本格カレーブームの先駆けとして知られる、南インド料理の名店「エリックサウス」総料理長の稲田俊輔さん。グルメエッセイや小説でも知られている稲田さんの最新作『お客さん物語ー飲食店の舞台裏と料理人の本音ー』(新潮社刊)では、飲食店をもっと楽しむためのヒントとコツが紹介されています。

大人気料理店の総料理長に聞いた!「おひとりさま」飲食

今回は、稲田さんに飲食店とお客さんの両方の立場から見た「おひとりさま」など、貴重なお話をたっぷり伺いしました。

●おひとりさまは「100%料理を楽しんでくれる人」でもある

――著書『お客さん物語―飲食店の舞台裏と料理人の本音―』では「ひとり客のすゝめ」として、“お店の人”の立場から、1人客を歓迎してくれるのか? など書かれ、「おひとりさま」飲食の無限の楽しみ方が書かれていますよね。しかし、なかには「人の目が気になる」など、おひとりさまのハードルを高く感じている方も多いのかなと思いますが、いかがでしょうか?

稲田俊輔さん(以下、稲田):僕は昔から、女性が1人で入れる店というのが1つの目標みたいになっていました。最初の方は、それこそ「あ、かっこいいな」とか思っていましたが、今となっては自分にとって「日常の光景」になりすぎてしまって、もはやなにも思いません(笑)。自分の店だけでなく、世間全般で増えてるから、とくになんとも思わなくなってますよね。

――たしかに、おひとりさま歓迎の表示や、1人客に特化した飲食店も増えましたよね。

稲田:僕の知り合いが言っていたのですが、会食とかでいいお店に連れていってもらったら必ずあとから1人で行くんだそうです。そうしないと、料理そのものは楽しめないと言いきっていました。

せっかく味が評判の店に行っても、会話も料理も同時に楽しむというのはやっぱり無理なんですよね…。どちらかがどうしても犠牲になってしまいます。そういう意味では、1人というのは料理を楽しむためにはどう考えてもベストの選択だと思うんです。

お店からしても、100%料理を楽しんでくれる人、完全に料理を目的に来てくれている人なわけなので、うれしいところがほとんどだと思いますよ。

●1人モードとお母さんモードを使い分ける

――ESSEonlineの読者世代だと、「家族」で外食をする人も多いのですが、家族向けのお店の選び方はありますか?

稲田:根本的な話でいうと、飲食店もご家族連れや小さいお子さんたちに対しては、守ってあげたい、大切にしなくちゃ、と思っています。ただ、そのお店のシステムやコンセプトによっては、そうはできない事情もある。そこはお客さんの方が見定めるしかないかもしれません。

また、実用的なことで言うと、どうしても都会に行けば行くほど、小さいお子さんやファミリー向けは難しかったりします。エリア性というのはどうしてもありますから、郊外の方が見つかりやすいです。自分の駅の周りにそういうお店がないなら、2、3駅下ってみてもいいかもしれません。ファミリー層地域でおいしい店が見つかったら、その周辺で芋づる式にいいお店が見つかるはずです。

――だからこそ「ソロ活」の一環として、おひとりさまが楽しめるお店を探してみるのもいいですね。

稲田:ご夫婦でも奥さんの方だけソロ活するみたいな話も結構聞くし、僕もそうあるべきだと感じています。家族だから一緒に出かけなければいけない、女性だからお子さんの面倒を見なければいけないみたいなことも、幸い最近取り払われつつあります。

ファミリーという単位の中にいる人であっても、やっぱり1人の時間を大事にしていいし、家族でいく店と1人で行く店って自ずと違ってくるから、倍楽しめばいいのではないかと。昔の価値観はもちろんまだ残っているけれど、確実に変化しつつあるでしょう。1人モードとお母さんモードを使い分ければいいだけだと思います。

失敗は織り込みずみで、ぜひいろいろな店を体験してみてください。もし、「マスター、久しぶり、いつもの」みたいな、常連客が多くてカウンターが濃すぎてあまりにもいたたまれないときは、「あ、電話がかかってきちゃった」とか言って退散してもいい。ぜひ、皆さんなりの飲食店の楽しみ方を見つけてみてください。