「ロマンスカーミュージアム」で3回に渡って行われた「名鉄・西武・京成×小田急社員による車両開発トークショー」。各社の看板特急について、車両担当者が対談しました。2回目は小田急×西武を紹介します。

震災で実感したロマンスカーの存在

「ロマンスカーミュージアム」(神奈川県海老名市)では2023年7月30日、8月5日、12日の3日間、小田急電鉄、名古屋鉄道、西武鉄道、京成電鉄の特急車両担当者によるトークショーが開催されました。各日ごとにテーマが設定され、それぞれ小田急電鉄とほか1社ずつが対談。2日目は「最新の特急形車両」をテーマに、西武鉄道と「GSEとラビューにまつわる開発秘話」について語られました。


小田急70000形ロマンスカー「GSE」と西武001系「ラビュー」(安藤昌季撮影/写真AC)。

「ロマンスカーミュージアム」の高橋孝夫館長が司会を務め、小田急電鉄 運転車両部 課長の岩崎哲也氏と、西武鉄道 鉄道本部車両部 車両司令長兼車両部車両課 マネージャーの山下和彦氏が対談しました。

 小田急の70000形ロマンスカー「GSE」は、2018年3月に登場。展望室を設け、主に新宿〜箱根湯本間を走るフラグシップ車両です。岩崎氏は「GSE」を、通勤特急にするのか、観光特急にするのか、ホームドア対応をどうするのかなど、コンセプト作りを担ったといいます。

「ロマンスカーの存在を強く実感したのは、東日本大震災後でした。運行再開時に、箱根町の旅館組合など多くの方々がロマンスカーを出迎えてくれたのです。常に大切にしてもらえる車両をデザインしよう、というのが『GSE』の原点です」

「設計を始めたのは2013(平成25)年ごろ。30年以上使われた『LSE』の老朽化が進んでいたので、代替することになったのです。設計側としては、会社のゴーサイン以前から、どうしようか考えていました」(岩崎課長)

なぜ「ラビュー」は001系になった?

 一方、2019年に登場した西武鉄道の001系「ラビュー」は、主に池袋〜飯能・西武秩父間を結ぶ特急車両です。2023年現在も西武新宿〜本川越で活躍する10000系「ニューレッドアロー」の後継車両として誕生しました。山下氏は「ラビュー」について、以下のように語ります。

「『ラビュー』は、次の100年に向けた車両として001系と名付けました。最初のコンセプトは『世界のどこにもない、新しい車両』。従来の特急の『スピード感』『豪華な設備』から考え方を変えたのです。外国人にも乗って頂けるような車両を重視しています」


小田急電鉄 運転車両部 課長の岩崎哲也氏(左)と、西武鉄道 鉄道本部車両部 車両司令長兼車両部車両課 マネージャーの山下和彦氏(2023年8月5日、安藤昌季撮影)。

「『こんな列車があったら』と夢のある車両とし、駆け抜ける姿が違う『どこにもない、唯一の特急』として、非日常感を感じて頂きたいと考えました。ですから『列車自体が目的地となる、乗りたい列車』として『のんびり、ゆったり』を重視したのです」

「世界中の特急を調べ、ないものを作ることにしました。お客様の立場に立つために、社内に『素人』のチームを作り、グッドデザイン賞など、一般に知られる賞も狙いました」

「GSE」「ラビュー」の開発苦労話

 続いて車両開発時のエピソードを、岩崎氏も山下氏も熱を込めて語りました。まずは「GSE」についてです。

「お客様アンケートを踏まえ『心を動かすロマンスカー』をコンセプトとしています。『GSE』では定員400名を確保するため、客室を広く取れるボギー台車を採用しました。ホームドア設置を踏まえて、側扉位置を一般車と揃えています」

「苦労したのは展望車。見通しを考え、荷物棚を設けませんでした。この場合『どこに荷物を置くのか』が問題となります。ヒーターを工夫し、座席下に航空機並みの荷物を入れられるスペースを確保しました」(岩崎課長)


ラビューをデザインした妹島和世氏(2023年8月5日、安藤昌季撮影)。

 次に「ラビュー」について山下氏は以下のように話しました。

「初期デザインでは、窓ガラスも車体と一体でした。社内では『ロケット』『ボラギノール』『ナマズ』『本当に作れるのか』といった意見が出ました。メーカーからは『実現は難しいが、挑戦したい』との意見を頂き、私は『実現すれば成功する』との確信を持ち、妹島デザイン事務所と詳細部分の確認を重ねて、実現に向けて動きました」

「また『風景が写る塗装』とはどんな塗装なのか検討を重ねました。一見銀色に見えますが、何層も重ねてあの色を出しています。距離や明るさごとにどう見えるか、空などの色が写りこむか、確認したのです。デザイナーの妹島和世先生は『電車の外観には字や絵がない方がいい』とおっしゃいました」

「難しかったのは前頭部です。ラビューではアルミの塊を85%ほど削り、真円に近い形にしました。より困難なのは、その前頭部に合った真円のガラスです。20〜30枚作って、1枚しか使い物にならないのです」

「車内は、妹島先生の『西武は黄色』を反映しました。側窓上の荷物棚は、弊社(必要)と妹島先生(不要)とで意見が分かれ、結局ガラス製の透明なもので存在感をなくしています。側窓は妹島先生が『窓と車体の色を同じにしてほしい』と要望されましたが、ガラスを着色するわけにもいかず、縁にドットを付けています」

ワイパーはフランス製という共通点

 トークショーの最後は、両社がお互いに質問する時間に。小田急電鉄の岩崎氏が「『ラビュー』の丸い前面ガラスのワイパーは苦労されなかったのですか」と質問します。

 西武鉄道の山下氏は「ラビューの前頭部窓は、半径1.5mのガラスをくりぬいたものです。日本ではワイパーが作れず、フランス製を採用しました。空気式の強力なものです。壊れたら部品取り寄せも大変ですが、これしか拭けるものがありません」と返答。

 岩崎氏は「『VSE』も当初フランス製ワイパーでしたが、後に日本製へ変えています」と解説しました。


ロマンスカーミュージアムにて(2023年8月5日、安藤昌季撮影)。

 山下氏からは「展望席を実現する技術が興味深いです。床下など低くなっており、技術的な課題はどうなのでしょうか」と質問が出ます。

 岩崎氏は「展望席設置で苦労するのは『高さ制約』です。身長1.5〜1.9mの人が乗務できるよう、床下の車輪を860mmから810mmに縮小し、空間を確保しました」と回答しました。

 さらに山下氏は「ロマンスカーには座席の真ん中に中間肘掛けがないですよね。どんな意図なのですか」と質問。岩崎氏は「ロマンスカーは、2人掛けで座席を共有しているロマンスシートを車内に取り付けたことがスタートです。肘掛けを付けるとロマンスシートではなくなってしまうので、伝統を守っています」と答えました。

 なお、筆者(安藤昌季:乗りものライター)が山下氏に「ラビューはなぜ地下鉄直通仕様なのですか」と質問したところ、山下氏は「西武の車両は今後、基本的に地下鉄に直通できる仕様にするという方針です」との返答を頂きました。