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 クラフトビールは自由だ。酸っぱい味、甘い味、苦い味。嬉しい日でも悲しい日でも、その日の気分に合ったビールがきっとある。漫画家、モデル、銭湯当主といった、異なる生き方をする三人にそれぞれのクラフトビールとの付き合い方を聞いてみた。

「大きな仕事を終えたご褒美に飲むちょっとリッチで特別な存在」(モデル・七海さん)

右:かわいいラベルの缶はお土産にも。左:気温が下がってきたら、道ゆく人を眺めながら外のベンチで飲むのもおすすめ

 クラフトビールは大きな仕事を終えたご褒美に飲みたくなる、ちょっとリッチな存在」と語るのはモデルの七海さん。大学進学のため岐阜県高山市から上京して東京に慣れてきた20歳の頃。スーパーで見つけたポップなラベルに惹かれて買ったのが、後に夢中になるクラフトビールとの出会いだったそう。

「何種類か飲み比べてみて、味や香りに個性があることに驚きました。それから少しずつ友人と集まってはクラフトビールを飲むように。数缶ずつ持ち寄れば色んな味を試せて楽しいし、感想をシェアしていくうちに自分の好きな味わいも掴めてきたように思います」

左から静岡WEST COAST「No Clouds,No Problem」1100円、チェリーを漬け込んだ愛知県長久手市のクラフトブルワリーTotopia「Pinkphobia」1250円 、フルーティな味わいのWEST COAST「Full Hop Alchemist」1200円

 友人が働いているのをきっかけに通うようになった三軒茶屋の『Sanity』は、缶で500種類以上、タップで常時10種類という豊富なバリエーションがお気に入り。「顔馴染みの店員さんは、私がどっしりとした味わいのHazy IPAスタイルが好みなのを覚えてくれていて、その時々に合わせたビールを提案してくれるのでいつも新しい発見があります。クリアな見た目の静岡WEST COAST『No Clouds,No Problem』は、しっかりとした苦味と飲みごたえがあって私好み!」

右:スタイルやホップの種類などは、クラフトビール好きの友達が教えてくれて覚えることができたそう。左:少し重たいボディの「YELLOW SKY PALE ALE」1130円は、メニューに記載されたボディの重さと、甘味・苦味を表すチャートを見てチョイス

 面白いデザインの缶ビールは、自宅用にジャケ買い。作り手それぞれの遊び心が伝わってくるのも面白い。同じ業界で頑張っている仲間たちと、プライベートな近況報告や仕事について話す時のお供も最近ではクラフトビール。同じ岐阜県出身で、カメラマンやヘアメイクアーティストを目指して上京した友人とはSanityから徒歩2分の『麦酒宿まり花』によく集まるそう。

ビールはすべてタップで全12種類

「全員がクラフトビール好きなので、本日の麦酒のメニューを見ながら、『これ美味しかったよ』なんて情報交換も欠かしません。今回は以前に別のシリーズを飲んで美味しかった、Y.MARKET BREWINGの『YELLOW SKY PALE ALE』にチャレンジしました。シトラスホップの柑橘感が、さわやかで一杯目にぴったりですね」

 調べてみると、Y.MARKET BREWINGは、愛知県名古屋市が拠点。
「岐阜と同じ東海地方なので、ちょっぴり親近感が湧きます。こうして自分で調べながら体感する小さな喜びの積み重ねが、私がどんどんクラフトビールにハマっていく理由なのかもしれません」

◎プロフィール
七海
モデル。2000年生まれ、岐阜県高山市出身。印象的な顔立ちでファッションからビューティーまで幅広く活躍。ライフワークとして同郷出身の同世代クリエイターたちと作品を制作し、合同写真展を実施するなどクリエイティブな一面も持つ。

●SHOP INFO

Sanity

住:東京都世田谷区三軒茶屋1-37-2 栄通りビル1F
TEL:080-3356-0671
営:16:00~23:00(土14:00~23:00、日14:00~22:00)
休:不定休
予算:1000円~
個室:なし カード:可

麦酒宿まり花三軒茶屋

住:東京都世田谷区三軒茶屋1-36-8 由上ビル1F
TEL:03-5787-5154
営:16:00~25:00(土・日・祝14:00~)
休:なし
予算:1000円~
個室:なし カード:不可

創業約90年を誇る老舗銭湯が、クラフトビビールを売る理由

東京・高円寺『小杉湯』三代目当主 平松佑介さん

 高円寺は、ビール好きには知られた街。今や首都圏に数店舗を構えるブルーパブ『ビール工房』の第一号店『高円寺麦酒工房』(2010年開業)があり、ビアパブも多いエリアだ。そしてまた、この街は銭湯好きの聖地でもある。

 1933(昭和8)年創業で、建造物が国の登録有形文化財に指定される『小杉湯』は、“きれいで、清潔で、気持ちのいい銭湯”として全国区の知名度を誇り、とくに週末は約1000人もの客が訪れる。

クラフトビールを飲む前に何をするか。その体験で美味しさは変わります

右:創業して約90年の小杉湯。ちなみに2024年に開業する商業施設『東急プラザ原宿』に『小杉湯原宿(仮)』を出店予定だ。左:「Mikkeller Visions Lager」600円(写真はイメージ。ビールはボトル、缶での販売のみ)

「クラフトビールが大好きなので、よく地元・高円寺のブルーパブ『高円寺麦酒工房』『アンドビール』などに行きます。ブルワリーならデンマーク『Mikkeller』のビールが好き。美味しいのはもちろん、渋谷の直営のタップバーで開催される、お客さん参加型のランニングイベントがいいんです。走り終わった後に、ビールで乾杯。これが本当に至福の時間ですよ」

 ビールを飲む前後の体験で、味わいの感じ方は異なるというのが、『小杉湯』三代目当主・平松佑介さんの考え。湯上がりのドリンクとしてクラフトビールを揃えるのは、そのセオリーからだ。

「銭湯通いが日常ではない現在の銭湯の意義は、“ケの日のハレ”の創出だと思います。クラフトビールは、日常にちょっとした贅沢感をもたらしてくれる飲み物ですよね。あとは不定期ですが、地元のブルーパブなどから大麦とホップの絞りカスをもらい、ネットで包んで浴槽に入れます。ビール風呂に入った後に、クラフトビールを。『なんて贅沢なんだ!』と、体験した方からも大好評ですよ」

徳島・上勝町の「RISE & WIN Brewing Co.」も扱う。「街と一緒に環境に配慮したビール造りをしていることに惹かれます」

◎プロフィール
平松佑介

『小杉湯』三代目当主。住宅メーカー勤務、ベンチャー企業の創業を経て、2016年から家業を継いだ平松さん。男湯の富士山の壁画の前で、手にしているのは『小杉湯』で販売する「Mikkeller Hop Shop Hazy IPA」600円。なお『小杉湯』で取り扱うビールは不定期で変わる

●SHOP INFO

小杉湯

住:東京都杉並区高円寺北3-32-17
TEL:03-3337-6198
営:15:30~25:30(土・日・祝8:00~、最終受付25:00)
休:木曜
料金:入浴料 大人520円、中人(小学生)200円、小人(0~5歳)100円

撮影◎黒坂明美(七海さん)、橋本真美(平松佑介さん)、文◎川端うの[FIUME Inc.]、構成◎岩谷 大(七海さん)、文・構成◎岡野孝次(平松佑介さん)