富山〜長野県境の秘境地帯・黒部ダムへの観光ルートに新たに「黒部宇奈月キャニオンルート」がまもなく誕生します。今回、一足先にここを体験してきました。

「行き止まり」の黒部峡谷鉄道が黒部ダムへ直結

 富山〜長野県境の秘境地帯・黒部ダムへの観光ルートに「第3ルート」がまもなく誕生します。


欅平駅から黒四発電所まで向かう専用鉄道線(乗りものニュース編集部撮影)。

 現在は富山県側の立山〜美女平〜室堂〜大観峰〜黒部平〜黒部湖(ダム西側)、さらに長野県側の黒部ダム(ダム東側〜扇沢〜信濃大町)を通り抜ける「立山黒部アルペンルート」があります。

 その北側に、魚津、黒部から宇奈月温泉を経由し、黒部峡谷鉄道で黒部川を上流へ向かう観光ルートがあります。黒部峡谷鉄道は途中の欅平駅が終点で、そこから先へは進めません。来た道を引き返す必要がありました。

 しかし、実際は関電関係者だけが通れるルートが、黒部川第四発電所を経由し、黒部ダムまでつながっているのです。少人数向けに一般人のツアーがありますが、当選するのは奇跡の確率で、幻の観光ルートでした。

 それがついに「一般開放」されます。2024年夏に開業予定の「黒部宇奈月キャニオンルート」です。開業すれば、富山を出発して、宇奈月→黒部ダム→立山→富山と「ぐるっと周る」ことが可能になります。ホテルに荷物を置いて、同じ道を二度通らずに日帰りで富山に帰って来られるのです。

 今回、一足先にここを体験してきました。

 ツアーは8時17分に宇奈月駅を出発し、黒部峡谷鉄道で欅平まで約80分。そこから「未知の世界」で、黒部ダムには12時半ごろ到着となります。

厳しい自然を全身で体感

 黒部峡谷鉄道は、黒部ダムの建設と維持管理のために作られ、1953(昭和28)年から一般開放された路線です。もちろん道中には集落は皆無で「全行程が秘境」。途中で簡素な駅がいくつかあり、ダム管理所や工事作業員が下りていきます。


欅平駅から黒四発電所まで向かう専用鉄道線(乗りものニュース編集部撮影)。

 終点の欅平駅も、深い谷だけがある秘境駅。観光客は下りると、駅舎と小さな展望台、温泉しか寄る場所がありません。しかし線路は先に続いており、ホームの先はトンネルになっています。

 さて、いよいよ「新線区間」です。欅平から工事用のトロッコに乗り換えます。といっても、500mほど暗闇を走ると、そこは終点。線路の先にはエレベーターが待ち受けています。

 このエレベーターには線路がついていて、そのまま貨車も運べる仕組みです。貨車は下の線路からそのままエレベーターで上がり、上の線路へと“直通”できます。ここで200mもの高低差を一気に稼いでおり、このおかげで、他の区間が小さな勾配で済むのです。

 エレベーターの先には新たな線路が伸びていて、別のバッテリー機関車と3両の客車が待っていました。8人がちぢこまって1つの客車に入り、いざ再出発。長さ6.5km、ガッタンゴットンと30分以上の長いトンネル移動で、日本の究極の奥地の地中を進みます。湿気がかなりあり、客車の窓には「手で動かすワイパー」が取りつけられていました。

 何分乗ったのかも忘れかけたころ、急に車内が暑くなってきます。これが「高熱隧道」区間で、地熱によって40度近い気温となります。さらに硫黄の匂いが充満し、まるで露天風呂の気分。ガイドが、黒部ダム建設現場へ必死の思いで工事用トンネルを掘り進めた歴史を説明します。

 今でこそ40度ですが、トンネル貫通前は空気の通り道が無かったので、さらに強烈な熱地獄に。掘り進める坑夫に水を掛ける役、さらにそれに水を掛ける役などがいたそうです。高熱隧道区間だけはトンネルのコンクリート吹き付けが無く、地山がむき出しにされていて、雰囲気があります。

今まで見たことない「鉄道風景」が連続

「黒部宇奈月キャニオンルート」はほぼ全区間がトンネル区間ですが、クライマックスが待っています。黒部川を渡る鉄橋上にある「仙人谷駅」です。向かって左側は遥か眼下に黒部川峡谷、右側は「仙人谷ダム」が待ち構えています。「どちらを向いても大パノラマ」の絶景で、間違いなくこのルートのハイライトと言えるでしょう。ホームには「仙人谷駅」の駅名標や時刻表も、しっかり掲示されていました。

 しばしの「運転停車」のあと、列車は「黒部川第四発電所前駅」に到着します。


「黒部宇奈月キャニオンルート」の専用軌道にある仙人谷駅(乗りものニュース編集部撮影)。

 黒四の展示館で歴史やタービンなどを見学したあと、次は「インクライン」が待ち受けています。456mもの高低差を一気に克服する全線地下のケーブルカーですが、その勾配はなんと67.4%。下から見上げるとほぼ絶壁です。徐々に昇っていくインクライン、窓から上を見れば芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のように果てしなく、下を見れば奈落の底です。乗車時間は20分間にもおよび、まさに探検隊の気分です。

 昇りきると、隣には地下道路が隣接していて、わずか自動車1台分の狭いトンネルが遥か先に伸びています。そこからバスで10.3km、長い長い地下旅行の果てに、長野県側のターミナル駅「黒部ダム駅」へ到着します。

 黒部ダム駅からは、立山黒部アルペンルートに合流する形です。扇沢まで地下を電気バスが通っていて、そこから一般道のバス路線でJR大糸線の信濃大町駅へ出ることとなります。2019年までこの黒部ダム〜扇沢には、架線で電気を取り入れてモーターで走る「トロリーバス」が走っていました。現在は、富山県側の大観峰〜室堂を走るのが、国内最後の営業用トロリーバスとなっています。

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 立山黒部アルペンルートと比べれば「秘密の抜け道」でしかない、最低限の空間の中を延々と抜けていく「黒部宇奈月キャニオンルート」。自宅でくつろぐようなゆったりした気分での移動ではなく、文明と自然が厳しく対峙した荒々しい「土木構造物」内部を行く「ガチな体験」となります。まさに非日常です。

 2024年は6月末に第1便が運行され、そこから10月末まで毎日運行予定。11月も毎日運行の方向で調整が進んでいます。水・木曜は1日2便50名、それ以外は1便20名が体験できます。

 6月末から11月末まで、受け入れ人数は8180人分にもおよびます。「当たれば奇跡の、幻の体験ツアー」だった宇奈月〜黒部ダムの関電専用ルートが、いよいよ「けっこう行きやすい」存在になります。予約開始は2024年1月です。