アメリカのお菓子といえば、「甘い」「色が派手」というイメージをもつ方も多いかもしれません。でも、じつのところ、素朴なお菓子がたくさんあるんです。そして、日本人の口にもよく合う味だったりします。『アメリカ菓子図鑑 お菓子の由来と作り方』(誠文堂新光社刊)を上梓した菓子文化研究家の原亜樹子さんに、アメリカ菓子の魅力について教えてもらいました。

飾らないおいしさが魅力!アメリカの伝統のお菓子をつくってみない?

広大な国土を有するアメリカ。その地に根づく菓子のおいしさだけでなく、背景にある物語まで丁寧にわかりやすく伝えているのが「図鑑」と銘打った『アメリカ菓子図鑑 お菓子の由来と作り方』。

本書では、アメリカ全50州を6つのエリア(北東部<ニューイングランド>、北東部<中部大西洋岸>、中西部、南部、西部<山岳部>、西部<太平洋岸部>)に分けて、115品もの郷土菓子や名物菓子を紹介しています。

●自分が「おいしい」と感じるレシピでつくるから、おもしろい!

「アメリカ菓子っておもしろいのですよ。広い国内には、さまざまなバックグラウンドの菓子が混じり合ったり、独自性を保ったりしたまま存在していて、本当に多彩。またつくり方も材料も“こうあるべき”という決まりごとがほとんどなく、個性豊かであるところにも心惹かれます」(原亜樹子さん・以下同)

たとえば代表的なアメリカ菓子「チョコレートチップクッキー」ひとつとっても、プレーン生地のほかにチョコレート生地を使うこともあれば、溶かしバターを使う人もいれば植物油でつくる人もいる。手のひら大のビッグサイズがある一方で、ひと口サイズもあって、食感もサクサクから歯応えのあるものまで、じつにさまざま。

そんな「おいしさの正解は自分次第」というのびやかな考え方は肩の力が抜けていて、気楽にお菓子づくりが楽しめそうですてきです。ヨーロッパ菓子との大きな違いのひとつかもしれません。

定番の菓子「キャロットケーキ」と「バナナブレッド」

アメリカの家庭では、手間のかからないチョコレートチップクッキーやオートミールクッキーなどの「クッキー類」、ブルーベリーやコーンミールなどを使う「マフィン」、バナナブレッドなど膨張剤で膨らませる無発酵の「クイックブレッド」、旬の果物にクラムやビスケットをのせて焼き上げる「クランブル」や「コブラー」といった菓子がよくつくられます。

「日本でも定番のキャロットケーキやバナナブレッドは、アメリカでは家庭でもカフェでもベーカリーでも楽しめます。キャロットケーキはおやつやデザートが中心、バナナブレッドは朝食にも食べられます。アメリカでは伝統的には家庭と、カフェやダイナー、ベーカリーなどのお店の菓子の違いはあまりなく、いわばプロとアマの差があいまいといえます」

●ジョージ・ワシントンのキャロットティーケーキ

18世紀、初代アメリカ大統領ジョージ・ワシントンの時代の、古風なキャロットケーキのレシピです。当時は酒場の定番メニューだったのだとか。

【材料(直径12cmの丸型一台分)】

ニンジン(皮をむき、薄い半月切りにする) 正味120g
バター(食塩不使用。室温) 65g
グラニュー糖 60g
卵(Mサイズ、室温) 1個
A[薄力粉100g ベーキングパウダー小さじ1 シナモンパウダー小さじ1/2 ナツメグパウダー小さじ1/4 塩ひとつまみ]
生クリーム(好みで)適量

【つくり方】

(1) 電子レンジ対応の耐熱容器にニンジンを入れて水小さじ1(分量外)をふる。ラップをふんわりとかけ、600Wの電子レンジで4〜5分、フォークで楽に潰せるくらい柔らかくなるまで加熱する。すぐにフォークで粗く潰し、室温において冷ます。

(2) ボウルにバターを入れてホイッパーで白っぽくなるまで混ぜ、グラニュー糖を加えて混ぜる。溶いた卵を数回に分けて加えて混ぜる。

(3) (2)に合わせたAの半量をふるい入れ、シリコンベラで練らないように混ぜる。粉が少し残っている状態で(1)を加え、残りのAをふるい入れて混ぜる。

(4) オーブンペーパーを敷いた型に生地を流し入れ、中央を少しくぼませるように整える。ナイフで中心に十字に切り込みを入れ、180℃に予熱したオーブンで35分、竹串を刺して生の生地がつかなくなるまで焼く。型のまま網に取り、10分ほどおいて粗熱をとり、型からはずす。

 

★ポイント

好みで泡立てた無糖の生クリームを添えて食べる。

 

●バナナブレッド

バナナブレッドはアメリカ全土で定番のクイックブレッド。パイナップルを加えて焼き上げた「ハワイアンスタイル」のレシピです。

【材料(16×9.5×高さ7cmのローフ型一台分)】

バナナ(完熟) 正味150g
A[卵(Mサイズ、室温)1個 ブラウンシュガー、またはきび砂糖50g 植物油(太白ごま油など)65g]
B[薄力粉120g ベーキングパウダー小さじ1 塩小さじ1/4]
C[パイナップル(缶詰、大豆大に切る)60g クルミ(ローストして粗く刻む)40g]

【つくり方】

(1) ボウルにバナナを入れてホイッパーで潰してピュレ状にし、Aの材料を順に加えてすり混ぜる。Bをふるい入れ、シリコンベラで練らないように混ぜる。粉が少し残っている状態でCを加えて混ぜる。

(2) 植物油(分量外)を塗った型に生地を流し入れ、シリコンベラで中央を少しくぼませるように整える。ナイフで中心に縦1本に切れ目を入れる。180℃に予熱したオーブンで35分、竹串を刺して生の生地がつかなくなるまで焼く。型のまま網に取り、粗熱が取れたら切り分ける。

炭酸飲料コーラを用いるユニークな「コーラケーキ」

発想力の豊かな人が多いアメリカでは、「わー、おもしろい!」と感じ入るユニークなお菓子に出合うことがしばしばあるそうです。

「たとえばクッキー生地にポップコーンやポテトチップスを混ぜ込んだり、ゼラチンの代わりにマシュマロを使ったり。生地にトマトスープを混ぜ込んだケーキもあります。身近な食材をお菓子に混ぜ込むのですね」

アメリカの食文化で欠かせない炭酸飲料の大きな一角をなすコーラも、菓子づくりによく使われます。なかでも生地にもフロスティングにもコーラを使う、チョコレート風味のコーラケーキは広く知られている菓子です。

●コーラケーキ

1990年代、南部テネシー州発のレストランチェーン「クラッカー・バレル」がメニューに掲載して全国に広がったとされる南部生まれのケーキです。

【材料(12cm角の角型1台分)】

<生地>

A[バター(食塩不使用)45g ココアパウダー(無糖)小さじ2 コーラ45g 薄力粉50g グラニュー糖45g]
B[卵(Mサイズ)1/2個分 プレーンヨーグルト15g 牛乳小さじ2 重曹小さじ1/5 バニラオイル少々] 
ミニチュアマシュマロ20g

<フロスティング>

バター(食塩不使用) 15g
ココアパウダー(無糖) 大さじ1
コーラ 大さじ1
粉砂糖 65g

【つくり方】

(1) <生地>小鍋にA(ココアパウダーはふるう)を入れてミニホイッパーで混ぜながら中火にかける。フツフツと沸いたら火からおろす。

(2) ボウルに薄力粉をふるい入れ、グラニュー糖を加えてホイッパーで混ぜる。(1)を注ぎ、滑らかになるまで混ぜる。

(3) 別のボウルにBを入れてホイッパーで滑らかになるまで混ぜ、(2)に加えて混ぜる。ミニチュアマシュマロを加え、シリコンベラで滑らかになるまで混ぜる。

(4) (3)をオーブンペーパーを敷いた型に流し入れて平らにならす。180℃に予熱したオーブンで20分、竹串を刺して生の生地がつかなくなるまで焼き、網に取る。型からはずさない。

(5) <フロスティング>ケーキが焼き上がる直前につくり始める。小鍋にバターとココアパウダー(ふるう)、コーラを入れて中火にかける。バターが溶けたら火からおろす。ふるった粉砂糖を加え、ミニホイッパーで艶が出て滑らかな状態になるまで混ぜる。

(6) 焼き立ての(4)の上に、(5)をすぐにのせる。型ごと傾けて表面に均一に広げる。フロスティングが固まったら、ペーパーごと型からはずす。

 

★ポイント

マシュマロのサイズが大きいときは、バター(分量外)をナイフの刃先に塗りながら小指の先程度のサイズに切って使う。

本書を読んでいると、アメリカの市井の人々の暮らしに紛れ込んだような、そんなワクワクとした楽しさも体験できます。おいしいお菓子と一緒に旅行気分まで味わうこともできそうですね。