NFT などのブロックチェーン技術に注力。小売業は悪化する経済状況にどう取り組んでいるのか?【リサーチブリーフィング】
小売業者は消費者へのリーチを目指しテクノロジーを活用した体験的アプローチを採用
多くの小売業者は、労働者のストライキやインフレ上昇による北米の消費減速などの厳しいマクロ経済状況に直面している。ファストファッション小売業者のH&Mは、9月27日の決算報告で売上高が横ばいであることを報告。H&Mよりも高級と考えられているザラ(ZARA)でさえも、現在値上げを行っていない。
ナイキはイノベーションとブランドストーリーテリングに注力して、中国で成功を収めている。たとえば、ナイキチャイナ(Nike China)は、今年ディープフェイク技術を使って、同国でもっとも有名なアスリートたちの若いときを描いた旧正月の広告を掲載した。ほかの多くの小売業者も、消費者、特にZ世代の若い購入客にリーチするために、テクノロジーを駆使した体験型アプローチを取り入れている。その中には、セフォラ(Sephora)があり、同社は毎年最大の美容イベント「セフォリア(Sephoria)」の復活を発表した。
今年、セフォリアは対面イベントと仮想イベントの両方を行い、仮想現実とブロックチェーン技術を組み込む予定だ。バーチャル参加者は、自分のアバターを作成してオンラインで交流したり、セフォラの美容アドバイザーとライブチャットをしたり、ゲームをプレイしてリワードポイントを獲得することができる。参加者はまた、仮想通貨ウォレットに追加できる無料のNFT参加証明バッジ(Proof of Attendance Protocol)を受け取ることもできる。
Glossy+リサーチは、エージェンシー、ブランド、小売業者、パブリッシャーら業界専門家を対象に、NFTや仮想通貨などのブロックチェーン技術を現在どのように利用しているかを調査した。業界専門家の64%がブロックチェーン技術を使うもっとも一般的な理由は、NFTのためだと回答した。
セフォラのセフォリアイベントのアプローチと同じように、回答者の大多数(81%)がブランド認知のためにNFTを使うと回答し、半数以上(64%)が新たな収入源としてNFTを使うと回答した。企業はNFTによってブランド認知度が高まり、収益が増加することを期待しているが、これは長期的な技術戦略というよりは、当面の世間の認知度を高めるための短期戦略として採用されている傾向がある。セフォリアのビューティイベントは新規顧客を惹きつけて、できれば長期的なロイヤルティを促進することを狙っている。
ブランドに関する話題や認知度をすぐに向上させるためにNFTを使うことのマイナス面は、企業にとって消費者の関心を継続的に維持するのが難しい点である。セフォリアイベントは、対面イベントと仮想イベントを組み合わせたり、持ち帰り用グッズや仮想トークンを組み合わせて、参加者が関与し続けられるように試みている。
重要なポイント:
• 回答者の64%によると、ブロックチェーン技術のもっとも一般的な用途はNFTである。NFTが潜在的な用途のリストのトップに浮上したのは、企業が、消費者にとってもっともわかりやすい側面を前面に打ち出して、NFTをデジタルアート作品や収集品として消費者に向けて容易にマーケティングして販売できるからである。
• 企業は主にブランド認知度の向上を狙ってNFTを使っている。NFTドロップは、注目を集めるヘッドラインを作り出し、その過程で新たな収益を生み出す可能性があるために、研究開発費を費やせる大企業にとっては手っ取り早い方法となり得る。
デジタルファッションを取り入れARに賭けるファッションブランドの増加
デジタルファッションブランド兼スタジオのザ・ファブリカント(The Fabricant)は、Web3プラットフォームのコーナーストーン(Cornerstone)での最新ローンチで、AIを活用したオートクチュールファッションを披露している。ザ・ファブリカントは「プライマル・レイブ(Primal Rave)」コレクションと、それに対応する「ホールランド(Wholeland)」という仮想現実体験を導入。この動きは、収益性の高い革新的なデジタルファッションの実現に注力する同社の取り組みの一環である。
9月28日のコーナーストーンの体験では、参加者はデジタル環境内で対話したり、衣服を購入することができる。それぞれの購入には、3Dファイルとその服を取り入れた没入型でインスタグラマブルな拡張現実(AR)体験が付いてくる。衣服は、9000を超えるゲームやデジタルエクスペリエンスと互換性のあるレディプレイヤーミー(Ready Player Me)アバターが着用することができる。
ザ・ファブリカントによるインスタグラマブルなARの使用は戦略的な動きだ。Glossy+リサーチによると、現在はMeta所有のプラットフォームがAR環境を支配している。Metaのインスタグラムは主要なARホストプラットフォームであり、ARを使用しているリサーチ回答者の64%がインスタグラム用のARコンテンツを制作していると回答している。Snapchatはこれまでサードパーティプラットフォームの中で1位の座を保っていたが(全体では2位)、全体で5位に下がった。Snapchatを使っているのはマーケターの30%だ。
Glossyが2017年に初めてマーケターを対象に調査を行ったとき、マーケターは 2022年と比べてARの使用にそれほど関心を示していなかった。2022年にはマーケター回答者の38%がARを使っていると回答しており、2017年の23%から15ポイント増加している。6年前にARを使っていたマーケターは、「ARをエンターテイメント(39%)と情報リソース(36%)として、ほぼ同じ割合で使用」していた。(当時は)テクノロジーが成熟し、日常的なデバイスに(たとえばスマートレンズなど)にさらに浸透するにつれて、情報源としてのARの使用がエンターテイメント目的よりも主導権を握るだろうとと予想されていた。
しかし、これは、ARを情報リソースとして使うマーケターには当てはまらなかった。2022年、マーケターがARを使用する最大の理由は依然エンターテイメントだった。ソーシャルメディア/カメラフィルターが1位であり、ARテクノロジーを使っているマーケター回答者の74%がそれらの理由からARを使っていると回答している。これは、ARが依然として消費者に購入を促したりユーティリティを提供するためではなく、主に話題を生み出すためのマーケティングツールとして使われていることを示している。
重要なポイント:
• AR環境は、現在、Metaに支配されている。Metaのインスタグラムは主要なARホストプラットフォームであり、ARを使用するリサーチ回答者の64%がインスタグラム用のARコンテンツを制作していると回答している。
• マーケターがARを使う最大の理由は依然としてエンターテイメントである。ソーシャルメディア/カメラフィルターが1位だ。ARテクノロジーを使用しているマーケター回答者の74%がこれらの理由でARを使用していると答えた。
[原文:Research Briefing: Retailers tackle worsening economic conditions by leaning into blockchain technology like NFTs]
DANIA GUTIERREZ(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)