ネコはリラックスしている時などにのどを「ゴロゴロ」と鳴らしますが、その仕組みは正確には明らかになっていませんでした。そんな中、学術誌のCurrent Biologyに掲載された新しい論文が、このメカニズムを解き明かすことに成功しています。

Domestic cat larynges can produce purring frequencies without neural input: Current Biology

https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(23)01230-7



We now know how cats purr-why they purr is still up for debate | Ars Technica

https://arstechnica.com/science/2023/10/we-now-know-how-cats-purr-why-they-purr-is-still-up-for-debate/

ネコがのどを「ゴロゴロ」と鳴らすことはよく知られていますが、他にもアライグマやマングース、カンガルー、アナグマ、ウサギ、モルモットなどものどを鳴らすような音を発することがあります。そして、ネコ科動物はのどをゴロゴロ鳴らすネコ亜科と、のどを鳴らすのではなく吠えるヒョウ亜科に大別することが可能です。のどを鳴らすこととと吠えることを両方できるネコは存在しておらず、後者のカテゴリにはライオンやトラ、ジャガー、ヒョウなどが含まれるそうです。

そんなネコ科動物の咽頭の構造を、オーストラリアの科学者チームが調査しました。この調査により、ネコ科動物の咆哮能力は、咽頭の舌骨の不完全な骨化によるものであること判明しました。これに対して、ゴロゴロ鳴く能力を持つネコ科動物は、完全に骨化した舌骨を持っています。



ネコがゴロゴロ鳴く際、1秒あたり20〜30回の振動を発し、ゴロゴロ音の周波数は最大で約150Hz程度になるといわれています。一般的に、体の大きな動物は声帯が長いため、より低い周波数の音を発するのに対して、ネコは比較的小さな体をしており声帯も比較的短いため、解剖学的構造に基づけばより高い周波数を発するはずだそうです。それにもかかわらず、ネコの発するゴロゴロ音は低周波であるという点に、研究者たちは注目しました。

ネコの発するゴロゴロ音については、「心臓の右側にある太い静脈を通って流れる血液がゴロゴロ音を引き起こす」とする乱流血液理論や、「声帯に触れる咽頭部分の筋肉を収縮させ、息を吸ったり吐いたりする時に柔らかな低周波のゴロゴロ音を発生させる」という理論などが提唱されてきました。

そして最も広く信じられてきた仮説が、ネコの発するゴロゴロ音は神経によって引き起こされる筋収縮によるものであるという能動的筋収縮(AMC)論です。しかし、このAMC論はほとんどの哺乳類が咽頭内の組織の自立振動を介して音声を発するという、筋弾性空気力学(MEAD)論に反するものです。また、AMC論を証明するような実証的証拠はほとんど存在しませんでした。



そこで、研究チームはAMC論が正しいのか否かを検証するために、末期疾患を患って安楽死させられた8匹のネコの咽頭を切除しました。切除した咽頭はすぐに液体窒素で急速冷凍され、マイナス20度で保管され、実験前夜に室温までゆっくりと解凍されています。各咽頭は洗浄したのち写真撮影され、湿度100%の過熱空気を通されました。

その後、咽頭はレゴブロックと3Dプリントしたプラスチックマウントを使用して固定され、ミニ電極を両側の甲状軟骨にひとつずつ取り付け、声門造影信号を記録。空気を供給するための磁気バルブを徐々に開閉すると、空気が送り込まれて声門下圧が制御され、取り付けられた咽頭が振動するそうです。なお、8つの咽頭サンプルのうちひとつは組織学的分析が行われており、もうひとつはCTスキャンされています。



研究チームは咽頭を切除した際、隣接する筋肉がすべて除去されていたと仮定して、筋肉の収縮なしで切除した8つの咽頭すべてで空気を送り込むことでのどをゴロゴロと鳴らす音を再現することに成功しました。また、研究チームは声帯に埋め込まれた結合組織がネコのゴロゴロ音の周波数を下げる役割を果たしていることも見つけます。つまり、ネコは他の哺乳類が発声するのと同じMEAD論ベースのメカニズムで、のどをゴロゴロと鳴らしていたことが明らかになったというわけです。

研究チームは今回の発見によりAMC論が完全に誤りであると証明されたわけではないとしており、「単にAMC論を改訂する必要があるというだけです。2つの理論(AMC論とMEAD論)の組み合わせにより、ネコは低周波のゴロゴロ音を発する可能性があります。いつものようにさらなる研究が必要ではあるものの、MEAD論ベースの声帯振動により、活発な筋収縮の神経入力がなくても低周波のゴロゴロ音を発することができることが明確になりました」と延べています。

なお、ネコがなぜゴロゴロ鳴くのかについては依然として議論が続いています。母ネコは通常、授乳中や子ネコを安心させるためにゴロゴロとのどを鳴らします。そのため、ゴロゴロ音を発することで、子ネコの脳内にホルモンが放出され、リラックスしたり痛みを和らげたり治療を促進したりするのではないかと考えられています。

これに対して、人間にエサを求める際などにネコが鳴らすゴロゴロ音には、一般的なネコのゴロゴロ音には含まれない高周波要素が含まれることが明らかになっています。この人間を誘うゴロゴロ音を聴いた人は、一貫して音を不快とは感じておらず、緊急性が高いと評価しています。