームが、結果を正確に報告するために必要なシグナルを得ていることを確認するのが難しくなっている。もうひとつの問題は効率性であり、投資に適したメディアに支払っていることを確かめることだ」。
「繰り返しになるが、シグナルや測定の損失について考える際に、それが重要になってくる。なぜならドルが効率的に配分されていると確信することが難しくなるからだ」とジョーンズ氏は付け加えた。
マーケターは、Snapchat、Pinterest、Xでは規模の不足が最大の課題だと感じている。UGCに特化したプラットフォームの多くは、ブランドが効果的なネイティブプレゼンスを確立するのに苦労する傾向があるため、規模が不足している。これらのプラットフォームは、受動的なコンテンツ消費を促進するのではなく、ユーザー同士のエンゲージメントを重視している。とはいえ、数多くの「ラーカー(ソーシャルメディアプラットフォームのアクティブユーザーだが、投稿したりほかのユーザーと関与したりしないユーザーのこと)」は確かに存在する。そのため、相互作用や言説を生み出すコンテンツの必要性が大いに高まっている。キュレーションされたビジュアルのみを投稿する傾向のあるブランドは、こうした環境では投稿が有機的に感じられないため、十分な「いいね!」を獲得するのに苦労している。
さらに、カジュアルなUGCプラットフォームでは、消費者が議論やトレンドをリードしているため、企業はトレンドを生み出すことを目指すのではなく、トレンドに乗っかる傾向がある。これは積極的な戦略ではなく、受身的な戦略につながる。たとえば、テイラー・スウィフト氏がカンザスシティ・チーフスの試合に登場した後、NFLはXのバイオグラフィを「NFL(テイラー・バージョン)」に変更した。これは膨大な数の「スウィフティ」と呼ばれる熱烈なファン層を獲得するための受身の努力であり、ブランドが計画的なマーケティングキャンペーンを実施するよりも、こうしたプラットフォームでユーザーのトレンドに従う傾向にあることを示している。
ブランドは規模の不足をデメリットとして捉えるのではなく、UGCに特化したプラットフォームの環境を利用して、より本物の1対1のコミュニケーションにユーザーを引き込む機会を得ている。Snapchat、Pinterest、Xは、顧客の感情を収集し、顧客に対応するのに適したスペースであり、それはXでのブランドのカスタマーサービスの反応からもわかる。
だが、Glossyが調査したマーケターによると、X、TikTok、Redditのような、フィルターを通さないUGCのためのフォーラムを提供するプラットフォームでは、ブランドの安全性に対する懸念が、ブランドがプラットフォームをさらに活用する際にあたって最大の脅威となっている。回答者の47%がRedditにおける最大の脅威としてブランドの安全性を選び、TikTokとXに関してもそれぞれ35%が同様の回答だった。
これらの環境では、コンテンツクリエイターのフィルターを通さない意見やコメントが重視され、事前に把握されているため、ブランドはコントロールしにくい。特にXは、ブランドの安全性に関する問題の迅速な解決に向けた進展がないとして、批判が高まっている。これは、このプラットフォームに対する否定的な認識を助長し、消費者がこのプラットフォーム(と広告主)を真摯に受け止める能力に疑念を残している。
同様に、ブランドは歴史的にRedditでの広告をためらってきた。多くのブランドがこのプラットフォームで存在感を示しているが、その取り組みは通常、特定の状況下でのみ有効である。このフォーラムでは、ブランドが「何でも聞いて(Ask Me Anything)」のような投稿を行い、その会話の中でユーザーと対話することができる。しかし、一般的に好意的に受け入れられているのは、説得力のあるセレブリティや専門家だけである。さらに、このフォーマットの主な問題は、ブランドは通常サブレディットや投稿を所有していないため、そこで行われる会話をほとんどコントロールできないことだ。
一方、TikTokは、別のブランドの安全性に関する問題を提起している。このプラットフォームは、さらに予測不可能なバイラルモーメントを生み出すため、ポジティブな論評かネガティブな論評かを区別しない。バイラルな瞬間は、企業に対する悪い評価や体験談である可能性があり、ブランド認知に大きな影響を与えかねない。このようなブランドの安全性に対するリスクは、新しく予測不可能なコンテンツの表示に偏っているフィードベースのプラットフォームに内在している。
ブランドの安全性は、UGCプラットフォーム全体に共通する懸念事項だが、インスタカートのジョーンズ氏が指摘したように、すべての広告主にとってつねに同じ量の苦痛をもたらすわけではない。「ブランドの安全性は我々にとって重要な検討事項であり、チャネル上のどのキャンペーンでも最前線にあるものだ。でもそれは、これまでもそれほど重要な問題ではなかったし、特定の課題に直面したというようなものでもない」。
媒体費や利用可能なツール、プライバシーの制限とは異なり、ブランドの安全性はマーケターにとってより抽象的な障壁であり、その重要性は企業の価値観やリスクの許容度によって大きく左右される。
今後の展望:広告なしの階層の将来が広告主にとって脅威となるかもしれない
コストやブランドの安全性への懸念はさておき、広告主に迫っているより大きな脅威は、ユーザー向けの広告なしのサブスクリプションオプションである。
YouTubeやRedditといったプラットフォームは、何年も前から有料顧客に対して広告なしの独占コンテンツを提供してきた。YouTubeプレミアムは2014年に参加レーベルのミュージックビデオを広告なしでストリーミング配信するミュージックキー(Music Key)としてスタートした。2024年末までに現在のYouTubeプレミアムの加入者は2800万人近くになるとスタティスタ(Statista)は予測している。
以前はRedditゴールドだったが2018年に名称が変更されたRedditプレミアムは、会員には広告なしで閲覧できるオプションのほか、アバターギア、カスタムアプリアイコン、「ラウンジ」サブレディットページへのアクセスが提供される。スタティスタによると、2022年の時点で、Redditプレミアムのサブスクライバーは47万3000人を超えている。
Snapchatは昨年、Snapchat+と呼ばれる月額4ドル(約600円)の広告なしサブスクリプション層をリリースした。同社によると、2023年9月までにSnapchat+の購読者は500万人を超えた。同様に、Xプレミアム(旧名Twitterブルー)も2022年12月に開始されたが、Snapchat+ほどの成功は収めていない。スタティスタによると、4月時点でXプレミアムの加入者はわずか64万人だった。
Facebook、インスタグラム、TikTokなどの他のプラットフォームも広告なしのサブスクリプション層を米国以外の地域でテストしている。最近の報道によると、MetaはEUのユーザーに対し、ターゲティング広告のためにMetaが個人情報を使用することを許可しない場合、携帯電話でインスタグラムにアクセスするための月額利用料14ドル(約2100円)を請求する計画を立てている。また、デスクトップでFacebookとインスタグラムを併用する場合は17ドル(約2540円)を請求する計画もあるという。TikTokは、米国以外の非公開の場所で、広告なしの月額サブスクリプションサービスの単一市場テストを開始したと報じられている。
当然ながらソーシャルプラットフォームは依然として広告収入に大きく依存しており、ほとんどのユーザーは広告なしの体験のために追加料金を支払いたいとは思っていない。しかし、広告なしのサブスクリプション層の広告主にとってのリスクは、より高額なラグジュアリープランに加入する余裕があって喜んで金を支払うことができるユーザーを失う可能性があることだ。皮肉なことにこの重要な層は、金を払ってまで避けようとしているオンライン広告に反応する可能性がもっとも高い消費者で構成されている。
スポンサードの投稿を通じてこれらのオーディエンスにリーチする能力が低下しているため、ブランドページを通じてソーシャルプラットフォーム上で自然なエンゲージメントを生み出すことが必要不可欠となるだろう。オーガニックなエンゲージメントの潜在的な成長ポケットは、インスタグラムがXに対抗するために最近リリースしたテキストベースの会話アプリ、Threads(スレッズ)にある。しかしブランドは今もなおこのプラットフォームを探っている最中であり、それを最大限に活用するための戦略を開発しているところだ。
最近のGlossy+リサーチの調査では、ブランドやエージェンシーの47%がThreadsのマーケティングの可能性について確信を持っていないことがわかった。だが、その可能性について否定的な意見(回答者の24%)よりも肯定的な意見(回答者の29%)の方が多い。デジタルマーケティングエージェンシー、クラウド(Croud)の有料ソーシャルアカウントディレクター、ダニエル・カーター氏は次のように言う。「人々(マーケター)がThreadsでの戦略を決定するには時間がかかるだろう。現時点では正解も不正解もなく、マーケターはThreadsに慣れようとしている最中だ」。
このプラットフォームでの収益化や広告についてはまだ言及されていないが、近いうちにThreadsにも導入される可能性が高い。広告なしのサブスクリプション層も伴うかもしれない。
Threadのリリース後、ユーザー登録が大幅に減少したことも注目すべき重要な点だ。このアプリが消費者の維持に苦戦しているため、ブランドは流出には加わっていないが、慎重にことを進めている。広告代理店エスケープポッド(The Escape Pod)の最高戦略責任者であるタイラー・ムーア氏は、「クライアントに対しては、この新しいプラットフォームでは予想外のことが起こることを予期するように伝えており、エンゲージメントが低下するにつれて、それを引き続き注視している」と述べた。「このプラットフォームはユーザーとFacebookによって定義されつつあることがわかっているので、我々はThreadsを捨ててはいない」。
Threadsでも明らかなように、ソーシャルメディアの状況は新しいアプリや機能が次々と登場し、これまでもつねにそうだったように、急速に進化している。ブランドのマーケターは、顧客とエンゲージメントする能力という点でソーシャルプラットフォームに引き続き価値を見出しているため、多くのプラットフォームに投資し、活用し続けており、それぞれに対して固有の戦略を進化させている。オーディエンスと広告機能が進化するにつれて、各プラットフォーム用に異なるコンテンツを創出することが、今後も重要な役割を果たすことになるだろう。
[原文:CMO Strategies: The key metrics and challenges behind each social platform - from Instagram to X]
DANIA GUTIERREZ(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)